期待と恐れ
お兄様さまは王宮に行ってから、纏う空気が変わった気がする。
「今日、学園から帰ったら話があるんだ。マイラ嬢も一緒だとありがたい」
「うん、わかった。急だけど来れるか聞いてみるね」
我が家に招いてからマイラとはとても仲良くしている。登校すると、隣のクラスへ行ってマイラに話しかける。
「おはよう。急なんだけど、今日の放課後、時間をもらえないかしら。お兄様が私たちに話があるみたいで、我が家に来てもらいたいの」
「グラハム卿が? もちろん行くのは問題ないけれど、なんの話なのかしらね。見当もつかないわ」
また、あとでと別れて授業を受けた。スウェイン語の授業は相変わらず私には退屈だ。そもそも自動翻訳できてしまうから、もともと何を言っているのかわからないのだ。
ハモンド先生は、今のところ誰とも接触していないから、このまま何も知らないままでいてもらうのがいいと思う。
ルーク様も廊下で会った日以来、会ってはいない。
ケネス様は今日も隣の席だけど、ヒロインの義兄になったから、ルートはないのかしら。
マイラは誰も選ばないと言ったけれど、お兄様のことを推しとも言っていたわ。お兄様はどうなのかしら。
特に当てられることのない授業は、格好の思案タイムとなる。つらつらと思考の海に沈むのだった。
昼休みになると、ライオネル様が迎えにくる。食堂に行っても注目されることはなくなってきた。
ランチは、今日は魚を選んでみた。白身魚のムニエルだ。海が遠い我が国では魚と言えば川に生息するもので、マスに似た魚で魔魚かも知れない。何度か食べたけど、とても美味しい。
「クレアは好き嫌いはないの?」
ライオネル様に聞かれた。ライオネル様は肉をきれいに切り分けながら食べていた。
「そうですね、前世ではウニと納豆が苦手でしたが、ここにはありませんし。甘いものはやはり好きですね」
「じゃあ、またカフェに行こう」
「今日は早く帰らないといけないの。お兄様からお話があるみたいで。マイラも一緒なの」
「そうか……」
残念そうなのに、みじんも驚かないライオネル様は何か知っているのかもしれない。何となくそう思った。
「マイラと一緒と言っても驚かないのね」「あ……いや」
「何か知っているのね」
「ごめん、学園では話せないんだ」
視界の端の方で、金髪の男性にピンクの髪の女の子がぶつかるのが見えた。
「エミリアだわ。それと……第二王子殿下?」
「こちらに被害が起きなければ捨ておこう。
フレディ殿下は、婚約をやめたりしないだろう。それに子爵令嬢では王子妃になれない」
私はなるほどと思って頷く。
「クレアも目移りしないでくれると嬉しい」
テーブルに置いていた手にライオネル様の指が絡まる。驚いて顔を凝視すると照れたように小さく笑っていた。こんなところで、と思うと心臓が早鐘を打つけれど、振りほどくことはできなかった。




