スウェイン王国
国境は、ミルド共和国のときと同じで問題なく超えられた。馬車では、皆が眠ってしまい、あっという間に昼になった。
「サンドイッチに入ったエビがぷりぷりして美味しいわ」
「そうね、エビはフェイムでは食べられなかったから嬉しいわよね」
マイラがうなずく。
具を選んで作ってもらえたサンドイッチだけど、ライ達のものは薄切りのお肉がこれでもかと入っていた。ソースはミルド共和国らしい味とのこと。
「ひとくち食べてみるかい?」
「でも」
「今は貴族じゃないし、私たち以外誰も見てないしね」
お兄様は見ているけれど、興味に負けてひとくちもらうと、マヨネーズのようなソースと少し酸味のある黒いソースが層になっていて、意外とサッパリしていた。
「こっちも美味しい」
「うん。ソースって瓶詰めとかで売ってるのか気になるね。グラハムさんが詳しそうだけれど」
「売ってはいるけど、そこまで日持ちしないから、輸入商品としては扱ってないんだ。レシピを買うのを検討してもいいな……」
さすがだった。お兄様が商会に入ったのは、確かお米を輸入する時だったと聞いている。
それまでお父様がささやかにやっていた商会が、どんどん大きくなったのだ。
王宮御用達ではないけれど、何を扱っているのかもうわからない。
昼過ぎに賑やかな街に着いた。馬の休憩とおみやげの購入で、一度馬車を降りる。
「チョコレートもいいけど、帰るまでに溶けそうね。保冷庫まで買うわけに行かないし」
「仕入れ用の馬車じゃないから、やはり工芸品がいいかな」
「彫刻品って微妙な物が多いわよね」
「こっちは磁器の食器があったはずだ。好きな絵柄を選んでごらん」
私達は食器の店に寄った。お兄様はここでも仕入れたりしないわよね? 珍しい猫の絵柄のカップに目を奪われていると、お兄様が頷いて購入してくれた。
「家族の席にはそういう柄もいいんじゃないか」
マイラは青い小花のカップを見ていた。縁取りは細く金で、可愛いのに華やかなデザインだった。
「こんなに繊細なもの、私達の馬車に載せて割れないかしら」
マイラの心配はもっともだ。結局、送ってもらうことになった。
良い買い物なんだけれど、持って帰れるわけじゃなく、お土産としてどうなんだろうと思っていたら、店員さんがカバンや革細工はどうかと提案してくれた。デザインがフェイム王国とは違うらしい。
2件隣のカバン屋さんにも寄った。つやつやで鮮やかな色の小ぶりのハンドバッグがあったので、お母様にはそれの赤い色を選んだ。
マイラは金具の装飾が綺麗なハンドバッグを選んでいた。装飾は綺麗だけれどどこか力強く、機能美を追求したようなそれは、侯爵婦人に似合うのかなと姿を思い出していた。
ライは革張りのペンを見ていて、私もお父様にそれを買うことにした。
そうして一路、西へ向かう。
夜には長閑な景色を抜けて村のようなところに着いた。スウェイン王国の西の領地、サンデスだ。村と言っても宿くらいはありそうな大きさだ。
野営よりはいいだろうと、取れた宿は村で一番良い部屋で、たまに視察に来る王族が泊まるとの事だった。値段はともかく1部屋しかないのは少し問題だった。
ツインのベッドと、従者用のベッドが1つで宿の人が困っていた。あまり理解していないマイラに内容を伝える。スウェイン語はあまり得意ではないのかも。
「私はレイと寝るから大丈夫よ。VIP用だけあってベッドも広いわ」
宿のご主人が安堵しているのが見えた。お兄様がサインをすると、不思議そうにライの顔を見て、マイラの顔を見直しては驚いていた。お忍びとバレたのだろうなと思ったけれど、たいした問題ではないと思っていた。




