彼女とは
季節は4月
桜が咲き乱れる頃のこと
俺はある分岐点に立たされたのだった
「っ・・ずっと、好き・・・・だった」
4月2日 16:35
俺は今、近くのデパートに来ている。一人ではなく二人で。
今月の4月中学1年生になる従妹のお祝いで俺は従妹:霧生舞香の買い物につき合っている。舞香とは小学2年の時に初めてあってからの付き合いでもうほとんど兄妹といってもいいくらい仲が良い。今日もお祝いだからといったっていつも通りに終わるものだと思っていた。だが、そう思っていたのは実は俺の方だけだったということに今日が終わってから気づいたのだった。思えば舞香の方から今日のこと言われたときに様子が変だったなと友達に話したら俺は友達から「激にぶちん」と言われていたのを思い出した。
一通り買い物を終えた頃には外が夕焼けに染まり始めていた。そろそろ帰ろうと言うと舞香は首を横に振り、行きたいところがあると言って歩いて行ってしまった。仕方なく舞香の後をついて行くと見慣れた公園に着いた。ここは昔舞香の家に行くたび、舞香と連れてよく遊びに来ていたところだった。舞香の家が近いため多少遅くなっても大丈夫だろうとぼんやり思った。最初は思い出話でもするのかと思っていたらそうではないらしい。公園についてから舞香は一度もこちらを見ない。声をかけても首を横に振ったり、縦に振ったりとしかしないため、俺はどうしようもなくただそこに突っ立っていた。舞香には聞こえないようにして溜息をつくと、久しぶりに来た公園をぐるっと見回しながら舞香が俺をここに連れてきた理由を考えていた。
舞香は人見しりが激しく初めて会った時はまともに顔を見せることができないほどだった。それから何度か舞香の家に行き、話しかけることでようやく顔は見せるようになった。話すようになったのはそれからまた時間がかかったけれど。理由を考えているはずが昔のことを思い出してしまいあの頃は大変だったと若干苦い顔をしていると、じゃりっという音がして回想から我に帰った俺の目の前には初めて会った時のような幼い少女はどこにもおらず、顔を真っ赤にした舞香がこちらを向いていた。舞香が正面からこっちを見るなんて珍しいなとぼんやりし、赤い顔をしているから風邪でも引いたのかと思った。そろそろ帰ろうと声をかけようと一歩足を踏み出したとき、震えないように、でも絞り出したようなか細い声が聞こえた。一瞬何が起こったのか分からず目を丸くしていたが、もう一度舞香の顔を見て今の言葉は自分に向けられたものだと分かり、急速に今の状況を理解した。そうして結局俺は一歩踏み出した姿勢のままの変な体勢でその場に固まることとなった。
*****
あの衝撃的な日から3カ月が経ち、季節は春から夏へと移り変わった。
俺は今舞香とつき合っている。
つき合っているのだが・・・・
「・・・あのな、舞香」
「・・・・?」
「あーいやなんというか・・・近くないか・・・?」
「むぅ・・・」
「や、ほら皆見てるしさ。それにほら今日は部活だろ」
「・・・部活休む」
「叔母さん心配してたよ。舞香があんまり部活のこと話したがらないから」
「・・・・・」
「な?」
「・・・・分かった。行ってくる」
「あぁいってきな」
放課後。俺の部活の終了時刻に合わせていると舞香の帰る時間が遅くなり叔母さんに心配をかけてしまうことと俺の塾の関係上舞香と一緒に帰るのは週に一度塾のない日と決めていた。それにまだ中学生で多感な年頃でもある。噂の的にされてしまったならば人見しりの激しい舞香のことだ登校拒否にでもなりかねない。そう思って決めたはずだが、舞香は不満だったらしい。俺が塾の日でも途中まで一緒に帰ると言いだして部活をたびたびサボるようになってしまった。
俺が舞香とつき合うことに決めたのは決して同情とか軽い気持ちで決めたわけじゃない。もちろんあの場で返事するには頭がついて行かなかったので多少の時間は貰ったけれども。今までは妹として見ていたから視点を変えて一緒にいれば見えなかった一面とかも見れるようになると思ったから。
「なんていうかそれさ・・・彼女に対する感じではないよな」
「・・そう、か?」
学校からの帰り道。つき合うことになってから部活をサボりがちになってしまった舞香をどうやって部活に行かせることができるのかが今後の課題だという話を友達に話していたらこの切り返しである。相手からしたら何気なく言った言葉だったのだろうが、友達と別れてからもさっき言われたことが気になりすぎてまっすぐ家に帰ろうという気にはならなかった。
「はぁー・・・」
無意識に出た溜息に思わず口をふさぎ回りに誰もいないか確認する。家の近くを歩いているわけではないが、誰が聞いてるいるか分からない。叔母様たちの噂のタネになるのは勘弁してほしい。そうしてなるべく家から遠ざかり駅前まで来てしまった。なんで溜息が出るのかって、それは
「やっぱ・・・妹、なんだよなー・・・」
気になったなんて言うのはただの言い訳で、正しくは気にしないようにしていた、だ。二度目に出た溜息は一度目より深く、罪悪感を帯びていた。