05
わたしの死から、二日が経った。今日はわたしのお通夜である。自分の葬式に出るというのはなんだか不思議な気分だった。
幽霊の体になって通夜に出てみて気が付いたことが二点。
一点目は意外とお経って大したことないんだな、ということ。生前でも、何を言っているのかは分からなかったし、終わるかな、と思ってから続きが来る、ということを何度か繰り返してようやく終了する、というイメージしかない。
少しでも意味が分かればまた違うのかもしれないけど……。ホラー映画とか、怪談話とかで、とりあえずお経を唱えれば何とかなる、というのは割とフィクションなんだな、ということを身をもって知った。あと、お坊さんにもわたしは見えてないみたい。ああいう職業の人って、皆が皆、ちゃんと見える人なわけじゃないのね。
そして気が付いた二点目は、見えない人には本当に見られなくて、気が付かれないということ。
当然と言えばそれまでなんだけど……。
でも、ここでゾッとしたのは、わたしも死ぬまでは見えない人だったということだ。
つまり、わたしが風呂上りにアイスを食べているときや寝っ転がってスマホをいじっているときなど、完全にリラックスしていた状態の真横で、それこそ少し動けばぶつかり合うくらいの距離感で、あの子供がいたかもしれないのに、わたしは全く知らなかったということ。
今、こうやって、わたしが一人ひとり、参列客の顔を覗き込んで確認しても、誰も気が付いてくれなかったように。正直、少女漫画なんかで見る、キス数秒前くらいの距離でも、全く気が付かな――おっと危ない。涙を拭こうとして、ハンカチを持ち上げた手が、わたしをすり抜けるところだった。
まだ生きているときの感覚が抜けなくて、反射的に動いてしまう。まあでも、生きている人には触れなくても、物には触れるみたいだから、ハンカチが変に止まって、不審がられるかもしれなから、結果としては良かったのだろう。
それにしても……もしかしたら、ふと振り返ったときに、あの子供がわたしを貫通していたかもしれないな……。
考えただけで気持ちが悪い。ぞわぞわするし、もう機能が備わっていないはずの胃が、キュッとなった気がした。
「――あ、いた」
わたしが声を上げると、わたしの目線の先にいる人が、びくりと肩を跳ねさせた。酷い驚きように、キッ、と葬儀場の椅子と床が擦れた音がした。
わざわざわたしがこの告別式にやってきた、目的の人物。
「こんばんは、高月くん」
クラスメイトの男の子。髪の毛を暗い紫色に染めて、前髪は長め。右目に眼帯をしていて、左手には何故か包帯を巻いている高月次太郎くん。
「少しお話いいかな。あ、お通夜が終わってからで全然いいんだけど」
古く時代遅れのようにも見える、中二病スタイルの彼は――本当に、幽霊を見る力があったようで。落ち着かない様子でちらちらとわたしを見る彼の顔は、実に真っ白だった。




