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今日からここは事故物件  作者: ゴルゴンゾーラ三国


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4/11

04

 その声に、わたしは我に返る。


 ――母だ。


 この家に住んでいるのはわたし一人ではない。高校生だから当たり前と言えば当たり前なのだが、わたしが死んだ後のことは何も考えていなかった。この場に留まることになるとは一切想定していなかったのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。


「……まや、か……麻耶花まやか……?」


 帰宅したらしい母が、わたしの元につき、縋りつくようにしている。必死になって、ロープを外そうとし、震える指が何度も滑る。


「ぁ……、お、ぁ、あ」


「――!」


 先ほどまでわたしに触ろうとしていた子供の霊が、動きを止めたかと思うと、母に手を伸ばし始めた。


「――、ッ、ママに触らないでよ!」


 わたしは慌てて子供を母から遠ざけようとする。伸ばしたわたしの手は、母の体をすり抜けたのに、子供には確かに触った感触があった。

 ドタ、とわたしに突き飛ばされた子供は、床へと叩きつけられた。生きていた頃、他人を触ったときと何も変わらない感触。ただ、今まで見えなかったそれに、見えただけではなく触れることができた気持ち悪さに、わたしは思わず手をさする。

 でも――触れた。


「き、救急です! 娘、娘が、首、首を吊って……!」


 わたしとドアノブを繋ぐ紐をほどくことを諦めたのか、母はスマホに向かって必死に叫んでいる。

 母の方を見て、もう一度子供の方を見たら――子供はいなくなっていた。どこかに隠れたのか。きぃ、と、別の部屋の扉が開いたような音が聞こえた気がした。

 この目で確かめたわけではないけれど、子供は消えていなくなったのではなく、この家の、別の場所へと移動しただけのように思えた。ただの勘、としか言いようがないのだが、こうして幽霊になった以上、そう言った、非科学的なものも馬鹿にできない。


「――ママ」


「はい、はい……いつからかは分からなくて、紐、紐がほどけなくて……! 息は……し、してないです……」


 耳と肩でスマホを挟み、そのスマホに話しかけながら紐をほどこうとしている母。声をかけても、気が付いてくれない。床にへたり込んでいる母の隣にしゃがみこみ、目線を合わせても、全くこちらの気配を感じ取ることができていない。

 当たり前と言えば当たり前だ。わたしと違って、母は生きているのだから。


 わたしは、もう一度、自分の手を見る。透けているとかはなくて、生きているときと同じように見える。この手では、あの子供に触ることができた。

 なら――あの幽霊を遠ざけなきゃ。この事故物件に住む、霊から。


 母と父は、まだ、この霊に殺されるべきではない人だから。

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