初めてはファミレスで
家を出てすぐ、フィオナを見て気づいた。
「言い忘れてたけど、この世界にはドワーフもエルフもいないんだ。ルッカは幼く見えるだけで問題ないと思うけど、フィオナの耳は目立つから隠した方がいい。悪いけどフードを被ってもらえる?」
フード付きの服で本当に良かったと心底思う。
フィオナは驚いた顔で「そうなの?」と呟き、小声で何かを唱えた。
すると、長かった耳がすっと小さくなる。
「すごいね、それ魔法?」
聞くと、フィオナは少し得意げに答えた。
「簡単な魔法よ。見る人の認識を少しずらすだけ」
小さく「フードはあまり好きじゃないのよね」と付け加える。
「森に潜んでこの魔法を使ったエルフは、なかなか見つけられなくなるんだぞ」
ルッカが横から補足してくれた。
「魔法ってすごいんだね。ところで、何か食べたいものはある?」
二人に聞くと、「そうねぇ」「そうだなー」と揃って考え込む。
別の世界だと分かった以上、具体的な料理名が出ないのは当然だろう。それでも、なるべく希望には応えてあげたい。
二人がここに来たのは、多分あの本のせいだ。せめてこの世界にいる間くらい、不自由なく過ごしてほしいと思う。
「肉だぞ! ガッツリ食べられるのがいいんだぞ!」
「特にこだわりはないけど、野菜多めだと嬉しいかしら」
希望が出そろい、頭の中に深夜営業している唯一のファミレスが浮かぶ。
「よし、じゃあ店に食べに行こう」
提案すると、二人は周囲を見渡した。
「そういえば真っ暗だけど今何時なの? というより、時間の概念は同じなのかしら」
フィオナが首を傾げる。
「確かに、こっちに来る前は昼間だったな。店は開いてるのか?」
ルッカも少し心配そうだ。
「大丈夫、店は開いてるよ。ずっと開いてるから。時間に関してはね……」
歩きながら時間の説明をする。途中から伝わっているか不安になったが、
「なるほど、大体同じね」
「ほぼ同じなんだぞ」
どうやら理解してくれたらしい。ほっとする。
「開きっぱなしで大丈夫なの? 盗賊に襲われたりしないの?」
なるほど、異世界だと襲われるのか。怖いな異世界。
「平和な国だからね。滅多なことはないよ」
歩いているうちに目的地のファミレスが見えてきた。
「ほら、あそこがお店」
指さすと、二人は少し嬉しそうに笑う。楽しみにしてくれているらしい。
三人で入口の前に立つと、自動ドアが開いた。
ルッカとフィオナはびくっと体を固くする。
「大丈夫だよ」
声をかけると、二人はおそるおそる店の中へ入っていった。




