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【BL】三角形のパラレルライン  作者: 海野幻創


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33/36

33.やり残した夏

 いつものように神室とゲームをしているときだった。


「土曜日の夜に花火やんない?」


 前振れもなく突如された提案に、海莉は驚いた。


「いま十月末だよ? まだ暑いけど、時期的に言えばもう秋じゃん」

「別にいつやったっていいだろ」

「かもしれないけど……どうしたの、急に」

「寒くなる前にやらないと。山程買ったのに、来年の夏まで放置したら湿気(しけ)るし、無駄になるだろ」


 言い分としてはわからなくもない。

 しかし、花火と聞くとやろうとしてできなかったその日のことを思い出してしまう。花火という文字を見かけるだけでも思い出すのに、用意したまさにそれらをやるとなっては不安だ。

 ぶちぶちと反論してみるも、何千円と使ったのにと正論で言い返してくる神室に根負けをして、海莉は提案をのむことにした。


「え、神室さんと花火とか羨ましすぎ。いつやるの?」

「教えないよ」

「なんでだよ、教えろよ」

「教えたら突撃してきそうじゃん」


 それのなにが悪いんだよ、と言いすがってくる颯の向こうに、レイの姿が見えた。教室一つ分向こうに立つレイは、天王寺に笑みを向けながら視線をずらし、海莉と目を合わせた。

 何かを言いたげに見えたのは、そう思いたかったからだろうか。カラオケで顔を合わせた日から、以前よりも頻繁に目が合うようになっていた。

 以前どおりとは言わずとも、クラスメイトとして程度には気軽に話せたらいいのに。そう願っても叶う見込みがないのは、レイの幸福を喜んであげられない罰だからだろうか。レイが望んでもいないことを、一方的に願っているからだろうか。

 海莉は颯に適当な相槌を返しながら、恋心を自覚してますます増す胸の痛みを、ぐっと抑えつけた。

 

 土曜日はすぐにやってきた。準備はすでにされているため、特に買い足すものもない。神室と宿題やゲームをして過ごしたあと、夕飯を済ませてしまい込んでいた花火を取り出した。


「これで全部か?」

「だと思うけど、なんか足りない?」

「アイスは?」

「アイス?」


 そういえばあの日は花火をしながらアイスを食べるつもりだった。秋とはいえいまだ残暑の名残はある。夏は毎日のように食べていたものの、飽きてしまって久しく食べていなかった。


「買ってくるから、おまえは公園で準備しておけ」

「えっ、なんで? 一緒に行けばいいじゃん」

「コンビニなんてすぐそこだろ? こんな荷物持っていけるか。荷物番して待ってろ」


 公園はコンビニへ行く途中にある。二人で公園へ行って荷物を置き、海莉だけ残って神室一人で買いに行くという。アイスを見に行かずとも、神室は海莉の好みをわかっているし、待つと言っても数分だ。確かに無駄はなく、神室の提案はもっともだった。

 海莉は承諾し、神室とともに公園へと出発した。


「おまえさ、俺のことキモいと思ったことある?」


 歩き出してすぐに神室が妙なことを訊ねてきて、海莉はつんのめりそうになった。


「キモいって隆司が? お、思うわけないじゃん」

「いま、つっかえた」

「つっかえたのはそんなこと聞くからだよ。どうしたの?」

「男同士でも恋愛的な意味で好きになるのは変じゃないだろ」

「はあっ?」


 神室からキスをされたときのことを思い出し、海莉は耳まで熱くなった。

 なにを言いたいのだろう。なにを言う気なのだろう。このまま歩いていけば公園だ。ライトアップなんてされていないとはいえ、自室よりもムードがあるとは言える。


「へ変じゃないとは思うけど、俺は、その……」

「俺に対しての気持ちは聞いてない」


 まさかという懸念は違っていたようだ。ぴしゃりと言われ、今度は恥ずかしさで熱くなる。


「俺は……」

「おまえが俺を大好きなのは知ってる。それが恋愛的な意味じゃなく、家族愛ってことも」

「……う、ん」

「んで、おまえが誰を好きなのかも知ってる」


 海莉ははっとした。動揺が表に出てしまいそうになり、慌てて顔を背けた。

 神室が気づいていたことはわかっていた。カラオケボックスのときのように、学校でレイを見かけると別の方向へ誘導しようとしたり、天王寺たちといるレイを視界に入れないようにしてくれたり、さりげなく常に気遣ってくれていた。

 そんな神室の優しさに感謝しながらも、申し訳ない気持ちが強く、礼を言うべきだとしても、なんと言えばいいかわからずにいた。


「うん……」


 神室のほうから話題に出すのは初めてだ。今なにかを言うべきだろうか。

 

「で、なんで行動に移さないわけ?」

「えっ?」

「俺は行動に移したし、あいつだって誰にでもわかるくらい表に出してただろ?」


 逃げ回るのはやめろと諭すつもりなのだろうか。

 確かに転入してすぐに天王寺とは夫婦と揶揄されるほど仲良くなっている。レイの魅力と行動力を考えれば当然と見えるが、つまりは本人が努力したから得た結果だ。

 神室はそれを見習って、叶わずともやるだけのことはやってみろと言いたいのだろうか。

 しかし……


「でも、俺は嫌われてるし」

「嫌われてるって、誰に?」


 神室はぎょっとしたように立ち止まった。海莉も遅れて歩みを止め、驚愕の顔を向けてきた神室に、同じような丸い目を向けた。

 好きな人が誰なのかをわかっているはずなのに、なぜこんな反応をするのだろう。


「……レイからだよ」

 

