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後日わたしの家に来てくれる、という約束を高月くんと取り付け、わたしは家に帰る。
本当は家にあの幽霊もいるし、どこか適当なところで時間をつぶそうとも考えたのだけど、意外と世の中には『幽霊』というものがはびこっているらしく、人間じゃないものがたびたび視界に入るようになった。
基本的には黒い靄というか、影というか、人の形はしているけれど、それは輪郭が人に近いだけで実際は黒い塊、というものがほとんど。ただ、その中でも、人とほとんど変わらないような姿形をしている幽霊もいて。
生きている人間がすり抜けて行ったり、多分これが死因だなと分かる大怪我をしていたり、そういう場合はすぐに見分けがつくのだが、本当に人と区別がつかないような幽霊がいた場合、なんだか勝てなそうなので、街中にいるのは危険だと判断したのだ。
ただの人の形をした黒い塊と、ちゃんと人間の形を保っている幽霊との違いは分からないけれど……人間に近い形を保てているほうが、力が強そうな気がする。何か特別なものを感じる、というわけではないけど、人の形を保てない程度にしか力がないという風にも考えられるから。
高月くんが、あのカウンター下の女性がカウンターの外に出ているときはコンビニに入らないくらいだもん。きっと人間の形をしている方が強いんだよ。
そう考えると、家に帰って、両親を見守っていた方がいい気もするから。高月くんに助けを求めたけれど、高月くんが何とかしてくれるまで、あるいは何とかできる方法を教えてくれるまでは、わたしが一人で頑張らないといけないのだ。
なんとかできるかな……と考えながら家までたどり着き、扉の前に立って、ふと気が付く。
「――……いや、家の中に入れないじゃん」
わたしの能力が足りないのか、それとも幽霊とはそういうものなのか、壁の中へとすり抜けることができない。人間は触れないのに、物には触れる。触れるということは、人間のときと同じように、障害物があればそれを避けなければいけないのだ。
完全に失念していた。
下の駐車場に父の車があったから、二人はとっくに葬式会場から戻ってきているはず。だから、両親が帰ってくるタイミングを狙って、一緒に中へと入るのはまず無理だろう。明日はわたしの火葬があるから、明日の朝出てくるのは確実だけど……それでは今晩室内で見守ることはできない。
インターホンを押せば出てくれるかな。いや、でも、ピンポンダッシュされるような立地じゃないから、怖がらせちゃうかな……夜だし……。
インターホンを押すかどうか迷っていると、ジジ……と廊下の蛍光灯が音を立て、明滅する。わたしの家は住宅街にあり、夜は静かだからか、蛍光灯の音が響いていると勘違いするくらいの音が、わたしの右側から聞こえてくる。
何か嫌な感じ、と右側を見る。右側には二軒部屋があるだけで、その先は行き止まり。階段すらない。
そのはず。
そのはずなのに――右側の、廊下の柵部分、下から指が這い出ていた。




