謎の魔法陣
「で、なんでこんな事になっているのか、誰も分かりませんの?」
フィオナの言葉で、さっきの光景が鮮明に蘇る。
机の上で光った本。浮かび上がった魔法陣。そして、気づいたら部屋にいた二人。
あの魔法陣。あれが何かをしたとしか思えない。
「実はさっき、じいちゃんから貰った本を読んでたんだけど……急に本が光って、魔法陣みたいなのが出てきてさ。気づいたら二人がいたんだ」
自分で言っていても、荒唐無稽な話だと思う。
説明が終わるや否や、ルッカが勢いよく身を乗り出してきた。
「本から魔法陣だぞ!? もしかして魔道具なんだぞ!? 見せて欲しいぞ!」
食いつきがすごい。目がきらきらしている。
俺は苦笑しながら本を差し出した。
「これだよ。亡くなったじいちゃんの遺品だから、丁寧に扱ってね」
「大丈夫、分かってるんだぞ」
返事は軽いが、表情は真剣だ。
ルッカはそっとページをめくる。
「本自体に魔力が込められてるんだぞ……それもかなり大量の魔力だぞ。だいぶ減ったみたいだけど、それでもまだ結構残ってるんだぞ」
感心したように呟く。その後ろからフィオナが身を寄せて覗き込んだ。
「これが例の魔法陣ね。……巡る因果の魔法陣? どういう意味かしら。何かを指定する一文が全く無いわ。この魔法陣、どうして動くの?」
全く理解できないと言いたげな顔だ。
ルッカも顔を上げる。
「不思議なんだぞ。魔法陣自体が珍しいのに、もはや意味不明なんだぞ」
つまり、二人とも分からないらしい。
俺は本を見つめながら、小さく呟いた。
「この本が原因だとしたら……無理やり二人を、異世界から連れてきてしまったのかな……」
申し訳なさが胸に広がる。
もし本当にそうなら、俺が読んだからこうなったという事になる。
いや、そもそも。
じいちゃんがそんな事を意図してやるだろうか。
あの人は優しかったが、筋を通す人だった。誰かを無理やり巻き込むような事をするとは思えない。
「本当にこれが原因なの? とても信じられないのだけれど……」
フィオナが困惑した表情を浮かべる。
「これしか心当たりはないよ。魔法陣が光った直後に、二人が現れたから」
言いながらも、自信があるわけじゃない。
フィオナは納得しきれない様子で黙り込む。
その時、さっきルッカが言った言葉を思い出した。『人間は私たちと違って』と聞こえた。
「あの、ルッカって人間じゃないの……?」
恐る恐る聞いてみると、ルッカは目を丸くした。
「気付いてなかったんだぞ? 私はドワーフだぞ。グラン王国、継承権二十三位。由緒正しいドワーフだぞ」
胸を張る姿はどこか得意げだ。
そのまま横目でフィオナを見る。さっきのフィオナの口調を真似ているのが丸分かりだ。
フィオナがきっと睨む。
ルッカはすっと視線を逸らした。
「ひとまず、現状ではこの魔法陣が原因かは分からないわ。可能性は高そうだけど。詳しく調べてみるしかないわね」
フィオナが話を戻す。
確かに、それ以上は今は進みようがない。
どうしたものかと考えた、その時だった。
ぐぅ
静かな部屋に、はっきりとした音が響いた。
数秒の沈黙。
「……お腹が空いたんだぞ」
ルッカが、少しだけ恥ずかしそうに言った。




