突然の出会い
場に沈黙が落ちた。
俺は状況が飲み込めず、ただ呆然としているしかなかった。
目の前の二人も同じらしい。取っ組み合ったまま、ぴたりと固まっている。
さっきまで光に包まれていたはずの俺の部屋。
なのに今は、知らない女の子が二人、目の前で睨み合っている。
意味が分からない。
「えーと……初めまして?」
とりあえず、口から出た言葉をそのまま言った。
二人が同時にこちらを見る。
「……あんたは誰?」
先に口を開いたのは、二十代前半くらいに見える女性だった。
透き通るような白い肌。
エメラルドグリーンの瞳が印象的で、流れるような金髪が肩にかかっている。整いすぎていて、思わず息をのむ。
仕立ての良さそうな刺繍入りの黒いフード付きローブを、白いワンピースの上に羽織っている。どこか気品がある。
そして何より目を引くのが、すらりと長い耳だった。
「……エルフ?」
ファンタジー好きなら誰でも思い浮かべるであろう言葉を、俺はそのまま口にしていた。
「そうよ。見れば分かるでしょう?」
彼女は顎を少し上げる。
「私はエルデリア聖王国の第一王女、フィオナ・エルデリア。由緒正しいエルフなの。あんたみたいなただの人間が、気軽に喋れる相手じゃないの。分かる?」
少し威圧するような口調で、自己紹介する。
頭が追いつかないでいると、取っ組み合ったままのもう一人が、ぼそりと呟いた。
「……王位継承権のない、ただの王家の娘ってだけなんだぞ」
その一言で、空気がぴりつく。
フィオナの目がつり上がった。
「王位継承権が無くなろうが、王族は王族よ!」
さっきまで本気で喧嘩していたのだろう。二人の間に火花が散りそうな勢いだ。
このまま放っておくと、また取っ組み合いが再開しそうだ。
「待って、喧嘩しないで」
俺は慌てて口を挟む。
「正直、状況が全然分からないんだ。ひとまず落ち着いて、今どうなってるのか話し合わない?」
二人は一瞬だけ睨み合い、やがてふっと力を抜いた。
取っ組み合いをやめ、三人で向かい合う形になる。
「とりあえず、お茶入れるからさ。椅子に座って待ってて」
自分でも何をしているのか分からないが、いつもの癖でそう言っていた。
三人分のお茶を用意してテーブルに置く。俺も椅子に座り、ひと口飲んで気持ちを落ち着ける。
向かいの二人を見る。
「えーと……そちらのエルフの方が、フィオナさんだったかな?」
「ええ、フィオナ・エルデリアよ」
お茶を口にして、彼女は少し目を見開いた。
「あら、意外と美味しいわね」
その仕草がいちいち絵になる。危うく見とれそうになるが、慌てて視線をもう一人に移す。
「先に名乗りますね。俺は一ノ瀬凪、いちのせなぎって言います。見ての通り人間です」
自分で言っていて、なんだか妙な自己紹介だと思う。
すると少女がこくりと頷いた。
「ルッカ・グランツ。よろしくなんだぞ」
短い挨拶。
身長は百三十センチくらいだろうか。幼く見えるが、体つきはがっしりしている。
服はところどころ汚れ、繊維も傷んでいて、作業着のような印象を受けた。
青みがかった髪を後ろでまとめ、少し気だるそうに目を細めている。
ルッカもお茶を飲み、ぱっと表情を明るくした。
「ほんとだ。美味しい」
さっきまで喧嘩していたとは思えない無邪気な笑顔だった。
エルフの王女と、どこか職人気質そうな少女。
そして普通の人間の俺の、初めての出会いだった。




