03
ある日は、カリカリと、何かをひっかくような音が、ずっと聞こえるときもあった。古い家特有の、家鳴りの音とは全然違う。先が、壁や扉の上をすべるようなひっかく音。
いくら古い家でも、流石にネズミは出ないだろ……と思いながら、音の発生源を見つけようとしても、一向に見つけられなくて。
またある日は、うめき声のような、声だと分かるのに、言葉になっていなくて、なんと言いたいのか分からないそれを聞いて。夜に聞こえたときなんか、怖くなって、どれだけ暑くても布団を頭からかぶったことは一度や二度じゃない。
そんなことが重なっていけば、もしかしてここって、事故物件ってやつなのでは……? と思ってしまうまでに、時間はそうかからなかった。
今住んでいる市の名前と、『死亡事件』や『死亡事故』のワードで検索をかける。いくつも出てきた事件や事故の概要の中から、わたしは一つのニュース記事を見つけた。
それは、子供を虐待した上で死なせてしまった母親が逮捕された、というもの。具体的にマンションの名前が出たわけでも、ましてや部屋番号が公開されていたわけでもないけれど、事件現場として撮影されいたマンションはまぎれもなく、今わたしたちが住んでいるマンションだった。
なんとなく、わたしたちが住んでいる部屋がある場所にピントがあっているというか、明らかにここを狙って撮ったことが分かる写真だった。それは、『わたしの住んでいるところが事故物件なのかも』という先入観から感じるものだったかもしれないけれど。
もしかして、事故物件なのかも、と思っても、両親に相談することはできなかった。
父はそういう、オカルトなことは一切信じていないタイプなので、「へー、そうなのか? あんまり気にしていると気が滅入るぞ? 気のせい、気のせい」と笑い飛ばされることが分かりきっていたし、母だって、「変なこと調べていないで、勉強しなさい。ママはそんな変なこと、見たことも聞いたこともないわよ」と、まともに取り合ってくれないに違いなかった。
だから、ずっと黙って、わたしが耐えて、高校卒業と共にこの家を出られればいいや、なんて考えていたのだが――。
――結果、こうなってしまって。
カリッ、カリッ、と子供の霊が扉をひっかくたび、少し扉が揺れて、わたしの死体もされるがままに動く。
あんなにもこの音に悩まされ、見えない『何か』に怯えていたというのに、今は一切恐怖心がない。死んで防衛本能がなくなったのか、それとも現実を受け入れられないままなのか。ただ、ぼーっと、扉を開けようとしている子供を見ることしかできなかった。
ようやく子供が通れるだけ、扉の隙間ができたからか、子供が這うようにして、その隙間を通る。
子供のボロボロの手がわたしの死体に触れようとしたとき――。
――甲高い、悲鳴が聞こえてきた。




