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天花寺弓弦は推理を物語る  作者: 巴 雪夜


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第7話:天花寺弓弦との出逢いの事件⑥—推理は物語られ、犯人は捕らえられる—

「まず、トップに持ってきたいカードの上に、山札を置きながら左手を少し手前に傾けます。そうするとカードの上のカードが少し手前に突き出した状態になります。これをインジョグといいます」


「ふむ」



 弓弦は手元が良く見えるようにしながらカードを持ち上げる。



「次にインジョグより上のカードを二回に分けてカットします。まずはインジョグより上のカードを半分に持ち上げてテーブルに置き、次にインジョグより上の残りのカードをそのカードの上に置く。残ったカードのトップは狙ったものになり、それを最後に乗せればトップコントロールの完成です」



 ほらと弓弦は狙ったカードを一番上に持ってくる。こうすることで毒が付着したカードをすぐに相手の手札に入れることが可能だ。


 指が触れるカードの下の方に毒を擦りつけておけばいいので手間はかからない。



「貴方、マジックバーで働いているのですよね? マジックができる貴方なら、自然と仕込むことは可能でしょう」


「……そ、そんなの言いがかりだ!」


「では、サイドデッキを調べさせてください」



 貴方のカードにも毒が付着していたのは調べて分かっている。相手のデッキに触れたから毒がついたという可能性もあった。



「サイドデッキに入れたカードに毒を付着させておき、入れ替える時に指につける。この行為をした場合、サイドデッキのカードまたはデッキケースに毒物がついている可能性があります」



 わざわざスリーブを外して入れ替える必要はなく、なんでもないようにデッキケースから取り出さなければならない。毒物がつかないようになど気を配っている行為自体が怪しく映るからだ。


 僅かな反応がデッキケースまたはカードから出る可能性があった。それにと弓弦はテーブルに置かれたカードを指さす。



「自分自身のデッキにも細工し、手札を良くしないと、苛立ちで癖を出させるというトリガーが成り立ちません。貴方にしかできないことなのですよ」



 相手を苛立たせて爪を噛み、指を舐めさせなければならない。被害者は対戦中でもなるのでしょうからと弓弦に話せば、一郎が「たけやんは自分が不利になった盤面の時によく噛んでた」と頷いた。



