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『てんぐと~』  作者: あずま ときお
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第三章 結成?女子天狗党りよ・なぎさ・ゆみ!

 新田は、自宅マンションの前で、待っていた。

 腕時計を見た。九時少し前だ。

 一台の自動車が、やって来た。そのまま、通り過ぎた。新田をかすめるように。

 「うぎゃっ~!」

 新田が絶叫した。つま先を()かれたのだ。

 「関西人の運転マナーは酷いと聞いていたが……」

 と、その自動車が、二〇メートルほど先で、停車した。

 「あの野郎、ボコボコにしてやる!」

 猛ダッシュでその車に向かった新田は、運転席の脇まで来ると、右の拳を振り上げた。

 その時、運転席の少女と、目があった。ツイン・テールでセーラー服。

 運転していたのは、あやめだった。

 「あ、あやめ様……」

 突然、あやめがドアを開けた。

 「うぐっ!」

 新田は思わず股間を押さえて、上体をくの字に折って跳びはねた。

 「新田殿、朝っぱらからピョンピョンと跳びはねて、ウサギにでも取り憑かれたでごじゃるか?」

 「あやめ様がドアを突然開けるからです!」

 「これは異な事を。ドアを開けねば、降りられまい」

 「それにさっき、私の足を轢いたでしょ!」

 「はっ? 何のことでごじゃる?」

 「あやめ様、運転免許持ってるんですか!」

 「ふっふっふっ」

 「なに笑ってるんです? 無免許なんですか?」

 「これが、目に入らぬか!」

 「……」

 「これが……」

 「で、自分の胸揉んで、なにやってるんです?」

 「いや、ちょっと、胸のポケットから出てこんのじゃ」

 「で、何を出したいんです? 乳首?」

 「アホ!」

 「では、母乳?」

 「ドアホ!」

 「では……」

 「やっと出てきたでごじゃる。胸のポケットがキツキツでな」

 「キツキツ? 貧乳なのに?」

 「黙るでごじゃる! この運転免許証が、目に入らぬか!」

 「それ、生徒手帳ですけど」

 「湿気で張り付いていたでごじゃる」

 あやめは、ビニール製の生徒手帳の裏から、運転免許証をはがした。

 「この運転免許証が……」

 「はいはい、分かりましたから」

 「目に入らぬか~!」

 「はいはい」

 あやめは、もう一度、新田の顔の前に、運転免許証を突きつけた。

 「この運転免許証が……」

 「だから、分かりましたって」

 「目に入らぬか~!」

 「はいはい」

 「この運転免許証が……」

 「まだやるんですか?」

 「目に入らぬか~!」

 「もういいですって」

 「この運転免許証が……」

 「何度やれば気が済むんです?」

 「目に入らぬか~!」

 「で、何が言いたいんです?」

 「この運転免許証が……」

 「もうやめてください!」

 「目に入らぬか~!」

 「分かりました、分かりました! あやめ様は運転免許証を持っています! 無免許運転と疑ったわたしが誤っていました! ごめんなさい!」

 「分かればよろしいでごじゃる。今年の夏休みに、運転免許を取ったのじゃ!」

 「しかし、車の運転免許を持っていることが、そんなに自慢なんですかね」

 「ふっふっふっ。まだまだ子供じゃのう」

 「否定はしません。まだ十五歳ですから。ですが、気味の悪い笑い方は、やめてください」

 「運転免許は、十八歳になれば誰でも取れるというものでは、ないのでごじゃる」

 「そうですよね。お金もかかりますしね」

 「カネの問題ではないのじゃ!」

 「では、何の問題なのですか?」

 「運転免許をとるにはのう、試験に合格しなければならないのじゃ!」

 「そんなことは、知っています」

 「その試験はのう、とても難しいのでごじゃる」

