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二期生の絆

 現れたのは、ランキング第3位、武術もできる白衣の天使・藍沢エリだった。朝比奈真理とか、弱そうなメンバーを探して倒そうと決めた矢先、危険度超絶Sランク(カスミちゃん調べ)のエリに出会うあたり、どうやらあたしは運にも見放されたようだ。


 ……しかし、ヒドイなこのゲーム。ゲームバランスは最悪だし、レベルが違う相手とも容赦なくマッチング。ユーザーフレンドリーの欠片も無いけど、グラフィックだけは綺麗ときたもんだ。典型的なクソゲーだな。帰ったら、アマンゾのレビューに最低点で投稿してやる。


 ……なんて言ってる場合じゃない。どうにかしないと。


 エリは、あたしと同じ形の、ヴァルキリーズの鎧を身に着けていた。ただし、あたしの鎧がどちらかと言えば地味なシルバーなのに対し、エリの鎧は、ピッカピカの派手なブルーである。ランキング3位の称号・ゲルヒルデのみに許されたオリジナルカラーだ。そう言えば、さっき見たあたしのTAの装備の所には『ヴァルキリーズ・アーマー(ノーマル)』とあった。きっとエリの鎧は、『ヴァルキリーズ・アーマー(ゲルヒルデ)』なのだろう。もっとも、色が違うだけで、防御力は同じだろう。同じだと思いたい。同じじゃないと不公平だ。


 右手には剣を持っていた。あたしの持っている物より一回り大きい。重量があるから扱いにくそうだけど、その分、威力は高そうだ。


 さて、どうするべきか。


 エリは週2回の剣道の稽古をしている。段位は取っていないけど筋はいい。少なくとも、あたしよりははるかに強いだろう。あたしの能力が何の役にも立たない以上、勝てる見込みはほとんどない。


 では、逃げるか?


 あのエリ相手に逃げることができるだろうか? 背を向けた瞬間斬られかねない。くそう。負けを覚悟で戦うしかないのか? 剣に手を掛ける。


 しかし、エリはにっこりと微笑むと。


「良かった。めんどくさい人だったら、戦わないといけない所だった」


 そう言って、右手の剣を左手に持つ鞘にしまった。


 ……どういうことだ? 戦うつもりはないということか? いや、エリのことだ。油断したところに襲い掛かってくるつもりなのかもしれない。あたしは剣に手を掛けたまま、油断なくエリを見つめる。


「何? カスミ、戦う気?」エリが目を丸くする。「ずいぶんやる気マンマンなのね」


「……やる気マンマンって、エリはやる気ないの?」


「うーん、無いことは無いけど、でも、まだ始まったばかりだし、いきなり全力バトルってのも、ねぇ? そりゃ、カスミがやる気なら仕方ないけど。でも、出会ったら絶対戦わないといけないわけじゃないし。同期なんだから、とりあえず休戦しない?」


 本気だろうか? 確かにエリの言う通り、出会ったら絶対戦わなければいけない、ということは無いと思うけど。


「ちょっと待ってね」と、エリはウィンクをし、後ろを向いた。「おーい! 夏樹! 大丈夫、出ておいで。カスミだったよ!」


 あたしに背を向け、完全な無防備状態のエリ。どうやら、ホントに戦う気はないようだ。あたしは、剣から手を放した。


 森の茂みがガサガサ揺れ、夏樹が現れた。エリと同じように、右手に大きな剣を持っている。高杉夏樹。あたしたちと同じ二期生で、ランキングは13位。どちらかと言えば推されメンバーである。


「ふう、カスミかぁ。良かった」夏樹は笑った。「さっき向こうで愛子さんを見かけたから、緊張しちゃったよ」


 げ。愛子さんが近くにいたのか。見つかったら、危なかったな。


「まあ、反対の方に歩いて行ったから、多分もういないと思うよ」エリが言う。「カスミはどう? 誰かに会った?」


「ううん。エリたちが初めて」


「そっか。まあ、始まったばかりだもんね」


「それにしても――」と、夏樹が波打ち際に立ち、海水を両手にすくう。「この海の水も、砂も、後ろの森も、全部、本物としか思えないよね。これがゲームの世界だなんて、信じられないよ」


