終章 登場?真性青鬼少女アスカ!
ドアを開けると、あやめが立っていた。
「あれっ? あやめ様、どうしたんです?」
「どうしたではごじゃらぬ。連絡なしに学校を休んでおるから、こうしてわざわざ、そなたのマンションまで来たのでごじゃる」
「そんなに、わたしに会いたかったなんて……」
「なに勘違いしてるんだ、新田」
「うっ。その声は、りよ先輩」
玄関の死角から、りよが現れた。
「新田くぅん。会いたかったっちゃ」
「うっ。なぎさ先輩まで。ということは、ゆみ先輩も来てるんですか」
「来てるわよ」
「おい新田、ゆみの時だけ嬉しそうだな」
「たしかに。否定はしません。しかし、ちょっと学校を休んだくらいでお見舞いに来てくれるとは。こんなに愛されていたなんて……」
「だから、誤解するな、でごじゃる。実は、二つばかり問題が発生したのでごじゃる」
「問題?」
「そうでごじゃる」
「どうしたん? 押し売りが帰えらへんの?」
「そ、その声は……」
りよが、思わず息を飲んだ。
居間のドアから玄関に現れたのは、メロだった。
「そ、そなた、ここで何してるのでごじゃる?」
「えっ? うち? ここで一緒に暮らしてるねん」
「ええっ~!」
りよ、なぎさ、あやめの三人が、絶句した。
「ふ、ふしだらな、なんとふしだらな。高校生の男女が一つ屋根の下だなんて」
「りよ先輩、落ち着いてください。これにはいろいろ事情がありまして」
「おにいちゃん、どうしたの? お客さん?」
「そ、その声は……」
そこまで言って、あやめは言葉を飲み込んだ。
居間から現れたのは、ひな子だった。
「ひな子殿は、実家に帰ったのではごじゃらぬか?」
「はい。いったんは帰ったのですが、また追い出されてしまったとかで」
「で、新田殿の家に住んでいるのでごじゃるか?」
「はい。ひな子、お世話になっています」
「小学校はどうしたのでごじゃる?」
「そこなんです。ここからでは遠すぎて通えないので、あやめ様に相談しようと思っていたのです。一週間ほど前から……」
「一週間前から? もっと早く相談するでごじゃる!」
「新田、相手はまだ小学生だぞ! もしや、ふしだらなことなど、してないだろうな!」
「も、もちろんです、りよ先輩」
「ひな子は、いつでもオーケーです」
「ひ、ひなちゃん! それよりあやめ様、問題とはなんですか?」
「うむ。茨木北高校の件なのじゃが……」
「えっ? あの件はもう片付いたはずですが……」
あの日、三〇〇余名の吸血鬼軍団との激闘に勝利した日、新田達は、その日のうちに、一〇〇名弱の吸血鬼に血清を打った。再感染を防ぐために、夜になってから、彼らを音楽室と視聴覚室に移動させた。残りの二〇〇余名は、血清が増産されるまで、二週間にわたって、第一倉庫に閉じ込め続けた。その間、あやめの父が理事長をつとめる病院から、輸血用の血液を調達し、吸血鬼達に少しずつ与えて、飢えをしのがせた。
しかし、飢えに耐えかねた一部の吸血鬼が、夜な夜な倉庫を抜け出し、繁華街で人間を襲おうとした。そのたびに新田達は、ユリナの協力を得て、彼らを連れ戻した。
ようやく二〇〇余名分の血清が増産され、吸血鬼全員に打ったのが、先週の金曜日であった。二〇〇余名の吸血鬼達は、ヴァンパイア・ウイルスに感染してから三週間以上経っている者ばかりなため、今後さらに三週間、倉庫に閉じ込め続ける予定であった。
「やつら、また倉庫から逃げ出したんですか? もう人間に戻り始めているのに……」
「いや、そうでは、ごじゃらぬ」
「では、なんです?」
「わらわ達は、あの女に、してやられたのでごじゃる」
「えっ? 舌をやられた? 無理矢理ディープキス?」
「アホ! ユリナでごじゃる」
「えっ? ユリナと無理矢理ディープキス? あやめ様はレズだったんですか?」
「誰がじゃ! ディープキスは関係ごじゃらぬ! あの吸血鬼女が、行方不明なのでごじゃる!」
「ああ、そうですか」
