第5話:天花寺弓弦との出逢いの事件④—導き出される犯人—
「刑事さん」
ひょっこりと綺麗な顔がショーケースの裏から覗かせた。弓弦がにこりと笑むと手招きをしてくる。何かあったのだろうかと尊は二人を別の刑事に任せて彼に駆け寄った。
「何かあったかい?」
「えぇ。聞きたいことがあるので、刑事さんちょっとこちらに来てください」
弓弦にそう言われて尊は他の刑事に二人を任せ、犯行現場である交流会スペースのテーブルへと向かった。
まだ現場は捜査されている中、彼はテーブルに置かれたカードを指さす。被害者の対戦相手のカードに「これにも毒がついています」と言いながら。
「対戦相手のものにもかい?」
「はい。手札と場に出されたカード、山札の一部に」
「対戦相手も毒を摂取する可能性があったということだろうか?」
「いえ、微量なんですよ、どれも」
対戦相手のカードに付着していた毒は擦れたように全て微量だった。とはいえ、口に含むことがあれば、中毒は免れないだろうというのが検査の結果だ。
弓弦の考えは液体の毒をカードのスリーブに付着させたのではないかというものだった。
「しかし、触った感覚でおかしいと思わないのだろうか?」
「べたつくものなら気づくかもしれませんね。液体だった場合、乾いたとしても毒はカードのスリーブに付着しているので、指や手が濡れていれば」
「あぁ、なるほど。濡れた手についたものを口に含めば、ということか」
強い毒性があれば少ない量で殺害することは可能だ。死なずとも中毒を起こさせることはできるだろう。
そうなると殺意があったのかが焦点になるなと尊は考える。中毒を起こさせる目的だったのか、殺すつもりだったのか。
嫌がらせのつもりだった、殺すつもりはなかったなどと言われる可能性もある。
強い毒性のものを選んでいるのだから、殺意がなかったとは考えられないのだがと思うけれど、言い訳として使ってくることは多い。
「二人は狙われたということになるのか」
「そう思いますか?」
「違うのかい?」
「おかしいと思いませんか?」
弓弦の問いに尊はふむと顎に手をやって考えてみる。二人のカードには毒が付着していた、対戦中は将司と被害者だけしか触れていないはずだ。なら、どこで毒を仕込むのか。
「この対戦はまだ始まったばかり。おそらく被害者が先行一ターン目、対戦相手は後攻一ターン目です」
対戦が始まったばかりであった。後攻であった将司がプレイしている間に被害者は毒を摂取して死亡したということになる。
その僅かな間にと考えていると、弓弦に「被害者は指を噛む癖があった」と言う。
「指を噛む癖のタイミングで毒が体内に入った、ということか」
「そうなります。では、誰がそれをできますか?」
誰がそれをできるのか、被害者の爪を噛む癖を知っている人物になる。将司も一郎もそれは知っていることだった。では、二人の内の誰か、ということになる。
二人とも対戦はしているのだからと尊が思案していると、弓弦がもしかしてと問う。
「刑事さんはカードゲームをプレイした経験はありますか?」
「いや、ないが……」
「では、一般的なルールは知らないですね……」
それでは気づけないかもしれませんねと呟いてふむっと目を細める。それから、尊に二人の様子はどうでしいたかと聞かれて、尊は彼らから聞いたことを話した。
二人の様子も伝えれば、彼は「あぁ」と納得したように頷いた。
「二人ともこちらの様子を窺うような態度はしたのですね?」
「あぁ。南野一郎は早口で動揺している様子だったが次第に落ち着いてきたな。田中将司は淡々としていたけれど落ち着きはなかった」
二人の様子は極端におかしいといったものではなかった。尊自身も似たような反応を他の事件でも何度か見ている。
けれど、弓弦はだろうなといったふうだ。彼には何か分かっているのかもしれない。
「天花寺くんは二人を怪しいと思っているのかい?」
「怪しいというよりは犯人ですよ、一人」
断言。弓弦ははっきりと言い切った、二人の中に犯人がいると。それはもうきっぱりと言い切るものだから、尊はそうなのかと頷いてしまう。
彼がそう断言するということは、自分には何か気づいていないということになる。それはなんだろうか、尊は弓弦に言われたことを思い出す。
被害者は苛立った時に爪を噛む癖があった。それを利用して毒を体内に入れるにはどうするべきか。彼そうさせるように仕向ければいいと、そこまで考えてあっと尊は気づく。
「相手の戦況を不利にすればいいのか」
「その通りです」
爪を噛む癖を利用するには、そのトリガーとなる苛立ちをさせなければならない。話を聞くに被害者はカードゲームでも自分勝手な言動をしている。
それならば、戦況を不利にすれば自然と苛立ち、爪を噛むはずだ。それから指を舐めてと癖が出る。
それができるのは対戦相手にしかできない。尊がそう答えれば、弓弦は「正解です」と微笑んだ。
「この事件は結末を迎えられる準備ができています」
では、始めましょうか。終わりを語りましょう。弓弦は二人を呼んできてほしいと言った。




