手料理を振る舞う
「さて、準備も出来たし作っていくわ。期待して待っていて頂戴」
フィオナが気合十分に、今日使う予定の食材をキッチンカウンターに並べていく。エプロン姿もすっかり板についてきた。包丁を握る手つきも、最初に比べれば随分と慣れたものだ。
何ができるのか楽しみにしつつ、俺は「悪いけどお願いね」と声をかけてダイニングへ移動する。
ふと視線を向けると、ルッカがソファーの上で、買ったばかりのお菓子の封を今まさに開けようとしていた。
「ダメだよルッカ!」
慌てて止めると、ルッカはびくっと肩を揺らす。
「フィオナが料理を作ってくれてるんだから、大人しく待とう。今お菓子食べちゃったらご飯が入らなくなるよ。そうなったら作ってくれたフィオナに失礼だよ」
俺がそうたしなめると、ルッカはぶーっと頬を膨らませながらも、渋々お菓子を棚に戻した。
棚には今日買ってきたお菓子が、所狭しと並んでいる。
「ほんと、沢山買ったね……」
改めて見ると、なかなかの量だ。
「ほ、欲しかったら分けてあげてもいいんだぞ」
そう言いながら、さりげなく棚の前に立ちはだかるルッカ。言葉とは裏腹に、独り占めしたい気持ちがなんとなく伝わってくる。
一応俺の金なんだけどなぁ。いや、いいんだけどさ。
「ご飯前以外で、小腹がすいた時に食べたらいいよ。ルッカが買ってきたお菓子なんだから、ルッカが食べていいよ」
そう言うと、ルッカの瞳がぱあっと輝いた。
「ありがとうだぞ!凪はいいやつなんだぞ!」
満面の笑みでそう言われると、まぁいいかという気分になるから不思議だ。
苦笑しつつ、前から少し気になっていた事を思い出す。この機会に聞いてみようかと、ルッカに小声で話しかけた。
「そういえばさ、最初ここに来た時に二人が掴み合ってたけど……ひょっとして、あんまり仲が良くなかったりする?」
キッチンにいるフィオナに聞こえないよう、声を落とす。
ルッカなら、重たい話にはならないだろうと思っての事だ。
「良くは無いけど、悪いという訳でもないんだぞ」
即答だった。
「あの時はフィオナが……」
そこまで言って、少し言葉を切る。
「まぁ私たちは王女だしな。王女同士で色々あるんだぞ」
俺は少しだけ後悔する。無神経だったかもしれない。
「ごめんね、無理に聞きたい訳じゃないんだ。あの時は少しびっくりしたけど、それ以降別に喧嘩してる様子もないしさ。仲良くしてくれたら嬉しいなって思っただけだよ」
そう言うと、ルッカは一瞬きょとんとしたあと、ニカッと笑った。
「別にフィオナは元々悪いやつではないんだぞ。むしろ、努力家で一生懸命で、真面目すぎるだけなんだぞ」
照れ隠しみたいな言い方だ。
喧嘩するほど仲がいい、が当てはまるのかどうかは分からないけど、少なくとも嫌っているわけではなさそうだ。
「それなら良かった」
キッチンから、トントンと子気味良い音が響いてくる。包丁がまな板を叩く音。油が温まる小さな音。いい匂いも漂ってきた。
楽しそうに料理をするフィオナをなんとなく眺めていると、ふと目が合った。
少しだけ、頬が赤い。
「そんなに時間はかからないから、あんまり見ないで」
「フィオナが照れてるんだぞ!」
すかさずルッカが茶化す。
次の瞬間、ヒュン!と空気を切る鋭い音がした。
「ぶっ!」
ルッカの頬に、皮を剥いたじゃがいもが見事にクリーンヒットしていた。
「痛いんだぞ!」
「集中を乱さないで頂戴」
フィオナは何事もなかったかのように包丁を握り直す。
……仲は悪くない。うん、多分。
そう思いながら、俺は転がったじゃがいもを拾い上げた。