 「ええっ? そうなんですか?」

 「そうなのじゃ」

 「よほどのバカか、よほどの運動音痴以外は合格するって、聞いていましたが」

 「それはウソじゃ。とても難しいものなのじゃ。なぜなら、才色兼備のこのわらわが……」

 「ずいぶん低いレベルでの兼備ですね」

 「高度に才色兼備のこのわらわが、三度目の挑戦で、ようやく合格したのでごじゃる」

 「ということは、二回落ちたんですね」

 「そうじゃ」

 「それって……、かなりのバカで、かなりの運動音痴ってことでは……」

 「誰がじゃ?」

 「いえ……」

 「誰がじゃ? バカで運動音痴なのは?」

 「あやめ様です」

 「違うでごじゃる! わらわは合格したのじゃ!」

 「はいはい。分かりました。あやめ様は、バカだけど運動音痴ではありません」

 「なぬっ?」

 「あれ? バカだけど運動音痴。運動音痴だけどバカ。正しいのはどっち?」

 「むむむ……」

 「両方正解です。あやめ様の場合」

 「どっちも間違いじゃ!」

 「まあ、その話はさておき……」

 「話をそらすなでごじゃる!」

 「はいはい。それで、そこにいるお姉さん方は誰です?」

 三人のセーラー服の女子高生が、車の脇に立っていた。あやめの車に乗ってきたのだ。

 一人は、一八〇センチはありそうな長身で、ショートヘアのやせた少女だ。

 もう一人は、身長一七〇センチくらいで、ポニーテールの色白美人だが、目つきが鋭い。

 最後の一人は、身長一六〇センチくらいで、瞳の大きなロリ顔美少女だ。

 真ん中のポニーテール少女が、口を開いた。

 「拙者は、大江山高校女子剣道部主将、三年二組、高木理世(りよ)!」

 長身少女が、続いた。

 「同じく、大江山高校薙刀(なぎなた)部主将、三年三組、吉野(なぎさ)!」

 ロリ顔美少女が、最後に口を開いた。

 「同じく、大江山高校女子弓道部主将、三年一組、早川優美(ゆみ)!」

 「か~わい~!」

 「新田殿、何を興奮しているのじゃ?」

 あやめの言葉は、新田の耳には入らなかった。

 「か~わい~。ロリ顔巨乳で、しかもアニメ声。ねえねえ、もっとなんかしゃべって。はきゅ~ん、とかさあ」

 「イヤ」

 ユミは、顔を背けた。

 「ねえねえ」

 新田が、ユミににじり寄った。

 「イヤなのはイヤ」

 「はきゅ~ん」

 新田は、声のしたほうを見た。

 なぎさが、うつむいて頬を染めていた。

 新田は気を取り直し、ユミに再びにじり寄った。

 「ねえねえ」

 「はきゅ~ん」

 数秒間、新田の動きが、静止した。だが、なぎさには目を向けなかった。

 「ねえねえ」

 気を取り直した新田が、ユミへと手を伸ばした。

 「きゃっ!」

 セーラー服の上から、巨乳をわしづかみにしたのだ。

 「貴様っ!」

 「痛っ!」

 新田の左腕から、鮮血がほとばしった。

 一歩跳びさがった新田は、りよをにらみつけた。りよの手には、抜き身の日本刀が握られていた。

 「痛いだろ!」

 「ユミに、ふしだらなことをしたからだ!」

 新田は、制服の腕をまくった。既に、血は止まっていた。だが、傷口にべったりと血糊がついていた。

 「新田殿、落ち着くのじゃ。そなたは不死身のもののふでごじゃろう。これしきのことで怒ってはならぬでごじゃる」

 「私は(もの)()ではございません。ふつ~の人間です」

 「武士(もののふ)といったのじゃ」

 「こんな奴、サムライの風下にもおけぬ」

 「まあまあ、高木殿も落ち着くのじゃ。仲間割れをしていては、鬼退治はできぬ」

 「あ~あ。この制服まで腕の部分が血だらけだ。それに、そでが切れちゃった」

 「自業自得だ」

 「そういえば新田殿、今日はブレザー型の制服じゃが、それは前の高校の制服なのでごじゃるか?」

 「いえ、この制服は変装用です」

 「変装用? どうりで間の抜けた格好だ。テニスラケットなんて肩にかけやがって」