「だよね。あたしもビックリしたよ」


 あたしも笑い、しばらく3人で海水や砂に触れて感想を言い合った。


「ところでさ――」あたしはエリと夏樹を見る。「2人とも、能力はどうだったの?」


「それがさ! 見てよ! これ!!」夏樹が大声で言い、左手をかざしてTAを表示させた。画面に、能力の説明が表示されている。




能力名:ゴースト

 効果:あなたは死亡すると、全てのプレイヤーのパラメーターを見ることができる。能力の発動には死亡から1分必要。




 ――だ、そうだ。


「これ、ヒドくない!? 死んでから発動する能力だよ? 意味ないじゃん!」夏樹は不満をぶちまけるように言った。


「あはは。確かに。でもさ、あたしの能力も、負けないくらいヒドイよ?」


 あたしもTA開き、能力の欄を見せた。


「なにコレ? イイ感じの岩になる? 意味わかんない」夏樹が笑う。


「でっしょー! 岩になってどうしようって言うのよ!? しかもイイ感じって何!? 大事な特別称号争奪戦なのに、もう、笑うしかないよ」


 あたしと夏樹は2人で笑い合う。


「あのさ、2人とも――」と、エリが言った。何故か、呆れたような表情。「あんまり、他のプレイヤーに能力を教えない方がいいんじゃない? 一応、バトルロイヤルなんだし。メリットは無いと思うけど」


 ……あ。確かにそうだな。まあ、あたしの能力なんて、バレてもバレなくても役に立ちそうにないけど。


「そっか。エリの言う通りだね」と、夏樹。「ゴメン、2人とも、今のは見なかったことにして」


「いーえ。しっかりと覚えました」エリがイジワルな口調で言う。


「そんなぁ……」


「まあ、安心して。他の娘に言ったりはしないから。あたしたち、同期なんだし」


「そう? ならいいけど」


「そうだ!」と、あたしは声を上げる。「いっそのこと、この3人でチームを組まない?」


「チーム?」2人は目を丸くする。


「そう! チーム。この3人で戦うの! ルール上、問題はないでしょ?」


「まあ確かに、チームを組んではいけないとは言われなかったけど」エリが言った。


「いいじゃん! そうしようよ!」夏樹は、パン! と手を叩いて同意してくれた。


「うーん、ま、そうだね。そうしよっか」エリも同意する。


「よし。じゃあ、みんな、剣を出して」


「剣? なにするの?」


「いいからいいから」


 あたしが促すと、2人はゆっくりと剣を抜いた。それを頭の上にかざし、3本の剣先を合わせる。


「あたしたち3人、生まれた日は違えど死ぬ時は同じ。互いに志を同じくし、同じ目的に向かって戦うことを誓う!」


 どこかで聞いたようなことを適当に言ってみる。桃園の誓いならぬゲームビーチの誓い。2人とも苦笑いを浮かべながらも、おー! と、誓ってくれた。よし。これで、あたしたち3人は、固い絆で結ばれた仲間、戦友、同志である。3人で力を合わせて戦い、この戦いを生き残るぞ!


 が、その時。


「――ずいぶん楽しそうだねぇ。あたしたちも混ぜてよ」


 後ろから声をかけられた。


 その瞬間。


 エリの顔から笑顔が消え、鋭い目つきになる。


 今の声は、まさか……?


 恐る恐る振り返る。


「はーい。エリちゃーん。こんにちは」


 そこには、あたしや夏樹には目もくれず、後ろにいるエリに鋭い目を向けている愛子さんと、ニッコリと不気味な笑みを浮かべて手を振っているちはるさんの姿があった――。






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※お知らせ※

『アイドル・ヴァルキリーズ・オンライン~少女は、岩になる能力でセンターポジションを目指す~』は
2013/12/28をもちまして更新を終了し、
『アイドル・ヴァルキリーズ・オブ・ザ・デッド~少女たちは、ゾンビの徘徊する船上で戦い続ける~』
と統合しました。

続きは『~オブ・ザ・デッド』でお楽しみください。

『アイドル・ヴァルキリーズ・オブ・ザ・デッド』へ移動


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