「オレじゃなくても、できるだろ!」


「では、南野さんはデッキを調べても大丈夫でしょうか?」


「おれは構わないよ。てか、おれと対戦中もたけやんは爪を噛んでたけど、なんともなかったぜ?」



 ほら、使い捨てられているウェットティッシュがあるじゃんと、テーブルに丸めておかれている紙くずを指摘する。おれがしかけたならその時に死んでるんじゃないのかと。


 一郎の指摘に将司の顔が変わる。じわじわと焦りの色を見せて、視線が泳ぎ出した。


 一郎の証言が正しいのであれば、毒が仕込まれたのは彼と対戦が終わった後になる。その前に指に付着したのではないかという言い訳ができない。



「疚しい気持ちがないのならば、調べても問題ないかと思いますが? 貴方の無実を証明することにもなりえますよ?」



 それは物語を語り終えたかのようだった、どうしますかと訊ねる弓弦の声は。逃がすことはないと、容赦のない言葉の鎖が相手を捕らえて離さない。


 将司は拳を握り締めて唇を噛んだ。サイドデッキが入っているだろう鞄を握り締めながら。



「サイドデッキが駄目ならなば、貴方の手を服を調べさせてください。指についたままでしょうからね、まだ」



 ずっとポケットに手を入れっぱなしなのは、それが気になるからではないのですか。弓弦の指摘に将司は肩を震わせた。



「それができない時点で貴方の負けなのですよ」



 冷たく言い放たれた言葉に将司が膝から崩れ落ちる。握った拳を床に叩きつけて、「くそっ」と吐き出した。彼の反応は犯行を白状していた。


 一郎は嘘だろと言いたげに将司を見つめているが、彼は床から視線を上げようとはしない。



「お前、なんで……」


「あいつがオレの妹の事をバカにするだけじゃなくて、オレの仕事の事も口出してきたからだよ!」



 将司は怒鳴る。あいつは病気の妹のことを「軟弱者なんて放っておきゃいいんだよ。金食い虫なだけだろ」ってバカにしたんだと。


 それだけじゃない、マジシャンになるために修行しているというのに「カードゲームでイカサマし放題じゃん」ってバカにしながら笑っていたのだ。


 マジシャンとして誇りを持っていた。イカサマをするために覚えたわけではない、するわけがない。そんな軽い気持ちでやっていたわけではないのだ、自分は。


 妹だって大切な家族で大好きな存在だ。金食い虫だなんて思ったことすらないし、そんなことがあるわけがない。


 自分の事を棚に上げて他人を小馬鹿にするあいつが嫌だった。少しは痛い目に合えばいいと思ったのだと将司は自白する。



「別に殺すつもりはなかった。ちょっと苦しめばいいって思っただけで……」


「毒性の強いものを使った時点で、それは通用しませんよ」



 弓弦は冷静に返す、その言い訳は通用しないと。毒性の強いものを選び、犯行に使ったということは「死んでもいい」ということと同じだ。


 少なからず死ぬかもしれないという考えが頭の片隅にあったのではないか。



「それにどんな理由があれど、毒を使っていいなんてことはないのですよ」



 冷たい刃のような言葉だった。ぐさりと突き刺さる音が聞こえるように将司は顔を上げて、弓弦に目を向ける。彼の眼に迷いも同情もない。ただただ、冷ややかだった。



「くそぉぉぉっ」



 将司は声を上げて額を地面にこすり付けながら喚く。涙声を耳にしながら尊は傍にいた刑事に彼を引き渡した。


   *


 現場が片づけられる中、弓弦は店の前でトートバッグを肩に掛けながら溜息を零している。そんな彼に尊はなんと声をかけるかと考えていた。


 弓弦のおかげでカードショップの事件は解決したが、自分が抱えている事件はまだ終わってはいない。もともと、これが目的で弓弦を迎えに来たのだ。


 ひとまずはお礼を言おうと尊が「天花寺くん」と声をかければ、弓弦がなんとも面倒げにこちらに顔を向けた。



「お疲れ様。今回の事件の件は助かったよ、ありがとう」


「……貴方、珍しいですね」


「と、いうと?」


「依頼もされていないのに探偵が勝手に捜査しても、何も言わなかったでしょう」



 本来、依頼されなければ捜査ができない、それが認められた探偵であってもだ。協力要請がなくてはならず、勝手に現場を見て回ってはいけない。


 けれど、今回の場合は〝いるならば捜査に参加してもらったほうがよい〟という判断が下りると思ったからだ。


 君も言っていただろうとそう返せば、弓弦は「僕が話している時も口を出しませんでしたし」と、推理を語っていた時のことを言う。


 確かに注意するかどうか悩みはしたが、弓弦にも考えがあるのだと思い、口出しはしなかった。と、尊が答えれば、「それが珍しい」と返された。



「こういう時って注意されたりすることが多いのですよね。僕のように勝手に捜査し始めたり、容疑者たちに質問する時の言動とか。でも、貴方はそうはしなかった。僕に考えがあるだろうと考えて」


「俺は君の事をよく知らないから何も言えないが……。認められた探偵である以上は君の意見というのも大事になると思う」



 勝手に捜査をするのはよいことではないけれど、認められた探偵の気づいたことなどは聞いておくべきだ。彼らだから気づいたことだってあるはずだから。


 尊の返答に弓弦が目を丸くさせてから、くすりと笑った。



「貴方って真面目だけど、他人の事ちゃんと見ていますね」


「それは笑うところなのかい、天花寺くん」


「弓弦で構いませんよ」



 貴方はそれで構いませんと弓弦は言って、うんっと背伸びをした。



「せっかくの交流会が台無しになって気分が悪かったですが、解決したのでいいでしょう」


「それであんなに犯人に冷たかったのか」


「それだけじゃないですよ」



 交流会が台無しになったというのもあるが、それ以外にあると言われて何だろうかと尊は首を傾げる。


 犯人であった将司の態度だろかといくつか考えていると、弓弦が腕を組んで眉を寄せた。



「犯人が使っていたデッキ、僕の一番好きなテーマなのですよ。人を殺すために利用されて腹が立ちました」



 あのテーマは中堅テーマの中でもなかなかに強くて人気もある。自分もその一人で大好きなテーマを犯罪行為に利用されたのが気に入らなかった。



「ほんっと、腹が立ちましたね」


「そういうものなのかい?」


「そう思いますよ」



 そういうものなのかと尊は頷く。好きなものを犯罪に利用されては気分は良くはないだろうと解釈した。そんな様子にまた弓弦が笑う。



「貴方、面白いですね」


「そうかな? あんまり面白みはないと思うけどね、俺は」


「僕は面白いですよ」



 何処がだと尊が問えば、そういうところと返されて疑問符が浮かぶ。けれど、弓弦は答える気がないようだ。


 揶揄われているのだろうかと片眉を下げれば、「じゃあ、そろそろ」と彼は歩き出した。



「あ、てんげ……弓弦くん!」


「事件の協力要請でしょう? そうですねぇ。僕、今はラーメンって気分ですね」



 貴方の奢りで食べたい気分だなと言う弓弦の、にこやかな表情に尊は遠慮は無いのだろうかと溜息が零れた。


 突っ込む隙など彼は与えてくれなかったから。



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