フィオナの提案
椅子に座って一息つく。今日の晩御飯はどうしようかなと考えていると、フィオナがおずおずと話しかけてきた。
「ねぇ、ちょっと考えたんだけれど……私が料理を作りましょうか?」
一瞬、言葉の意味を飲み込めずに間が空く。
「えっ?」
思わず間の抜けた声が出た。フィオナが料理を?王女だよな……。作れるのだろうか、と不安がよぎる。いや、それはさすがに失礼だろうと慌てて打ち消す。
「作ってくれるの?すごくありがたいけど、無理しなくても大丈夫だよ?」
そう言うと、フィオナは小さく首を振った。
「無理じゃないわ。これからしばらくお世話になるわけですし、できることはしたいと思っただけですわ。それに……」
言葉を切り、タブレットの画面をこちらに向ける。そこには料理のレシピサイトが表示されていた。
「調べれば何でも出てくるのよ。私、料理は好きなの。任せてくれない?」
自信ありげなその表情に、俺は素直に感心した。王女だから料理はできないのでは、なんて少しでも思った自分が恥ずかしい。
「すごく嬉しいよ。それなら食材を買いに行かないとね」
財布を手に立ち上がると、ルッカもスマホを突き出してきた。
「見るんだぞ!ここでセールをやっているんだぞ!」
フンッと鼻を鳴らしてドヤ顔だ。
「ルッカもありがとう」
近所のスーパーのセール情報まで見つけてくるとは、なかなか侮れない。
「せっかくだし、三人で行こうか」
二人を連れて家を出る。外はすっかり夕方で、太陽はもうすぐ沈みそうだ。
歩きながら、ふと思い出す。
「あ、服も買いに行かないと。そうだ、布団もだ」
頭を抱える。近くに大型のディスカウントストアはあるが、スーパーにも寄るとなると、どうしても手間が増える。
「食材なら、私とルッカで買いに行きましょうか?」
フィオナがそう提案してくれた。正直、ありがたい。
「大丈夫?お金の計算とか、スーパーの場所とか」
確認すると、フィオナは穏やかに微笑む。
「もちろんよ。必要そうな知識はちゃんと学んだわ。分かる範囲だけれど。スーパーはさっきの広告に住所が載っていたし、問題ないわ」
スポンジみたいに知識を吸収する、その地頭の良さが少し羨ましい。
「ルッカは動画ばっかり見てたから、分からないんだぞ!」
なぜか胸を張るルッカに、思わず笑ってしまう。
「私がちゃんと見ておくから大丈夫よ」
やれやれという顔のフィオナ。けれどルッカはまったく気にしていない。
「じゃあ、お願いしようかな」
数枚のお札を小さな巾着袋に入れて、フィオナに手渡す。
「悪いけどお願いね。布団と、とりあえずの服を買ってくるよ」
二人と別れてディスカウントストアへ向かおうとすると、なぜかルッカが当然のように俺の後ろについてくる。
するとフィオナが無言でルッカの襟首をつかみ、そのままスーパーの方へ引きずっていった。
「そっちじゃないんだぞー!」
夕暮れの道に、そんな声が響いた。




