出勤前に
食事を終えると、食器をシンクに片付けて再び椅子に座る。仕事に行かなければならない。2人には留守番を頼むしかない。
「俺は仕事に行かなきゃだから、家で待っててほしいんだ。夕方には帰るから」
そう言って、しまい込んでいた辞書と、紙に簡単なあいうえお表を書いたものを手渡す。
「言葉が分からないと不便だろうから、これで勉強してみて」
受け取った2人は頷きながら、「この音がこの文字で……」とか「この言葉はこう書くんだぞ!」と、すごい勢いで覚えていく。
ものの数分でマスターしてしまった2人に唖然とする。だが正直助かるので、素直に感謝する。
あっさりと言葉を覚えた2人に、改めて1台のタブレットを手渡した。
「これは?」
「なんだぞ!?」
フィオナは不思議そうに首を傾げ、ルッカは未知の道具に目を輝かせている。
「これはタブレット。簡単な操作だけ教えるね」
使い方を教えると、2人とも驚くほどの速さで使いこなしてみせた。
「これは便利ね。この世界の事が色々調べやすくなったわ」
フィオナは興味津々で画面を見つめている。
「これは凄い道具だぞ!いんたーねっとというのも凄いんだぞ!」
隣から覗き込みながら、ルッカがはしゃぐ。
「これひとつしかないんだぞ?」
手持ち無沙汰そうに聞いてくるので、以前使っていたスマホを押し入れから引っ張り出して渡す。
「操作はタブレットとほぼ同じだから」
ルッカはさっそくスマホを触り始めた。
2人とも夢中になっているので、ぱんぱんと手を叩いて視線を集める。
「今から仕事に行くから、家にいてね。そのスマホとタブレットは自由に使っていいから。あと冷蔵庫。この冷える箱ね。この中に食べ物を入れてあるから、こっちの電子レンジで温めて食べて」
電子レンジの使い方も簡単に説明すると、ルッカは「いつでも暖かいご飯が食べられる道具、凄いぞ!」と興奮している。家電を見るたびにこうなるのかなと、思わず笑みがこぼれた。
玄関へ移動し、靴を履いて鞄を背負うと、2人に向き直る。
「来客は今日は無いと思うけど、たまに物を売りに来る人が来ることもあるんだ。買うつもりは無いから、出なくていいからね」
「分かったわ」
「分かったんだぞ!」
2人の返事を聞き、「行ってくる」と声をかけて扉を開けた。
「さて、これからどうしようかしら」
フィオナは静かに考える。召喚陣が書かれた本を調べ、帰る方法を探すのが第一だろう。けれど、手渡されたタブレットでこの世界の事を調べるのも悪くない。いつまでここにいるのか分からない以上、この世界について知っておくことも必要だ。
そんなフィオナの横で、ルッカは楽しげにスマホを操作している。
「何を見ているのかしら」
フィオナが覗き込むと、ルッカは職人が手作業で鉄芯を束ね、ナイフを作る動画を食い入るように見ていた……




