最終決戦!そして人類の運命は!
扉を明けると、不細工団長腹中海老男が整形済みの醜悪な顔で大河原博士に銃を向けながら防護ゴーグルごしにらんでいた。これまでの怪物たちに比べれば彼は大したことがない。博士は頭に黒い袋を被せられていた。物田達は言った。
「どきなさい。もう貴方は、一人です。」
「そうよ、そうよ。」
すると腹中はゆっくりと物田達をにらんで言った。
「多分こんな事があるだろうと予期して、俺は、ここの配置を自ら希望した。ははっ見たまえ!」
腹中は上半身のTシャツをびりっと破いた。その腹には海老の腹の小さな足がならんで沢山生えていた。
「きゃあ!」
とやたらアニメ声で君子は気を失いかけ、それを支えながら物田は言った。
「…こ…これは…」
「改造したのだ。俺は愚かなギガンテスよりも強いって事さ!」
そして腹中はぐきぐきと変身し出した。体は青白くなり、手は伸びて鋏になり、腹の小さな足が長く伸び、やがて3mの巨大海老になった。といっても、殻があるわけでもなく、全身を覆うのは皮膚なので、さながら殻を剥いた海老のような姿で、海老嫌いが見たら失神するような壮観であった。
巨大海老はキシャーと吠えた。もはや不細工とかそう言う次元じゃない姿を見て君子は
「どうするの?」
と物田にすがったが、彼は言った。
「二人で戦うしかない。」
そして海老は突進して来たので、二人は避けた。避けながら君子は
「どうやって戦うの?」
と尋ねると、物田は
「君が戦えなくても君の中のイケメンは戦ってくれるさ。」
と答えた。
その時海老の両鋏が彼らに襲撃してきた。二人ともそれを巧みに避け、鋏にアタックし、君子は海老の頬に飛び蹴りしながら歓喜の声を上げた。
「分かったわ!私の中のイケメンに身を任せればいいのね!」
そして戦いは続く。二人とも善戦だったため、引き際と考えたのか海老は急激に後退りした。どうしたのだろうと思った次のとたん、海老の口から無数のフナムシが溢れ出た。なんと不細工な攻撃。黒い大群はぞぞぞ、ぞぞぞと二人に向かって走ってきた。
「すごい大群だわ…」
「こうなったらあれしかない。」
「そうね。」
「イケメンフラッシュ!」
二人の顔が輝いたため、フナムシは次々とイケメンになって(?)地面に転がった。やがて全てのフナムシがイケメンになったので海老は「キシャー!」と叫び、二人の方に再び突進した。
「防護ゴーグルを外せ!」「えっ?」
迷う前に君子は勝手に動いていた。高跳びをし、海老の頭にたどり着くとゴーグルを掴んで引き剥がした。
たちまち海老の顔面は、二人のイケメン光線を浴びた。海老はうめき叫びながらぐきぐきと体が変形したが、なにしろ、海老の姿のままイケメンになろうと言う事に無理が生じ、かっこよくなるどころか、もっと奇っ怪な姿になった。海老は「やめろ…やめろお」とうめきながら外に逃げ出した。
そして二人は大河原博士に近づいて、頭に被せられた黒い袋を取った。その下には輝くイケメンが死にかけていた。
「大河原博士ぇ!」
「不細工団のしわざじゃ…わしはイケメンにされた…薬…わしのポケットにある。早く打て…。上手く行ったら、わしの友人大草原に…上手くいったと…報…告……く…くああああ」
博士の顔が輝きだし、苦しみ始めた。博士がみるみるイケメンになるのを二人はしかと目撃した。そして完璧なイケメンとなった時、輝きはふっと消え、そのまま博士は美しい死顔をがくりと下げた。
「…」
「…」
「…とりあえず薬打ちましょう。」
「…そうだな。」
そして二人はしばらく黙っていた。長い間黙っていた。思い出を語ろうとしたが、記憶が塗り替えられてる気がして、できなかった。何やってもカッコいい事しかやらなかった気がするからだ。
そして…突然。
「う…くあっ!」
「あなた!」
物田は顔を押さえて苦しみ出した。久々にイケメンの暴走が来たのだ。とうとう来たか…薬の効果を試す機会だなと思いながら苦しんだ。やがて苦痛が強まり、それが頂点に達した時、物田は目の前が真っ白になった。自分はやはり死んだかと思った。だが、だんだん周りの世界が見えてくるにつれ、物田の意識はがらりと変わった。以前の物田はたしかに死に、あらたに完全なイケメンとしての物田が蘇った。
「あなた、大丈夫?」
妻の問いに物田はイイ声と快活な笑顔で言う。
「大丈夫さ。」
かくして、薬の効果が広まって以来、急激にイケメン病の感染が広まった。いままでブサイクばかりだったTVが極端にイケメンだらけになった。そしてとうとう、老若男女問わず、日本中、いや、世界中の人間がイケメンになった。見た目だけでなく、仕種や考え方や行動まで。
世界はこのまま、右肩上がりに上手く行き続けるしかなかった。
(完)