兄という壁(ライオネル視点)
クレア達との食事も終わり、男部屋に戻った。
「酒でも飲むかい?」
少し驚いてグラハム卿の顔を見た。そういえばこの世界では、20歳にならなくても飲めたんだな、と思い直して応える。
「少しなら」
「じゃあ階下に行こう。情報が集まるかも知れない」
目的を思い出し、置いていかれなかったことに感謝した。
出発の前々日は国王陛下に、ひとり呼び出されていた。人払いされた応接室で話した。
「たまには二人で話そうと思うてな」
そう、アル殿下がいないことを伝えられた。
「アルバートが君の特異性に気づいたのは薬を作り始めたときと聞いた。相違ないか?」
「そうです、研究を頼もうとした方が殿下の家庭教師も兼ねていたらしく、研究を始める前、すぐにバレてしまいました」
陛下は優しく頷いた。知っていることの確認なのだろう。
「アルバートはその時、何か言っていたかな?」
「君は何が見えてて、何を知ってるの? みたいな感じです」
「そうか。秘密を話したライオネルに免じて、わしの秘密も1つ話そう。
全員ではないが王族は真実か嘘か見抜けるんだ。心が読めるわけじゃないし、万能ではないんだが」
私は驚きを隠せなかった。殿下がなぜ信じてくれるのか不思議に思ったことはあったけれど、すとんと腑に落ちた。
「やはり次の王はアルバートだな。王妃がフレディを可愛がっていて面倒だが」
「フレデリック殿下が王太子になる可能性もあったのですか?」
「貴族共の人気が高いのは無視できなくての。御しやすいと思われているのだろうが王妃の意向もある」
そこまでフレデリック殿下の勢力が強いとは思ってなかった。何しろ頭の良さがアルバート殿下と差があったからだ。口に出しては言えないが。
「国が割れないといいのですが」
「さすが次代の宰相というところか。だから、今回は成果を上げてこい。アルバートの手足としてな」
「御意」
今日の陛下は饒舌だ。ふたりしかいないから無言でも困るけれど。
「グラハムからは水晶のような通信機を受け取った。対の通信機はグラハムが持っておる。報告は怠らないこと。
それから、あの才は見逃せない。必ず国に連れて戻るように」
「はっ」
陛下から見てもグラハム卿の能力は群を抜いているのだろうな。
「今回、ケネスは護衛部隊に入れた。騎士団長からごねていると聞いたしちょうど良かった。魔法師団長とルークは領地に戻って森を警戒してもらうことにした」
「見事な布陣かと」
「アーネストは、今回はいいだろう。交渉事があれば使えるが、ライオネルもグラハムもスウェイン語は使えるだろうしな」
「はい」
交渉があれば頑張ろうとその時は思っていた。
陛下とのやり取りを思い出しつつ、ちびちびと酒を呑む。割ってあるが軽くはなく、鼻に抜ける柔らかな香りはウイスキーを彷彿とさせた。
前世はそれなりに呑んだが、17歳の今はどれくらい呑めるんだろう。
「顔に出ないのか、強いのか、酔いがわからないね」
驚いて顔を触ってしまう。
「感情は顔に出るんだ」
グラハム卿に忍び笑いをされる。クレアと7歳違うと聞いた。まだまだ年齢は若いよなぁ?
「ライは何歳まで生きていたんだ?」
「あ……
記憶があるのは35でした。職場で1チームを任されるくらいの年齢です。」
「クレアは幼く感じないのかい?」
試されてる? 酔ってる?
「おじさんの記憶もあるけど、この世界で子供として生きた記憶もきちんとあるので、妙な話に聞こえるかもだけど、きちんとクレアを愛しく思ってます」
「……そうか」
微笑んだと思ったら、もっと呑もうと言い出した。私はこの大きな人に少しでも認められたんだろうか。




