またね
「ご心配なさらずとも、子竜を連れて帰るつもりはありません。竜を目当てに娶られる不幸をご想像していただきたい」
私はおずおずと手を上げた。
「お、王子殿下がお名前をつけてあげてください」
「気が強いんか弱いんかわからんやつだな」
サイラス王子が少し笑った。
「正妃ならいいのか?」
「序列の話ではないですっ」
「そうか、残念だな」
サイラス王子はちっとも残念ではない顔をして、子竜に向き直った。
「そうだな『ルブラ』はどうだ。綺麗な赤色だからな」
「きゅぴっ」
「ルブラ!」
サイラス王子が改めて名前を言うと、子竜の周りにキラキラとした光があふれ、消えた。
「よかったわね」
「きゅぴぴ」
「話せるのか? やはり妃に」
「なんでそうなるんですか」
「わははは」
サイラス王子は声を出して笑った。
「ライオネル〜、グラハム〜! どうなったんだぃ〜」
「アルバート様!!」
しまったという顔をして、ライが応える。私も忘れていたわ。
「竜の卵を盗んだ野盗を捕まえたら、卵から子竜が生まれてしまいまして。どうしようかと思って殿下に指示を仰ごうとしたところで、サイラス王子殿下が見えまして」
アルバート殿下が話を続けた。
「サイラス〜、どうして山に?」
「そりゃ、竜が暴れそうなら来るだろう。部下の転移魔法で来たんだよ。それよりこの水晶はなんだ。本当にアルバートと話しているのか?」
「あげないよ〜」
「ケチだな。
それで? お前たち隣国の者がなぜここにいる?」
「予言がね〜」
「実は国の危機がここにあると、予言があったのです」
ライが、引き継ぐように説明する。
「予言者は? と言っても答えないか。
で? そこに拘束されてる阿呆どもが卵泥棒か」
「そうです。山を降りてくるところを捕まえたので、どうやって盗んだか、卵がいくつあったかまでは、私たちは知りません」
「卵がそのまま山を降りていたら、貴国に竜が行く前に我が国が危なかった。
だが、礼は言わんぞ。どうせ正式な訪問じゃないんだからな」
「私たちは争いにならなければ、それでいいのです」
「あいわかった」
話が終わって、改めて私は聞いてみた。
「あの……竜の花巫女って結局なんですか?」
「あぁ、そこからなのか。我が国の言い伝えでな、赤い竜を従えた紅い髪の少女が国を作ったと言われているんだ」
「魔獣と同じように普通に契約出来ましたね」
「出来たな……」
サイラス王子は、改めて子竜を眺めて、柔らかく微笑んだ。
「きゅる、きゅぴぴ」
「うん、またね!」
私は子竜、改めルブラに挨拶した。
「また正式に会いに来い、アルバートもお前たちも。俺は一度麓の村に行って、そいつらを引き取りに来させる」
マイラはずっと、お兄様の服の裾を掴んだまま、後ろに隠れていた。サイラス王子は確かに怖かった。
「みんなご苦労様。子竜は残念だが我が国では手に余るし、丸く収まって良かったよ。他の部隊にも連絡しておくね」
アルバート殿下の締めの言葉で、やっと落ち着くことが出来たのだった。