「あの女、すっかりおとなしく協力的な素振りをしていたから、わらわ達も油断したでごじゃる。あの女、金曜の夜、血清を自分で打つ振りして、それを打たなかったのでごじゃる。そして、わらわ達が帰ったあと、闇夜にまぎれて消えてしまったのでごじゃる」
「まあ、あの血清、拒絶反応が出て死亡するケースがあることを、知られちゃいましたからねえ。実際、最初の一〇〇名弱のうち、三名が死亡しちゃいましたし。残りの二〇〇名も、これから三週間ほどの間に、六名ほど死人が出るはずですよね、統計的には」
「新田、おぬし何を落ち着いているんだ。あの女を野放しにしておいたら、また大勢の人間が、吸血鬼になってしまう!」
「りよ先輩、落ち着いてください。その心配はないですよ」
「おぬし、なぜ断言できるんだ?」
「朝っぱらから、うるさいやんけ! ドタマかち割るで!」
「何言ってるんです、もう夕方の六時です」
「うちにとっては夕方は明け方や」
「うっ。この声は、もしや……」
あやめ達全員が、息を飲んだ。
居間から玄関へと現れたのは、ユリナだった。
「おぬし、こんなところで何を!」
りよが叫ぶと同時に、刀を抜いた。
「りよ先輩、落ち着いてください。刀なんて抜いたら危ないです」
「というか、新田、おまえの方が危ないだろ! 吸血鬼が家にいるなんて! 感染したらどうするんだ!」
「その点は、心配ご無用です。実は、どうやらわたしには、あの日を境に、ヴァンパイア・ウイルスの抗体ができたようなのです」
「こーたい?」
「そうです。あの激闘の日、血清を打ったあとに、多くの吸血鬼に引っかかれたり噛まれたりしました。その時にヴァンパイア・ウイルスが体内に入ったはずですが、血清のおかげで、ウイルスはすぐに死んでしまった。その死んだウイルスに対して、わたしの体内で抗体ができたようなのです」
「ワクチンの原理と同じね」
「そうです、ゆみ先輩」
「ワクチン?」
「ワクチンは、死んで無害化したウイルスを体内に注入することによって、そのウイルスに対する抗体を、体内で作らせるの。いったん抗体ができてしまえば、同じ型のウイルスが体内に侵入しても、すぐにその抗体が撃退するというわけ」
「その通りです、ゆみ先輩」
「ということは、新田殿、自宅でその女に噛まれたということでごじゃるか?」
「まあ、そういうことです」
「毎晩やで」
「毎晩? どういうことでごじゃる?」
「金曜の夜からや」
「金曜の夜から、一つ屋根の下にいるのか? 高校生の男女が? な、なんとふしだらな……」
「ふしだら? ふしだら、ちゅう程度ではすまへんほど、この兄ちゃんには、いいことしてあげたで」
「い、いいこと?」
「あたりまえや。考えてもみてみい。この兄ちゃんは、うちの命の恩人やで。そやから、恩返しに、超絶ユリナ・スペシャルでヒイヒイ言わせてあげたんや」
「ユリナさん、下品な言い方しないでください。せっかくの美人が台無しです」
「そやから、恩返しの恩返しに、ちい~とばかり、この兄ちゃんから血を吸わせてもろてるんや」
「ちょっとなんてもんじゃないですよ。たくさん吸ってるじゃないですか。たくさん吸われると、ホント、体力消耗するんですから。今夜は本当に、ちょっとだけにしてください」
「何言うてんねん。体力消耗したのは、あんたがベッドの上でハッスルしすぎたからやないか」
「新田ぁ~! 月曜から学校休んでたのは、こういう理由だったのか!」
「あっ。りよ先輩、落ち着いて」
「あんた、うちらに焼いてるん?」
ユリナが、新田の左腕に自分の腕を絡めた。
「焼いてなんかない!」
「ちょっと、うちのご主人様に、なにすんねん。その手、離しとき」
メロが、新田の右腕に自分の腕を絡めた。
「なんやこのチビ。それに貧乳のくせして……」
「貧乳? メロはDカップやし」
「アホ! Dカップ以下は貧乳や! うちのようにGカップ以上がホントの巨乳なんや!」
