現代でおやすみ
公園に寄ってから元の道に戻り、再び歩き出す。二人は言葉少なに俺の後ろをついてくる。これからの事を色々考えているのだろうか。急にこの世界に呼ばれ、右も左も分からず文字も読めないのは、さぞ心細いだろう。
家に入って一息つくと、フィオナの耳が再び元の大きさに戻る。
「なんだか疲れたわね。特に何かした訳ではないけれど」
「確かに疲れたんだぞ!飯は美味かったんだぞ!」
二人とも疲労の色は濃いようだが、ルッカはそれでも元気に見える。
「そろそろ寝ようか。明日からまた仕事だから、起きたらこれからの話をしよう」
「あら、そうなのね。分かったわ」
「分かったんだぞ!」
そこでルッカが首を傾げた。
「布団はあるのか?」
その言葉で、俺はハッとする。そういえば布団が一組しかない。普段来客などない我が家には必要なかったのだ。
「と、とりあえず布団が一組あるからそこに寝てもらうしかないな。俺はソファーで寝るから……」
二人に「少し待ってて」と言い、普段寝室にしている部屋へ入る。急いで布団を整えて軽く掃除する。本当は洗濯したいが、時間が時間なので仕方ない。
ひとまず整うと、二人を部屋へ呼んだ。
「この布団を使って。申し訳ないけど、一組しかないから二人で使ってね」
二人とも了承してくれたので、俺は部屋を出てソファーに横になる。忙しい一日だった。時計はもう深夜一時半を指している。早く寝ないと。
そう思ったのも束の間、すぐに意識は夢の中へ沈んでいった。
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「……ねぇ、起きてる?」
フィオナが隣で寝ているルッカに声を掛ける。
「なんだ?」
少し眠たげに目を擦りながら、ルッカが返事をする。
「あなたは不安じゃないの?」
この世界に来てから楽しそうにしている瞬間こそあったが、元の世界に帰れるのか、この世界で生きていけるのか。フィオナは言いようのない不安に襲われていた。
「別に。凪はいいやつだし、飯は美味しかったし、何も文句はないんだぞ」
その返事にフィオナはこめかみを押さえて唸る。
「なんでそんなに能天気なんですの? 元の世界に帰れる保証もないのよ? ずっとこの世界で生きていくかもしれないのに、少しは考えてますの?」
問い詰めるフィオナに対し、ルッカはあくまで淡々と答えた。
「帰れなくなっても、元々居場所なんてないからなんだぞ。いてもいなくても変わらない扱いだったんだぞ。それに」
少し間を置き、続ける。
「知らない道具や知らない事がいっぱいあるこの世界、ルッカは好きなんだぞ!」
「単純ですこと……」
フィオナは目を閉じる。帰っても、いてもいなくても変わらない扱い。それはフィオナとて大して変わらない。むしろ、邪険にすら扱われていた。
「帰れなくても、ね……」
そうかもしれないなと思いながら、フィオナはゆっくりと眠りに落ちていった。




