日本へようこそ
レジの前にいる店員に伝票を手渡し、財布を取り出す。
「ありがとうございます。お会計4200円です」
ステーキが一番高かったが、まぁ許容範囲かな、と財布から5000円札を取り出して支払う。二人がまじまじとお金を見ているのが視線で分かった。
お釣りを受け取り、二人を連れて店を出ると、フィオナが申し訳なさそうに言った。
「悪いわね、ご馳走になって」
「美味しかったぞ!ありがとな!」
ルッカは笑顔でお礼を言ってくれた。
「いや、気にしなくていいよ。この世界のお金なんて持ってないでしょ」
二人が神妙な面持ちになる。
「そうなのよね……」
「そうだな……」
「見たことないお金だったぞ。あんな紙で大丈夫なのか?」
ルッカが疑問を口にする。作り放題じゃないのか、という顔だ。
対してフィオナは、これからの事を不安に思っているようだった。
「しばらく帰れなさそうだし、お金を稼ぐ手段が必要よね……住む場所も必要だし」
知らない土地で生きていかなければいけない不安が、頭をよぎっているのだろう。俺は明るく務めて二人に言った。
「とりあえず、帰ろう。家に」
二人を連れて帰路に着く。歩きながらルッカに、「紙だけど偽造できないように細かく細工がしてあるんだよ」と言うと、
「そうなのか!?」
と驚いた顔で返してくれる。
反応がいちいち大袈裟に感じるほど、ルッカは感情が豊かだ。フィオナは少し俯きながら後をついてきている。
「多分、あの本が原因で二人はこの世界に呼ばれた。なら、俺には二人をこの世界で生きていけるように手伝う義務があるんだ」
二人は神妙に聞いている。巻き込まれたであろう二人が不幸になるなど、あってはならない事だ。立ち止まって二人の顔を見る。
「とりあえずは俺の家に住んだらいい。部屋はあるしね」
「それは助かるけど、迷惑じゃないかしら」
フィオナが遠慮がちにそう言うので、笑って返事をする。
「さっきも言ったけど、二人には幸せに生きてもらわないと。それが俺の義務みたいなものだし、その協力は惜しまないよ」
ルッカはうんうんと頷き、元気に言った。
「お世話になるぞ!」
再び歩き出し、来た道から少し外れて近くの公園の前を通る。そこに生えている立派な桜を見上げると、満開の花が風で揺れていた。
「綺麗な花ね」
フィオナが見とれている横で、ルッカもにこにこしている。
「綺麗だな」
「日本が誇る、桜っていう象徴とも言える花が咲く木だよ」
桜の木を見上げる二人に向き直り、改めて言う。
「本意じゃなかっただろうけど……フィオナ、ルッカ。日本へ、ようこそ」
祖父を亡くして一人になった俺と、王位継承権を失ったらしいフィオナ。そして、王位継承権から程遠い位置にいるというルッカ。
そんな三人の出会いは、こうして幕を開けた。




