女神現る
上機嫌で風呂から上がってきたフィオナは、思わず息を呑むほどに美しかった。
ルッカと同じく、天使の輪が浮かぶようなさらさらの金髪。湯気に火照った頬は淡く色づき、その整った顔立ちは現代ではまずお目にかかれない、まさに女神と呼ぶに相応しい。
思わず見とれていると、フィオナがふいっと視線を逸らし、頬を染めた。
「あんまりじろじろ見ないでよ。恥ずかしいじゃない」
「ご、ごめん」
俺までつられて顔が熱くなる。
「なんだ、そういう仲になったのか?」
横からルッカがにやにやと茶化す。
「そんなんじゃないよ!」
「ないわよ!」
声が綺麗に重なり、ルッカがけらけらと笑った。
「それにしても驚いたよ。シャンプーとリンスだけで、ここまで変わるんだね」
その言葉に、ルッカは照れくさそうに頭をかく。
「て、照れるぞー」
「日本には化粧品もたくさんあるから、使いこなせばモデルみたいになるかもね」
何気なく言った一言だった。
だが次の瞬間、フィオナとルッカの目がきらりと光る。
「ほ、本当に色々あるから……買うときはちゃんと調べて、少しずつにしようね?」
慌てて釘を刺すが、もう遅い。
「これは似合いそうだわ」
「こっちはどうなんだぞ?」
二人は早速並んで画面を覗き込み、楽しげに相談を始めている。
仲良くはしゃぐ姿を見て、まあいいか、と小さく笑った。
夜も更け、そろそろ寝ようと声をかける。
「もう寝ようか」
「そうね」
フィオナはすっと立ち上がり、部屋の前で振り返った。
「おやすみなさい」
柔らかく微笑んで扉の向こうへ消える。
ルッカも目を擦りながら、
「おやすみなんだぞ……」
とふらふらと部屋へ入っていった。
俺も自室へ戻り、布団に潜り込む。
……ふわりと、甘い香り。
さっきの湯上がりの残り香だろうか。
ぶんぶんと頭を振り、余計なことを追い払う。
携帯のアラームを設定し、目を閉じた。
翌朝、アラームの音で目を覚まし、身支度を整えて部屋を出る。
すでに起きていたのか、フィオナがキッチンに立っていた。
「軽いものでよかったら、用意したわよ」
焼きたての食パンに、目玉焼き。コーヒーの香りが広がる。
「ありがとう。嬉しいよ」
皿を受け取りテーブルへ運ぶ。向かいにフィオナが座り、二人で手を合わせる。
「いただきます」
同じものを食べているはずなのに、なぜこうも上品に見えるのだろう。
「なんだか、いい匂いがするんだぞ……」
寝起きのルッカが現れる。
昨夜はあれほど整っていた髪は、見事に寝癖で跳ねていた。
「ルッカの分もあるわよ。運んでらっしゃい」
「ありがとうだぞ!」
嬉しそうに皿を持ち、席につく。
三人で囲む朝食、それだけのことが、妙に心地いい。
「今日も仕事に行ってくるけど、外に出るときは車と不審者には気をつけてね」
「わかったわ」
「わかったぞ!」
二人の返事を聞きながら、なんでもないこの日常が、少しだけ愛おしく思えた。




