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花竜祭

 翌日、宿の人に頼んでサンドイッチなどの携帯食を作ってもらった私たちは、山に向かった。入山を制限されても困るので、行き先は告げなかった。


 平地は馬車で行けるわよね、そうよね。昨日の疑問に一人納得していると、ライが


「山に何かあるのかな」


 という。遠くから見る限り険しそうで美しい山だった。


「軽装だから奥までは行かないようにしよう」


 私たちは頷いた。



 昼に入る少し前に山の手前に着いた。少し早いけどランチにする。サンドイッチの具は山鳥の肉と卵がメインでとても美味しかった。


 馬車には待っていてもらうことにして、私たちは山を少し登ることになった。途中までは人の出入りがあるのか道があった。

 実の成っている樹も見えるから収穫に来る人がいるかもしれないし、詳しくないけれど薬草もあるのかもしれないと思った。


 道は山小屋まで続いていた。人の気配はないように見えたけど、確かめるのもはばかられた。入山を管理している人だったら不味いからだ。とても静かな山だけれど、とりあえずここまでにして、帰ることにした。


 帰り道、村の外れに酒場のようなものが見えたけれど、宿で用意されている夕食に間に合いそうだったので、酒場は諦めた。

 村と呼ばれていたけれど、案外栄えているんだなと思った。


「料理はお部屋にお持ちします」


 と言う宿のご主人のご厚意に甘えて、今回も部屋で食べることになった。ミルクシチューにパンと、山鳥の照り焼きみたいなもの、ベーコンと芋のグラタンだった。どれもほっこりとした優しい味で美味しい。


「山の上じゃないけど、山が近いのが分かる料理だね」


 ライが、山鳥をかじって食べる。ナイフはなかった。

 

「山鳥もチキンより硬いけど味わい深いわね」


 かじるなら、お箸がちょっと恋しいと思った。マイラもフォークで食べていた。

 

「いろんな料理が食べられて楽しいわ。お祭りは何か屋台が出るのかしら」

「聞いておけばよかったわね。広場のあたりなのかな。どういう形のお祭りなのかしらね」


 部屋に料理を届けてもらったとき、宿の人たちがマイラを見る目が気になって、何も聞けなかった。紅い髪って珍しかったかしら。この違和感を追求しなかったことを悔やんだのは次の日だった。


 花竜祭の日、活動しやすいようにブラウスとベストと少しゆったりしたワイドパンツという装いにした。


 靴はスニーカーほど歩きやすくはないけどヒールのないぺたんこのカジュアルなものだ。


 視線も日差しも気になるので帽子をかぶることにした。髪はまとめて帽子の中に入れ込んだ。


 宿からは歩いて会場に向かった。屋台はいくつかあるけど多くはない。向こうの方にお供え物がされている祭壇が見える。髪に花を飾ってる人が多く、屋台の柱にも花が飾られていた。形はマーガレットやコスモスに似ていて、花びらは赤かった。


 会場に向かって歩いていくと遠くから『スリ』って聞こえて、勢い良く走ってくる子供がいた。子供だから捕まえるのに躊躇したのがよくなかった。私たちにぶつかって行ってその拍子にマイラの帽子が落ちて髪が広がってしまったのだ。


「紅い髪……」

「巫女様」

「竜の花巫女様」


 人々の異様なつぶやきに、危険を感じて私たちは逃げた。


「こっちだ」


 お兄様がマイラの手を引いて、ライが私を担いだ。路地まで来たとき、マイラが慌てて言った。

 

「全員で手を繋いで! あ、ライはそのままでいいわ」


 お兄様とライが手を繋いだ瞬間、景色が一変した。

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