 りよが、口を挟んだ。

 「このラケットを甘く見ないでください。ただのラケットではないのです」

 「新田殿、これから行くのは、テニスの試合ではないのでごじゃりまするぞ」

 「分かってます。吸血鬼退治でしょ。まあ、これを見てください」

 新田は、ラケットのカバーを外した。

 「普通のように見えるでごじゃるが」

 「実は、仕込み剣になっているのです」

 ラケットのグリップをつかんで引っ張ると、三〇センチほどの刃が現れた。

 「ほお。じゃが、なぜ変装なんてするのでごじゃる?」

 「当たり前でしょ。日本刀なんかを肩に担いで歩いてたら、すぐに警官に職質されちゃいます。だからこうして、テニスの練習試合に行く普通の高校生に変装しているのです」

 「日本刀を持って歩いていても、拙者は平気だぞ。職務質問なぞされたことはない」

 「東京の大都会なら、すぐに逮捕されます」

 「ほっほっほっ。新田殿、ここは東京のような野蛮な街ではごじゃらぬ。畿内の警官は市民にやさしいのじゃ。心配は無用じゃ」

 「そうですか。日本刀を持ち歩いても逮捕されない街の方が、心配な気もしますが」

 「まあよい、早く車に乗るのじゃ。こんなところで油を売っている時間はないのでごじゃる」

 「ちょっと待ってください」

 「なんじゃ」

 「吸血鬼退治には、人手が必要です。特に今回は、吸血鬼がたくさんいるんですよね」

 「そう聞いておる」

 「で、天狗党の猛者(もさ)達は?」

 「何を言っておるのでごじゃるかな」

 「だから、大江山高校には、選りすぐりの猛者達からなる天狗党と呼ばれる武闘集団があるとか」

 「たしかに、あったでごじゃる」

 「で、彼らはどこにいるのですか?」

 「冗談は、休み休みに言うでごじゃる」

 「天狗党は……、どこに……、いるの……ですか?」

 「こいつ、休み休み言ってるのか? バカにしやがって」

 「りよ、怒っちゃダメよ。まだ子供なんだから」

 「ユミ、拙者はもう怒りが爆発しそうだ」

 「新田殿、天狗党は、そなたが昨日、潰したでごじゃる」

 「ええっ? いつの間に?」

 「いつの間にじゃ、ごじゃらぬ。そなたは記憶喪失でごじゃるか? あれだけの大暴れをしておいて」

 「大暴れ? たしかに、転校生歓迎会で、ちょっとばかり暴れましたが」

 「転校生歓迎会? そんな言い方じゃと、まるで楽しい会のように聞こえるでごじゃるな」

 「たしかに、前半は楽しかったのですが、後半、矢が何本も刺さって、楽しい気分が台無しです。買ったばかりの学ランが穴だらけになって、そのうえ血で汚れちゃって。結局、廃棄処分にしました。買ったばかりなのに……」

 「じゃが、そなたは制服が廃棄処分になっただけじゃが……」

 「もうがまんできん! 新田! 貴様のせいで、きのう何人が病院送りになったと思っているんだ?」

 「さあ」

 「六十七人だ!」

 「はあ。やっぱり京男は軟弱ですね」

 「あれが天狗党じゃ」

 「ええっ? 猛者揃いじゃなかったんですか?」

 「猛者揃いだ! これ以上の侮辱は許さん! 会長! こいつをぶった切らせてください!」

 「りよ! 落ち着け!」

 今にも飛びかからんばかりのりよを、後ろからなぎさが羽交い締めにした。

 「離せ! なぎさ!」

 「落ち着くのじゃ! 高木殿! そなたは武士の娘でごじゃろう! 武士が理性を失ってどうするのじゃ!」

 「そ、そうでした。たしかに、武士はいつ何時といえども、沈着冷静でなければなりませぬ」

 「新田殿」

 「はい、あやめ様」

 「天狗党の猛者達は、全員入院しておるのじゃ。そこで急遽、女子天狗党を結成したのじゃ。それが、この三人じゃ」

 「そうだったんですか……」

 「そういうわけでごじゃる。それゆえ、この三人には手を出してはならぬでごじゃる。大江山高校の最後の猛者じゃからな。他の女子の武道部員は、心技体いずれの点でも、この三人には及びもつかぬのじゃ」

