トライフル
リボンを持って、店員さんに包んでもらおうとした頃に、カフェスペースへの案内番号が呼ばれた。
通された席は白い木製のテーブルと椅子で、とても可愛かった。通路はそれほど広くなく、こじんまりとしたスペースだった。
程よくざわめきのある店内が、前世を思い出した。
「ごめん、少し騒がしかったね」
「いえ、懐かしい感じで落ち着きます」
「それは確かに」
メニューを渡されると、紅茶の他にコーヒーもあるようだった。ケーキの中に好きなトライフルを見つけた。
「ミルクコーヒーにします。それとトライフル」
「ホットケーキ」という名は社交界になかったけれど、トライフルはきっと私の知っているフルーツとクリームたっぷりのスコップケーキだと思う。
きっと何があって何がない世界なのかはライオネル様の方が詳しいと思うけれど。
「じゃあ私はコーヒーとクッキーにしよう」
店員さんを呼んで、ライオネル様が注文してしばらく、コーヒー豆の良い香りがして、テーブルに届けられた。
「紅茶じゃないんだね」
「カフェオレ、好きなんです」
「それに、そのケーキは実に不思議な形をしている」
「トライフルですか? 深めの容器にスポンジケーキとクリームとフルーツを詰めて作るのです。そして大きなスプーンで掬って盛り付けるのです。ひとくち食べてみますか?」
何気なく聞いてみると、ライオネル様は席を乗り出して口を開けた。え? ひとくちってそれ? 放置するわけにも行かず、恐る恐るスプーンを差し出すのだった。手は震えるし、顔は熱いし困ったわ。
「さっぱりした甘さのクリームと爽やかな果物が混ざって、美味しいね。君はお菓子に詳しそうだ」
「受験勉強に疲れたとき、お菓子を焼いていたんです。しっかりレシピを覚えていないものも多いですが、再現してもらったものもいくつかあります。トライフルは我が家で何度か作ったのですが……」
「今もお菓子作りを?」
「したいんですけど、今はあまりしてなくて。領地ほど自由じゃないというか」
「料理人の領分はおかせないね」
「そうなんですよ」
私達は気心知れた話をしていた。
「そういえば、お茶会のお菓子はどうしようかしら」
「それこそトライフルも珍しくて良いんじゃないかい?」
「やっぱり珍しいですか?」
「少なくとも舞踏会なんかでは見たことないよ」
「じゃぁ、そうします」
「私も今度行ったとき、クレアの手作りケーキが食べたいな」
「べ、べつに、今回のは私が作る予定ではなかったけど、練習しておきますね」
「楽しみにしているよ」
ライオネル様は甘く微笑んだ。噂で聞いたけどクールで笑わないとか誰が言い始めたんだろう。




