お見舞い
物田が扉を開くとやはり彼の親友の牧中、相田、最上がいた。彼らだけにはイケメン病の事を打ち明けていたのである。ホワイトマスクをつけたまま彼は迎えた。
「どうぞ。」
久々に自分の声を聞いた物田はまたギクリとした。前よりまたイケメンの声になっている。
友人達は物田宅のリビングに来た。物田はイケメンボイスで言った。
「くつろいでて。」
友人達はソファに座った。暫くして物田はお茶を運んで来た。以前だったら彼がしなかった事だ。病気の影響で身のこなしがイケメンになってしまったのだ。
そして物田は友人達とは向かい側のソファに座ったが、その際、足をギュンと華麗に振り回して柔らかに足を組んで軽く椅子に肘をつけながら座った。
その奇妙な座りかたに唖然としている友人を見て物田は言った。
「ああ、気にしないで。つい、やってしまうんだ。」
友人の相田が切り出した。
「なあ…お前、会社、行ってないんだろう?大丈夫なのか?」
「ワイフの君子が働いてる。」
「でも…パートだろ…お前貯金してたからいいけど貯金切れたらこれから大変だよ。」
「その時は僕も症状が末期になってGo to ヘヴンさ。」
友人らは物田の言葉の節々にイケメンの片鱗が現れているのを感じて、もうそんなにイケメンになってしまったのか、と哀れみを感じた。
友人の最上は言った。
「でも、その仮面つければ働けるじゃないか。」
「この仮面が万全かどうか分からない。なにしろMy eyesは出ているからな。だから、ワイフの君子に俺のイケメンの毒気にあてられないよう、常にmoveしている。」
「でも…」
「それに、どのみち働けたとして俺はイケメンパラダイスに行く事になる。それだけは絶対にdenial。」
「そうか…」
そして今度は牧中が切り出した。
「ねえ…症状はどれだけ進んでるの?」
「…」
物田はマスクを外した。三人は息を呑んだ。その下には輝くようなイケメンがあったのだ。流し目が煌めいていた。
マスクを着けながら物田は言った。
「これ以上見たら、きみたちは感染する。くそっ…いや、なぜだ!なぜ僕はイケメンになってしまったのだ!」
そう言って物田は席を立った。小太りだった以前よりも明らかにスタイルが良くなっている。
「なぜだなぜだなぜだ!うわっ!」
突然彼は顔を押さえて苦しみ始めた。友人たちは思わず席を立って「どうした?」と駆け寄った。物田は顔を押さえながら、美しく苦悶し、身を捩ったため仮面が落ちた。物田は苦しみながら力を振り絞って呟いた。
「お前ら、逃げろ…俺の…俺のイケメンが…暴走し出した…」
「!!!??」
「俺のイケメンが暴走してるんだ!逃げろ!うわっ!」
物田はさらに顔を押さえて苦悶した。が、指の隙間隙間から微かに光のようなのが漏れ出始めた。
「これは…!」
「強力なイケメン光線…!ぐわっ」
物田のイケメンから発せられたその光線が最上に直撃した。最上は顔を押さえて苦しみだした。
「ぐわあああ、顔があああ、イケメンになるうう!」
そして次に牧中に直撃し悲鳴を上げた。
「ぎゃあああああ!」
相田は顔を隠してそれを防いでいた。物田は漏れ出る光を遮りながら凄んだ。
「俺に構わず逃げろ!move!move!」
そして相田は、最上と牧中を連れて逃げた。彼らは外でも泣き叫んでいた。
「イケ、イケメンになっちゃう、うっ、うっ、イケメンになっちゃうよー!あーんあんあんあん」
その叫びは近所周辺に響いた。物田は覚悟を決めた。恐らくはもうじき誰かが家にイケメンを隠していると通報が来て、イケメン病研究集団のNDDOの奴らが、自分を捕まえに来るだろう。捕まったら隔離病棟、すなわちイケメンパラダイス行きだ。家から逃げなければ。だが今自分のこのイケメンは危険すぎる。隠さなければ。物田はホワイトマスクとつばの広い茶色の帽子を被った。
遠くからサイレンが聞こえてくる。