 「分かりました」

 「それでは、早く車に乗るのじゃ。途中で寄るところもあるでごじゃるしな」

 「どこです?」

 「乗ってから話すでごじゃる」

 五人は、車に乗り込んだ。

 

 * * *


 車が走り出した。ユミは助手席に乗っていた。新田は後部座席に、りよとなぎさに挟まれる形で、座っていた。

 「おい、新田」

 「なんです、りよ先輩?」

 「押してくんなよ」

 「いや、ちょっと」

 「押すな!」

 りよは、肩で新田を押し返した。

 「あの~。なぎさ先輩」

 「なに? 新田くぅん」

 「なぜ押してくるんですか?」

 「えへっ。車が揺れるからかなぁ」

 「そうですか……。では、わたしの腕にからみついているのは、なぜですか」

 「えへへっ」

 「……」

 「あっ! また揺れちゃった」

 「あうっ! 重いですよ、なぎさ先輩。なんで上にのしかかるんですか?」

 「なぎさ、おぬし何をやっているのだ?」

 「りよ、そんな怖い顔しないでよ」

 「ほーほっほ!」

 「あやめ様、どうしたんです? 突然フクロウに取り憑かれたんですか?」

 「バカ言うなでごじゃる。新田殿にも苦手なものがあったとは、驚き桃の木で思わず笑いが込み上げてきたのでごじゃる」

 「えぇ~。新田くぅん、なぎさのこと苦手なの?」

 「まあ、なんと言いますか……、自分より背の高い女性はちょっと……」

 「えぇ~。なぎさは気にしないのに~」

 「いえ、私のほうが、ちょっと……」

 「なぎさ! おぬし、こんなくず野郎といちゃつくとは……」

 「りよ、怒らないでよ。もちろんあんたの気持ちはよく分かってるけどさ……」

 「拙者の気持ち? なんのことだ?」

 「新田くぅん、昨日りよの彼氏がね、病院送りになっちゃったの」

 「ううっ。そうだったんですか」

 「彼氏? そんな言い方するな! そんな関係ではない」

 「じゃあ、親しい男性、とか?」

 「その言い方だと、もっといやらしく聞こえるぞ」

 「じゃあ、なんて言えばいい?」

 「……、例えば、お互いに尊敬し合う関係、とか……」

 「そういうわけじゃ、新田殿。昨日の一件で、そなたは全校生徒の半分以上に恨まれているのじゃ。高木殿も、その中の一人じゃ」

 「新田くぅん、なぎさは何も恨みなんてないからね」

 「あっ、なぎさ先輩、顔を近づけるのはやめてください」

 「ああんっ! 車がまた揺れちゃうっ!」

 「だ、ダメです! キスしないでください!」

 「ちょっと車が揺れただけよん」

 「あやめ様!」

 「なんでごじゃる?」

 「こんなこと黙って見ていていいんですか?」

 「なにがじゃ?」

 「今、他の女にキスされたんですよ。あやめ様の許嫁が!」

 「ええっ?」 

 「ええっ?」

 りよとなぎさが、同時に驚きの声をあげた。

 「会長、本当ですか?」

 「はっはっは。親同士が勝手に決めたことじゃ。わらわは断固拒否するでごじゃる」

 「許嫁とは……。さすが名家というべきか……」

 「吉野殿、わらわのことは気にせんでも良い。新田殿のことが好きなら、結婚すればどうじゃ? わらわは応援するでごじゃるぞ」

 「やった! 公認がでたっちゃ!」

 「うっ! このなまりは……」

 「鳥取だっちゃ」

 「えっ? アニメのラムちゃんなまりでは……」

 「このなまり、好きっちゃ?」

 「いや、その~……。アニメと言えば、アニメ声のユミ先輩。このなまりでなんか話してください」

 「無理よ。あたしは金沢だから」

 「金沢ですか。わたしはこの夏、金沢八景に行きました。あれっ? そう言えば、金沢文庫という駅もありましたね。ユミ先輩はどちらの出身ですか」

 「新田殿、どこの金沢の話をしておるのじゃ?」

 「もちろん横浜の金沢です」

 「あたしは北陸の金沢よ」

 「ううっ。北陸ですか……。そんなところにも金沢があったとは……」

 「常識でごじゃる。新田殿は北陸に疎いようでごじゃりまするなあ」

