01
ドアノブにわたしがかかっている。
ホームセンターで買ってきた、ロープが、ドアノブに縛られていて、わたしの首と、ドアノブを繋いでいる。
――苦しかったな。
そう思って、わたしは、思わず首元に手を這わせた。死んでから、意識があって、物には触れないのに、自分自身を触って確かめることはできる。それでも、指先の感覚が鈍くなっているのか、それともわたしの記憶が感触を再現しているだけで実際には触れていないのか、首にあるであろう、キリトリ線のように横に伸びた、首を絞めた跡を確認することはできない。
死んで、幽霊になって、わたしはどこへ行ったらいいのか分からず、ただ自分の死体を眺めていた。死んだら何もなくなるとか、天国か地獄に行けるかとか、そういうことは考えていた。ここじゃないどこかへと、自然に移動するものだと勝手に思っていたけれど、実際はそうじゃないらしい。誰にも、何にも説明されなければ、わたしだってどうしようもない。
カチ、カチ、と時計の秒針が鳴る音が部屋に大きく響く。時折、外でトラックが通るような大きな音がする。その程度で、静かだったはずなのに――その沈黙を、破るものがあった。
ぎぎ、ぎ、と、ゆっくりと、わたしがドアノブにかかった扉が開いていく。
その扉の隙間から、芋虫がうごめくかのようにして、小さな指が、姿を現す。小さくて丸い爪。噛み癖があるのか、爪の先はボロボロで、ギザギザしている。
「ぁ、お、ぉ、ぇ、ぇ」
高い子供のもので、『異音』と称するのが正しいような、言葉にもなっていない声。
カリッ、カリッ、と扉をひっかく音。
少しずつ、少しずつ、扉が開く。
開いた扉の先には、小さな子供がいた。
わたしが窒息で死んだのなら、きっとこの子は飢えで死んだのだろう。そう思えるほど、がりがりにやせ細っていた。顔のパーツの比率は間違いなく子供なのに、妙に老けている印象を受ける、歪な子。
「ぉ、え、え、んん」
「――あんた、そんな見た目だったんだ」
わたしの部屋に入ってこようとしている子供に、わたしは言葉を投げかけた。わたしの言葉に反応したのか、一瞬、子供の指が止まる。
しかし、数秒もしないうちに、カリッ、カリッ、とまた扉をひっかき始めた。まるで、扉の開け方を知らない犬のように。
カリカリという、扉をひっかく音。
何を言いたいのかさっぱり分からない、うめき声。
閉めたはずなのに、気が付けば勝手に開いている扉。
全部――全部。ずっと、わたしを悩ませてきたもの全てが、こいつの仕業だったんだ。
こんな子供に、全部狂わされたんだ。




