08
迷うことなく、コンビニの一番奥にある、ドリンクコーナーへと足を運ぶ高月くん。わたしもその後をつけていくと、彼は、「な、なぜついてくる!」と小さな声を荒げた。
「高月くんが無理なら、わたしが何とかするから協力して? こういうのって、未練とか解決すれば成仏するんじゃないの?」
「し、知らん!」
バコ、と冷蔵庫の扉を強く閉める音がする。
弁当コーナーへと向かう高月くんの後を追う。弁当を選ぶ高月くんの隣で、わたしは「お願い! お願いったらお願い~!」と、高月くんの右隣や左隣を行ったり来たりする。本当なら高月くんの周りをぐるぐる回ってやろうかと思ったけど、彼の目の前は今、お弁当の陳列棚があるので、それはできない。
高月くんはわたしを無視したまま、特盛明太子スパゲッティと鯖の塩焼きのパック、煮卵とネギのミニお惣菜、サラダ、別売りのドレッシングをひょいひょいと取るとレジへと進む。
コンビニで結構使うな、富豪かよ。わたしがこんなにも頼んでいるのに、無視して買うような量じゃないじゃん……。
「しゃーせー」
やる気がなさそうな、マスクをつけた男性店員が高月くんがレジに置いた商品をスキャンしていく。レジ会計の数字を見ながら、高月くんが手に持っていた茶封筒から紙幣を数枚抜き取る。
「レジ袋いりますかー」
「あ、欲しいです。あと、フォークじゃなくて箸でお願いします」
「ういっす」
高月くん、普通に喋るのかよ……。
わたしの前では中二病しているけれど、タクシーの運転手やコンビニ店員に対して普通に話しているあたり、学校以外ではあの言動はしていないのかもしれない。
「ねえ、こ――」
高月くん、聞いてるの。そう続けようとして、わたしは言葉を詰まらせた。
わたしが彼に話しかけるより先に、ガリッという、少しくぐもった音が聞こえたからだ。硬い何かをひっかくような音。つい先日まで、散々聞いた音に、わたしの体がこわばる。
ガリッ、ガガガ。
聞き間違いではない。明らかに、ちゃんと音がしている。しかし、店員さんは不審がる様子もなく、レジ業務を面倒くさそうに、淡々と続けている。
その店員さんの、腹のあたり。店員さん側のカウンター下から、指が伸びている。赤い、オーバル型の爪。暗くくすんだ肌にもかかわらず、爪だけが怪しく蛍光灯の光を反射し、輝いているようにも見える。死人の指に見えるのに、爪だけが、生きいきとしているようで、気持ちが悪い。
そんな指が、カウンターをひっかくようにしながら、カウンター下から這い出ようとしていた。




