日直
これは私が13歳の冬。
木々の紅葉も大分深まってきたころ、葉っぱが落ち行く季節となった。
空には厚く暗い色をした雲がよくかかるようになり、薄暗い日が多くなる。
そんな季節
ごくごく当たり前に過ごしてきた、いつもの冬がやってきたと思っていた
その日は久しぶりに青い空が見えた
11月1日、AM7:45
-下駄箱前
「っ好きな人が出来ました!」
私はちょうど下駄箱にスニーカーを入れようとした瞬間だった。いつも通りの時間に校門を抜けて、昇降口に入りそういえば日直はいつだったのか、などとぼんやりと考えていた。頭があれ日直ってもしかして今日?とまで認識した後のことだった。
靴を持ったまま硬直した私はようやく働きだした頭で、さっき言われた言葉をゆっくり反芻しながら友人を見る。急いで走ってきたからなのか、自分の言っている言葉に対してかは分からないが頬をいつも以上に紅潮させて目は少し潤んでいた。足のほうも今にも倒れそうなくらい震えている。
いつも元気な彼女のそんな姿を見てからたっぷり3秒。
私の第一声。
「やばっ私、日直昨日だ!!!」
友人は文字通り目を丸くして、その場にへなへなと座りこんだ。この時の私はよほど間抜けな顔をしていたのだろう。
緊張しきっていた友人は場違いの私の発言にその後1分はその場から動けなかった。周りからすれば一体何してんだ?という目で見られる私たちであった。
-場所は変わって教室
「も〜唯!こっちは真面目に話してるのに!!」
あの後昇降口で動けなくなった友人を必死に抱えて教室まで連れてきた。というか大半が私の責任だったのでそうでもしないと申し訳が立たない。しかし、結局抱えて連れてくること自体あれは何があったんだと?と変な目でみられ教室に着くまで注目の的になっていたのは言うまでもない。ようやく友人を自分の席に座らせその前の席に自分の鞄を置く。朝からとんだ肉体労働だ。
「アハハハ・・・考え事してたからつい、ね」
「日直は昨日畑山とやったばっかりでしょうに!」
ちなみに本当に昨日は畑山君(同じクラスの男子)と日直を終えたばかりであった。日直は出席番号が同じ番号の人とやるので終われば次の番号の人たちに移る。つまり、私のクラスは36人なので後最低2週間は日直になることはない。どこのクラスもこんな感じで日直は回しているのだろう。最後に一つ付け加えるならば、日直は7時半までには職員室から日誌を取りに行かなければならない。
「あれということは、今日は那美が日直だよね?こんな時間に登校していいの?」
「それは相方に任せてあるからぬかりないわ」
後ろを振り向いてそう言えば、友人こと愛川那美がふっと笑って黒板に視線を動かす。私も同じく黒板の方を見れば、今日のもう一人の日直である三橋君が黒板消しを機械にかけて綺麗にしているところだった。
「那美はやらなくていいの?」
「あたしは日誌書く係、んであっちがその他をやるっていうことになってるの」
「へー(それは彼のやることの方が多そうだね・・・)」
一生懸命黒板消しを窓から手をだしてパンパンと叩いている(たぶん機械でうまくチョークの粉が吸えなかったのだろう)彼を同情の視線で見て心の中だけでエールを送った。私のエールに気付いたのか(そんなわけはない)こちらを向き那美を呼ぶ。その顔には「お前も日直なんだから仕事やれよ」と書いてあった。全くその通りなのだが、「まったくしょうがないわね」とぶつぶつ言いながら那美は立ち上がり、彼のところに向かう。きっとさっき私に話した内容をそのまま話すのだろう。彼には深く同情する。
そんなことはさておき、私はようやく自分の席に座って鞄の中から教科書やらノートやらを取り出して机の中にしまう。
忘れ物がないか確認し終わった後、ふと窓の外を見た。
そこからは校門が見えて、遅刻しそうな人たちが大急ぎで走っていく。授業に飽きた時など見ると、結構気がまぎれる。これは窓際の席の特権である。席替えするときはなるべく後ろでかつ、窓際がいい。
そんな取り留めのないことを考えていたら三橋君との会話を終えた那美が自分の席に戻ってきた。どうやらさっきの言い分を貫き通したらしく、彼を見れば今度は花瓶の水を替えに行くらしい。その背中にはしょうがない、やるかと書かれているようにも見えた。そんな彼に再度心の中でエールを送っていると、那美が背中をつついてきた。エールを送り終えてから振り返れば下駄箱前で会った時同様少し顔を赤くした那美がいた。
「それで本題よ!唯!話聞いて~もうあたしどうしたらいいかわかんないわ」
「本題?」
何の事だかわからず首を少し傾ければ、先ほどよりも顔を赤くさせて下を向きながらぼそぼそと言ってくる。
「~だっだからぁ・・・さっ・・さっき下駄箱前で言ったじゃない・・?」
「あっそう言えば・・・好きな人ができたんだっけ?」
那美の様子からようやくつながり、確認の意味を込めて聞いてみれば顔を真っ赤にしてカクンと頭を揺らす那美。その様子がいつもの彼女と違ってすごくかわいくて、微笑ましかったから、
「ふふっ“恋する乙女”はかわいいね!」
思わず笑顔がこぼれた。