始まりに
貴方に会えたあの日から・・・私は、ずっと貴方に恋をしていたのだろう。
風が気持ちよく吹き抜ける、青い空の下。在りし日の私たちもその下にいた。
「どうかした?」
物思いにふけっていた私に彼が話しかける。あの頃となんら変わらない表情で。私は首を横に振って言った。
「あの頃のことを思い出してたの。いろいろ有りすぎたあの日々を-」
『プロローグ:あいさつがわりの自己紹介』
2月14日に私はこの世界に生まれたらしいが、実際に私が生まれた日を覚えている人は少ないだろう。何故なら・・・私の両親はすでにこの世界にはいないのだから。
私の両親は駆け落ち同然に結婚し、私を産んだ。けれど、私を産んだ場所は病院ではなかったらしい。祖父母はその結婚に反対しており病院にいけば居場所がばれてしまうと危惧したのだろう。
父は天涯孤独の身で母は資産家のご令嬢、しかも婚約者までいたのに母は父を選んだ。
私を産んでから約2年間は祖父母に見つからないようにただ逃げ続けた。私はその間戸籍にのせられていなかった。
-そして事件が起きた。父母ともにトラックにはねられたそうだ。父は即死だったが母と私は生きていた。しかし、母もその数時間後に息を引き取った。
残された私に外傷はなく母が守ってくれたのだ、と言われた。
母の持ちものからすぐ身元がわかり、祖父母が呼ばれたが
「阿衣沙!なんてことだ・・・やっと見つかったと思えばこんな姿になっているとは・・・。・・・おい、阿衣沙が抱いている汚ならしい赤ん坊はいったいなんだ!」
-娘の孫を見た時の第一声がそれだった。祖父母は母を愛していたから父によく似た私を自分の孫だと決して認めなかった。そして母を失ったショックが父と私に向けられた。父と母は今別々の墓で眠っている。祖父母は父を恨んでいる。母をたぶらかしたろくでなしだといい、わめき散らしていた。
そして戸籍上、私は生まれてはいなかったため、祖父母は私を引き取らず施設に入れた。
-なぜ私がこんなことを知っているのか。母にも親友と呼べる人がいて自分達に何かあったら私を引き取ってくれるようにお願いしていたらしく、事件が起きる数日前に母から私への手紙をその人はもらっていたのだ。私が施設に預けられた後その人はすぐに私を迎えに来てくれた。
それから11年の時が流れた。私は母の親友だと言う人の元で育てられた。戸籍のこともその他のことも全部その人がやってくれた。その人は私が12歳になった時に全てを話してくれた。それを聞いた時は少なからずショックを受けた。この世に自分はひとりぼっちなのだと。
けれど、その人は言ってくれた。
「あなたは私の娘よ。誰がなんと言おうともね。阿衣沙があなたを産んで私が育てたんですもの。お母さん、ううん阿衣沙のことは恨まないでちょうだい。ただ、幸せに暮らしたかった・・それだけだったから。でも・・・あなたはあの二人のようにならないで・・・生きて、かならず幸せになるのよ」
最愛の人を失った悲しみ。
親友だった母のことは今でも心に深く残っているのだと思った。母や父の話をするときの表情は明るいけど、寂しそうな・・・でもやっぱり懐かしそうな・・・。そして私の顔を見て笑っていうのだ。
「今頃なにしてんのかしらね、あの二人は。やることなくて退屈してるに決まってる。・・・あなたはあの二人よりは長生きしてよね!」
だから私はこの時決めた。
-大切な人を守れるような人になろう、支えてあげられる人になろう。そして・・・悔いのないように生きるための強さを身につけよう。
幼い頃の決心は今でも覚えている。
私はあなたを支えてあげれた?
守ってあげれた?
私は、悔いのないように生きていた?
きっとあなたのことだから笑って「うん」って言ってくれるのでしょう。
そんなあなたを私は好きになったのだから-
次回より本編入りまーす