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逃亡、そしてブサイク団

サイレンが鳴り響く。物田は庭から脱出した。現在ホワイトマスクにつばつき帽という異様な風貌の彼は、怪しまれないために下を向きながら歩いた。いつのまにかトレンチコートを羽織っていた彼は、知らず知らずのうちに手をポケットに入れていた。物田はますます自分の意志がかなりイケメンに侵略されていると知り焦燥感を抱いた。


人々は奇妙な歩き方をしていた。猫背でがに股歩き。彼らは不細工を意識しながら歩いていたのだ。物田は危機を感じた。下手したら歩き方でばれてしまうからだ。物田は彼らに紛れるために、猫背のがに股歩きをしようとした。

だが背中が曲がらない。股間接も外向きに曲がらない。

「そんな…ちがう、ちがう!」

物田は焦った。どうしても背筋が伸び、がに股どころかただの屈伸になってしまうのだ。物田は思わずイケメンボイスで悲鳴を上げてしまった。


「Ahhhhhhhhh!!!!」


その時、その声を聞いて、物田の周りの通行人が立ち止まった。そして限りなく醜悪に仕立てあげたその顔を物田に向けた。その中の一人が言った。

「おまえ…イケメンだろ。」

物田はとっさに拒んだ。

「No、いや…いえ、違います。」

別の人が言った。

「いや、イケメンだ。その仮面の下には汚らわしいイケメンが潜んでいるのだろう?」

「違います!」

「白状しろ!その美声、お前はイケメンだろ!」

「違う、僕はイケメンなんか、じゃない!」

その時、サイレンが背後から響いて来た。物田は凍えた。こうなったら逃げねば。

物田は走り出した。なぜか手の甲と爪先をのばした美しいフォームで走っていた。人々は叫んだ。

「その走り方はイケメンだ!」

「なにくそ!待ちあがれ!」

「イケメン死ね!」

「私たちを殺す気なの?」



追われに追われたが、 やがて物田は暗がりに逃げたため、人々は見失い、見当違いの場所を探し始めた。物田は安心して、「はあ」と深い声でため息をついた。


だが、その時、殺気を感じて物田は振り返った。そこにいたのは…

「不細工団!」

そう、イケメンを憎み、イケメンを根絶やしにする事を目的とする凶悪暴力団。一目見てそうと分かるのは、彼らの独特な不細工の見せ方である。彼らは紫と緑とピンクのストライプと言う不気味なユニフォームを着、ストッキングを頭から被って上に引っ張ってニヤケていた。

物田が後退りすると彼らはせせら笑いながら近づいて来た。そうしてやがて袋小路にたどり着く。万事休す。

だが、物田はこうなったらこれまでと、最後の手段を用いた。つまりホワイトマスクを外して自らのイケメンを面にさらしたのだ。そのイケメンから発せられたイケメンフラッシュが不細工団に命中した時、彼らは「ああっ」と叫びながら一斉に倒れた。物田がマスクを着けて建物の上によじ登ってる最中も彼らは迫りくるイケメンの苦しみでもがいていた。


だが、誤算があった。その建物の屋上にNDDOの部隊がヘリ付きで待ち構えていたのだ。彼らはまるで伝染病を相手にするかのように、全身防護服を身に付けていた。その隊長が計器を持ちながら言った。

「はっはっはっ、逃げても無駄だよイケメン君。この機械がある限りはな。」

「なんだその機械は!?」

「落ち着いて落ち着いて、そんなイケメンな声出さないで。これはね、『イケメンハンター』とウチでは呼んでる便利な機械だ。」

「…?」

「いいか?イケメンというのはオーラがあって、イケメンフラッシュはオーラの収束だ。この機械はな、イケメンから漏れ出る微弱なイケメンオーラを感じとるのだよ。」

「…!」

「先程イケメン君は、その仮面を取っただろう?だから物凄いイケメン波動が来て、お陰で機械の半数が壊れた。まあ、弁償というわけじゃないが、君のような危険なイケメンは例の隔離病棟に移したほうがいいみたいだ。なにしろ君のイケメンは…」

「イケメンイケメン言うなあ!!!」

物田は叫びながら仮面を握って外そうとした。隊長にイケメンフラッシュを浴びかせようとしたのだ。

だがその時他のNDDOの部隊が彼をがっちり押さえた。そして彼らはテロリストの拉致みたいに、物田の頭に皮袋を被せ、麻酔注射を打った。麻酔が効くまでに彼はもがき暴れた。

「俺は絶対、イケメンパラダイスなんかに行かない。絶対に、DENIAL!DENIAL!」

やがて皮袋の中のイケメンフラッシュが徐々に弱まり、やがて真っ暗になって動きが無くなった時、隊長が冷たく言いはなった。



「気絶した。病棟に運べ。今はイケメンの効力は弱いが、決して皮袋は取るな。」


そして物田は車両へと運ばれた。

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