 「はい。残念ながら、北陸には一度も行ったことがないんです」

 「わらわは一度、金沢に行ったことがあるでごじゃる」

 「なんか自慢げですね」

 「金沢は観光旅行には良いところでごじゃるよ」

 「そうですか……。ところであやめ様、金沢って何県です?」

 「……。」

 「どうしたんですか、あやめ様? のどに何か詰まりましたか?」

 「金沢は……、県ではなく市でごじゃる」

 「で、金沢市は何県にあるんですか?」

 「それはその……」

 「一度行ったことがあるのに、何県かも分からないんですか?」

 「石川県よ」

 「そうじゃ、石川県でごじゃる」

 「ユミ先輩のあとに答えてもなあ……」

 「そうじゃ! 高木殿の出身地がどこだか知っておるでごじゃるか?」

 「知りません。第一、さっき会ったばかりですし」

 「熊本だ」

 「おおっ。あの熊本ですか」

 「ほう。新田殿は熊本県に詳しいようでごじゃりまするな」

 「行ったことはありませんが」

 「では、質問じゃ。熊本の有名なものはなんでごじゃるかな?」

 「え~と。熊本と言えば……、田原坂(たばるざか)の戦い」

 「その通り」

 りよが、満足げにうなずいた。

 「他には?」

 「他には……。天下の名城、熊本城!」

 「その通り! で、他には?」

 「え~と~。金のしゃちほこ」

 「それは名古屋城だ! このたわけ!」

 「では、西郷隆盛!」

 「西郷は薩摩だ! このどあほ!」

 「え~と~。高杉晋作!」

 「やつは長州だ!」

 「え~と~」

 「もっと昔にさかのぼれば、いろいろいるだろ。有名な武士が」

 「え~と~。宮本武蔵……とか?」

 「武蔵は美作(みまさか)だ!」

 「美馬坂田?」

 「今の岡山県だ」

 「えっ? 今野と岡山健太?  坂田美馬さんと三角関係なんですか? で、美馬さんって、アイドル歌手かなんかですか?」

 「あ痛っ! りよ先輩、いきなりエルボーしないでください」

 「おぬしがアホだからだ」

 「ねえねえ新田くぅん。鳥取の有名なもの、何か知ってるっちゃ?」

 「え~と~。鳥取と言えば……、砂丘!」

 「そうだっちゃ! 他には?」

 「え~~と~~。 他には……、砂丘……」

 「そうだっちゃ! 他には?」

 「う~~。他には……、砂丘とか……」

 「そうだっちゃ!」

 「新田、おぬしは鳥取砂丘以外知らんのか!」

 「ううっ。何をおっしゃいます、りよ先輩。それだけ鳥取砂丘が偉大だということです」

 「偉大? 砂丘がどんな風に偉大だというんだ? えっ? こら!」

 「あ痛っ! だから、エルボーはやめてください」 

 「刀傷だってすぐ治るんだろ! だったらこれくらい何ともないだろ」

 「すぐに直っても痛いんです」

 「りよ、なぎさの新田くんをいじめちゃだめぇ~」

 「ちょっと、なぎさ先輩、上にのしかからないでください」

 「だってえ、車が揺れるんだもん」

 「揺れたんじゃなくて、止まったんです」

 「そおっちゃ?」

 「どうしたんです、あやめ様? 前方不注意で電柱にでもぶつかりましたか?」

 「どこにもぶつかってないでごじゃる」

 「では、ネコでもひき殺したとか」

 「縁起の悪いことを言うな、でごじゃる」

 「縁起が悪い? では、黒猫だったんですね」

 「何もひいとらんでごじゃる!」

 「では、なぜ突然止まったのですか?」

 「着いたのじゃ」

 「えっ? この公園に何かあるんですか」

 「いや、この公園の向こう側に、とある高校があるのじゃ。そこである強者(つわもの)をリクルートして、仲間に引き入れるのじゃ」

 あやめはエンジンを切り、車から降りた。

 「新田殿は仕事じゃ。はよ降りるでごじゃる」

 「はい、喜んで」

 新田は、車から降りた。


  第三章・終

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