伝説の山
気がつくと私たちは宿の部屋にいた。
「とりあえず宿にしたけどどうしよう」
マイラが言う。
「マイラ、魔法……」
「使っちゃった……グラハムルートの魔法。でもまだ他の魔法も使えそう」
マイラが呆然としながらも、どこか宙を見て言う。ステータスを見ているのかもしれない。私はマイラをぎゅっと抱きしめる。
「おかげで助かったわ……ありがとう」
「ここから、どこに行けば」
マイラが不安げに言う。
「グラハムルート……なら、問題がまだ何かある。ひとまず山に。
国に帰っても良いが、山が気になる。飛べそうか?」
ライがマイラに聞く。震えが収まったマイラが、告げる。
「1度行ったところには飛べるわ。掴まって」
そして私たちは再び山小屋のあたりまで来たのだった。
「やはり竜はここにいるんじゃないか? 竜と戦うルートがあるということは、この世界に存在するはずなんだ」
「登ってみよう。転移魔法で帰れるなら遭難の心配もない」
ライとお兄様で指針が決まった。
私たちは顔を見合って頷いた。
山道はだんだん足元が険しくなる。ライが支えて引き上げてくれる。お兄様はずっと手を繋いでいるわけじゃないけど、マイラが躓きそうになったら、支えていた。
太陽が真上を過ぎて、昼過ぎになっただろうか。空腹を感じた頃、お兄様がカバンから水の入った携帯ボトルを出した。
「念のため、持っていたものだから、回し飲みになるんだが、少し休もう」
クッキーもあったのでありがたくいただいた。そしてさらに登ろうとしたときだった。僅かに人の声が聞こえた。
「向こうから何か聞こえる。こちらに隠れよう」
ライが言って、声が近づく方向から隠れられる木の影に身を潜めた。
「お頭、少し休憩しましょうよう」
「馬鹿言え、できるだけ遠くまで早く行くんだ」
「まだ大丈夫ですよう」
「だめだ!」
ぞろぞろとガラの悪そうな人たちが遠目に見えてきた。軽装だが革鎧をつけ、槍のような武器を持っている。よく見るとなにか、バスケットボールより少し大きくて楕円のものを抱えている。
「ライ、あそこ、何か丸いものを抱えているわ」
小声で伝える。ライは、ギョッとした。
「卵だ! 親竜が来るぞ」
お兄様も、マイラも顔色を変えて、集団を見据える。
「捕まえて、卵を親竜に返すしかない」
ライは飛び出して行った。ライって戦えたの?
「火炎魔法は山を焼いてしまうわ。何を使えば……」
マイラは小声でつぶやきながら、ライに続く。
「クレアはここから動かないで」
お兄様も戦いに向かっていった。心細く思いながらも自身を叱咤して戦闘を見つめる。
ライが手を上げると、つららのような氷の槍が雨のように野盗たちを襲い、あっという間に戦意をくじいた。
マイラが風の魔法を器用に使って卵を保護する。ライが撃ちもらして逃げ出す野盗を、お兄様が魔法銃で仕留めていく。
良かった。強すぎるくらいよね。
「その武器! グラハムさんはどんだけ規格外なんですか!」
ライが驚いたように叫ぶ。
「ライこそ、『氷の貴公子』は伊達じゃないねぇ」
「それは! 勘弁してください……」
ふたりで野盗たちをまとめて、捕らえて行く。お兄様が拘束に適した鎖を出してくる。あのカバン何が入ってるのかしら。
「クレア! 罪人でも他国の人間だ。拘束したものから治癒してくれないか」
ライの声に、私も近くに行く。2人ほど治癒したときだった。
「わっ! 指が生えた」
怪我をなかったことにすべきかと思ったけど、お兄様とライの視線が痛いわ。
と思っていたらマイラの困惑する声が聞こえた。
「え? ちょっと待って! どうしよう!? 卵が!!!」