「あんた背が高いから、そのぶん胸もでかいだけやん! いいからあんた、はよ出て行き! いつまで居候するつもりや!」
「あんたこそ出て行き! このメス犬!」
「メロは犬やない! オオカミや! あんたが来るまで、メロはご主人様とラブラブやったんや」
「ひな子も、おにいちゃんとラブラブしたい~」
そう言ってひな子は、背後から新田に抱きついた。
「なぎさも、新田君とラブラブしたい~」
「こら! うちの男に手え出さんといて!」
「新田殿、嬉しそうじゃの」
「そ、そんなことありません、あやめ様。そんなに、にらまないでください」
「にらんでなんか、いないでごじゃる。ただ、冷ややかに見ているだけでごじゃる。新田殿、このまま、このおなごどもと結婚すればいいでごじゃる」
「何言ってるんです、あやめ様。結婚は親同士で既に決まったことです。メロにはよく言っておきました。あやめ様が正妻で、メロが愛人と……」
「あ、愛人? 高校生のくせに……」
「りよ先輩、何怒ってるんです?」
「メロは、愛さえあれば、一生、日陰者でも構わへんし」
「バカ新田!」
「あ痛っ! 鞘で殴らないでください! しかも刀が入ったままだなんて。重くてとても痛いです」
「なぎさも、最初は愛人でもいい~。次に、正妻にステップアップ!」
「そんなの無理です。遠慮してください」
「なんや、めっちゃ盛り上がってるやん」
聞いたことのない少女の声が、部屋の外から聞こえた。
「おっ。来たでごじゃるな」
「あやめ様、いったい誰です?」
あやめ達の背後に、背の高い美少女が現れた。まるでモデルのようにスリムで、小顔だった。そして亜麻色の髪は、キャバ嬢のように、盛り上げていた。
「蒼井殿、自己紹介をするでごじゃる」
「うちは、神戸の福原商業高校三年の蒼井明日香や。みんな、よろしゅうな」
「実は、神戸で、新しい問題が発生したのでごじゃる」
「赤鬼どもに、謀反の動きがあるねん」
「赤鬼? 一〇〇〇年前に滅びたのでは?」
「そんなことあらへん。普通の人間と混血して、生き延びてるんや。そして、時々、完全覚醒体が現れるんや。うちみたいにな」
「えっ? おねえさんみたいな?」
「そや。ほら見てみい」
にょきり、と角が現れた。アスカの前頭部の髪の中から。
「うわっ! なんだおぬし!」
「高木殿、落ち着くでごじゃる!」
「安心せいや。うちは味方の青鬼や。朝廷に弓を引く赤鬼どもを監視しとったんや」
アスカの一角獣のような角が、縮んで髪の中に隠れた。
「その角、伸縮自在なんですか?」
「そや。うちは一〇〇%の完全覚醒体やさかい。ユニコーンみたいな角で、かわいいやろ」
「そ、そうですかねえ……」
「立ち話もなんでごじゃる。みなのもの、中に入るでごじゃる。さっそく作戦会議じゃ!」
「あの~、あやめ様、わたしの自宅でですか?」
「そなたが学校をサボっているから、わざわざそなたの自宅を集合場所にしたのでごじゃる」
「新田、さっさと居間に案内しろ!」
「あ痛っ! りよ先輩、なんで鞘で小突くんですか?」
「おぬしが腑抜けになっておるからだ。サムライらしく、しゃきっとしろ!」
「はあ、どうぞ」
あやめ達は、室内に入った。
「あっ! 痛いでごじゃる! 新田殿、なぜわらわの髪を引っ張るでごじゃるか?」
「特に理由はありません」
「理由がないなら引っ張るな、でごじゃる!」
「では、理由がある時は引っ張っていいのですね。それでは」
「痛い! 痛い! 痛い! 今のは、どんな理由があったのでごじゃるか?」
「そのおさげ、引っ張りたくなる髪型なのです」
「おさげと言うな、でごじゃる! これはツイン・テールでごじゃる!」
終章・終
『てんぐと~』終わり
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。よろしければ、ご感想をお聞かせください。また、登場人物の中で、良かったコがいたら、お教えください。次回作の参考にしますので。それでは、よろしくお願いします。




