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二年前、父が転職し、引っ越しをした。わたしが高校に行くタイミングでのことで、わたしはその引っ越しを視野に入れた状態で、高校受験をして。中学時代の友人や知り合いが一切いない土地へと来た。まあ、元々、そのまま同じ土地で過ごしていたとしても、友人たちとは進路が別れていただろうから、そこへ特に不満はない。今時、電話やメールどころか、メッセージアプリやSNSで連絡を取り合うことはできる。同じ学校へ通うように遊ぶことはできなくなっても、縁が完全に切れてしまうようなことはない。
賃貸から賃貸への引っ越し。
両親が見つけてきた部屋は、前のものよりずっと広い家だった。父曰く、「この辺は単身向けの土地じゃないからなあ。少し古めで、部屋数が多い方が逆に安いんだよ」とのこと。
確かに家は、前に住んでいたマンションより古くはなったものの、掃除をちゃんとしていれば快適に過ごせる範囲だと思うし、何よりわたしの部屋が広くなったのが嬉しい。四畳しかなかったわたしの部屋は、六畳へとランクアップした。二畳の違いでも、天と地の差がある。収納だって、今の家の方がある。だから、家が古いことへの不満なんか、部屋が広くなったことで全く気にならなくなった。
ただ――ただ。
この家は、何か、おかしかった。
住み始めて一週間くらいは、何もなくて。この家に慣れて、高校生活も落ち着き出した頃。
最初に気が付いたのは、キッチンでの違和感。水道下の扉が開いていて、なぜか包丁が落ちていた。確か、朝起きて、水を飲もうとキッチンへと訪れたときのことだったはず。
昨晩、母が包丁を片付けるときに閉め忘れたのだろうか? でも、水道下の扉の内側に付けられている、あの包丁差しのスペースって、包丁が勝手に落ちてくるような構造にはなっていないはず。万が一、そこが壊れて包丁が落下したのだとしたら、包丁差しも一緒に床にないとおかしいだろう。
不思議に思いながらも、わたしは扉を閉め、包丁を拾う。一応洗った方がいいか、と軽く洗ってから、水切りかごへと置く。
水を飲もうとコップを食器棚から取り出し、振り返ったところで――再び、水道下の扉が開いていることに気が付いた。
あのときのわたしは、古い家だし、立てつけが悪くなっているのかな? と深く考えずに扉を閉めた。そして、水を汲んで飲む。
――でも。
あのとき。もしかしたら、内側に、この子供がいたのかもしれない。わたしが気が付かなかっただけで、のぞき込んでいたら、目があったのかもしれない。
この家に住み始めるようになって、体験した不思議なできごとはこれだけじゃない。




