エピローグ
「グラハムさん、庇ってくださりありがとう」
マイラがお兄様に向き合った。暗に婚約の虚偽についても伝えたようだった。
「いや、あの。庇ったというか、全くの嘘でもなくてね、事実そういう話があるんだ。
伯爵家では釣り合わないなと思っていたんだけど」
マイラが目を丸くして、お兄様を見つめながら涙をこぼした。私は口をぽかんと開けてしまった。
「グラハムの身分なら心配しなくていいよ〜、たぶん陞爵されるよ〜」
ギョッとして水晶を見る。通話、切れてなかったんだ。
「みんなよく頑張ったよ」
「「ありがとうございます、アルバート殿下」」
いよいよマイラが泣き出したので、私はライに目配せをして少し離れることにした。今度こそ、通話は切れているわよね? そもそもどうやって切るの? 内緒話のようにライの耳元で話す。
「作ったのグラハムさんだし」
「そうね、お兄様だったわね」
私たちは、はぐれない程度の距離を歩いた。
「マイラ、良かったわね」
「完全にグラハムルートって感じだったよ。サイラス王子が登場したときは、どうなるかと思ったけど」
「グラハムルートでは子竜を連れ帰るの?」
「そんなことはないけど、サイラスが従魔を連れている設定にするかは揉めていたな。
第二部は私の卒業後、アルバート殿下が3年生、留学生のサイラス王子が3年生に転入するんだ」
「殿下方は同じ年なので気心が知れた感じだったのね」
「そうだな。マリエッタ嬢が第二部の悪役令嬢なわけだが、このままだと問題なく婚約も出来そうだな」
「時々お話に出てくるマリー様ですか?」
「そうだよ、幼馴染の公爵令嬢なんだ」
「幼馴染ってロマンチックですね」
「クレアは幼い頃から近くにいる人が良かった?」
アメジストの瞳が揺れながら、でもしっかりと見つめられた。ドキッと大きく心臓が跳ねて、顔が火照った。
「私、ちゃんとライのこと好きですよ?」
ライは驚いた顔をしたあと嬉しそうに、良かったといい、私を掻き抱いた。
私の背中を動くその手の熱に、お兄様との違いを自覚させられ、身体に熱が溜まるのだった。
その後、落ち着いたマイラの転移魔法で宿に戻り、帰路についた。子竜を連れたサイラス王子に会った村の人たちは、紅い髪の巫女の話の興味はなくしたようで、すんなりと村を出ることができた。
スウェイン王国に竜が実在したことは正式な報告書をあげることになった。辺境伯領の森への警戒は以前にも増して重要になるだろうけど、ルブラが親竜との橋渡しをしてくれる気がしている。
お兄様が、有用性のある通信魔導具を作ったとして、バートン伯爵家は侯爵家になった。竜じゃなかった。
お兄様が侯爵のほうがいいだろうと、お父様は爵位を譲ったけれど、領地の仕事の分担は以前と変わっていない。
それから、マイラとお兄様は正式に婚約した。未婚の令嬢を泊まりの旅行に連れ出すのだからと、当初から話があったけれどマイラの気持ち次第と言って保留してあったらしい。
お兄様がマイラのアイデアを形にしたら、私以上じゃない? 最強の夫婦になる気がするわ。
私は今日はホットケーキを焼いて、ライの訪れを待っている。ベリーのソースとクリームも用意している。喜ぶ顔を想像している時間は楽しい。
「クレアの手作りは嬉しいよ。今日はありがとう、早く毎日食べられる日が来てほしいな。
やっぱり卒業したらすぐ結婚しよう」
熱烈な言葉に根負けして、ドレスが作られ始めるまであと少し。
ヒロインが変わって第二部がもし始まってもハッピーエンドは守りたい。