 口にしたくはなかったが、万が一にでも神室が誤解していたらと考えて、なんとか答えた。


「バッカじゃねえの?」


 神室は信じられないといった声をあげ、その場にしゃがみ込んだ。そして大げさにも頭を抱えて「うそだろ?」とさらに声を荒らげた。


「どうしたの?」

「俺に遠慮してんのかと思ってた……アホらし。バカくさ。信じらんねえ」

「何? 突然なに言ってんの?」

「おまえさ」


 神室は呆れ声で立ち上がり、手に持っていた袋を海莉に押し付けてきた。


「……え、俺が全部持つの?」

「持てよ。いい加減苛ついてきた」

「えっ、突然、なんで?」


 大きくため息をついた神室は、呆れた顔を真面目とも言える顔つきに変えて、海莉を見据えてきた。


「ぐずぐずしてるのは俺に遠慮してんのかと思って、気遣ったり煽ったりしたけど、なんも動こうとしないし、いい加減何やってんだよって……俺は、おまえがつらそうにしてるのが耐えられないわけ。だから俺はこんなバカみたいなこともしてやりたくなったんだ。憐れで泣けてくるけど、おまえが心から笑えるんならとか、そういうのもあって……」


 みるみる顔を赤くした神室は、不貞腐れたように海莉を睨みつけた。

 

「……もう無理、恥ずい。てことで、コンビニ行ってくるから、あの石頭の誤解を解いておけ」

「なに? どういうこと?」

「俺が話しても聞きやしないんだよ。死ねよクソ」


 あの石頭とは誰のことだろう。誤解を解けとは、何をすればいいのだろう。

 神室が海莉を心配して、歯がゆいあまり何か行動をしようとしてくれていたことは理解できた。しかし具体的にはさっぱりだ。

 何をすべきかわからないまま、海莉は公園に取り残された。両手で持ちきれないほどの花火を持たされ、ベンチのあるところへ向かうしかなかった。しかし入って一番近いベンチには先客がいる。

 次に近い場所は遊具のそばなのにと不満に思いながら進路を変えると、先客の姿が見えてきて、驚いた海莉は立ち止まった。


「レイ?」


 夜目にも目立つその姿は、確認せずともレイだとわかった。もしかして、天王寺との待ち合わせだろうか。なんというタイミングの悪さだろう。


「……えっ……もしかして海莉? 神室は?」

「隆司?」


 レイのほうは神室と海莉がセットだと思っているらしい。事実とはいえ、以前は海莉とレイがセットだったのにと、切ない気持ちがせり上がる。


「神室はいないの?」

「隆司ならコンビニに行ってるけど。レイは天王寺さんとの待ち合わせ?」

「侑李? 違うよ。神室に呼ばれて」

「えっ?」


 海莉は聞き間違いだろうかと耳を疑った。離れたところで会話をしているせいかもしれない。海莉は詳しく聞くために、レイのそばへ近づくことにした。

 距離が縮まるごとに、馴染みのある、しかし今や近づくのは久しぶりとなった親友の美貌が見えてくる。不安げに眉尻を下げ、海莉を見たりあたりへと視線を逸らしたりと忙しない。


「天王寺さんが来るんじゃないの?」

「違うって。神室からこの日にここへ来て欲しいって言われて……何度も断ったのにしつこくて……一分だけでいいからって」

「え……日にち間違えてない?」

「二十五日の土曜……いま七時だよね?」


 海莉は袋を地面に置き、スマホを取り出した。日付も間違いなく今日であり、現在時刻は午後七時三分だった。


「俺は隆司とここで花火をする予定だったんだけど、レイが来るなんて聞いてないよ」

「花火?」


 レイの困惑した目が海莉の足元に置いた袋へと逸れ、はっとした顔になった。その変化を見て、もしやと海莉もぴんときた。

 神室は、海莉とレイを引き合わせようとしたのかもしれない。

 だとすれば、道中で妙な話を持ち出した理由に説明がつく。誤解を解けと言ったあの石頭とは、レイのことだったのかもしれない。


「じゃあ、僕の勘違いだったのかも」


 レイは力のない笑みを浮かべて、立ち上がった。片手をあげ、公園の出口のほうへと向かって歩き出した。

 海莉は「待って」と呼びかけようとして、しかし喉が詰まったように声が出てこない。

 レイは歩いていく。

 引き止めるなら今しかない。ぐずぐずしていたら、声の届かない距離にまで離れてしまう。公園を出てしまっては、また連絡のできない、学校ですれ違っても挨拶すら曖昧な関係に戻ってしまう。

 今しかない。

 それなのに、足を動かすことはおろか、声すら出せなかった。

 ただレイが公園を出ていく姿を、目で追うことしかできなかった。


『なんで行動に移さないわけ?』


 神室の言葉が頭の中に反響する。


 ──怖いから。


『嫌われてるって、誰に?』

 ──レイから。


『あいつだって誰にでもわかるくらい表に出してただろ?』

 ──それは天王寺さんに対して……であるはずだ。違うの?


『男同士でも恋愛的な意味で好きになるのは変じゃないだろ』

 ──変だと思っていた。でも、変だと言ったら、隆司のことを否定することになる?


 否定したくない。神室の向けてくれる気持ちを否定したら、彼の思いやりや気遣いをすべて否定することになる。否定してはいけない。だとすれば、男を相手に恋愛感情を抱いてもおかしなことではない。

 おかしくないのであれば、他人がそういった気持ちを抱いたとして、不快に感じることではない。レイが海莉を気持ち悪いと感じたというのは、思い込みだったのかもしれない。

 神室は、海莉がレイを好きである気持ちを否定しなかった。そればかりか気遣ってくれて、会う機会までつくってくれた。

 たとえレイが天王寺を好きだとしても、海莉が好きでいてもいい。

 そう、神室は海莉の背中を押そうとしてくれたのだ。


 海莉は静かに決意をして、レイの消えていった先に向かって走り出した。

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