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【連載版】ざまぁの神様は可愛い末っ子  作者: 小内 ゆずか
第1章 美しくないから婚約破棄なんてダメでしゅ
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4 牢屋の中の奇跡


牢の中、ソニアは身じろぎひとつせず冷たい石畳にただ座っていた。


これくらいの年齢の少女であれば、不安に震え悲しみに涙しているであろうに、どんな表情も見てとれない。その瞳はなにも映していなかった…。


彼女の心はすでに死んでいた―


投げやりになっている訳でもなく、心を閉ざしているのでも無い。自分を取り巻く世界のすべてに絶望して、心が死んでしまったのだ。


感情の神の言っていたとおり、もう自分の命さえどうでもいいのだろう。そんな事を考える感情も思考もすでに失っている。



物心ついた頃には、既に世界は彼女に冷たかった。

それでも彼女は努力した。自分に醜いという欠点があるのなら、それを補おうと寝る間も惜しんで頑張ってきた。結果、学園始まって以来の才女といわれる程の成績をおさめている。


顔を合わせれば暴言ばかりの婚約者への愛情なんてカケラもなかった。それでも良き王妃になろうと辛い王妃教育にも耐えてきた。


きっと報われる日が来る…そう信じる事で挫けそうになる心を奮い立たせて、努力して、努力して、努力して……


でも、そんな事に何の意味もなかった。


醜い…それだけで彼女は否定され続けた。対等な人間として扱ってもらえなかった。

次第に、悲しい悔しいといった感情さえも少しずつ無くなり、絶望へ落ちていく。



彼女は、自分や周りがいう程に醜い訳ではない。他国であれば、ちょっと地味な顔ねと言われる程度の普通の顔立ち。本来は気立ても良く前向きな性格。


なのに、彼女をここまで追い詰めたのはこの国の価値観。

人間の価値は美しさで決まると信じている愚かな貴族社会だ。彼女はそんな愚かな人間達の犠牲者だった。



そんな彼女のもとに神が奇跡が訪れる―




◇ソニア視点◇



それは突然だった。


すべてに絶望し、何も感じなくなっていた私のもとに奇跡が人の形をして訪れた。


「『ざまぁ』しゅる?」


誰もいないはずの牢内で、舌っ足らずな子供の声が響く…。見間違いだろうか、目の前にはニッコリ笑う小さな男の子が自分を見上げている。


先程まで停止していた思考が突然動き出して、私の世界に色がついた。呼吸が止まっていたのに、急に息ができるようになったかのような、なんとも不思議な感覚…。


冤罪、牢屋、幼児、笑顔…

驚きすぎると人間の思考回路は退化して、幼子のように一つずつの単語しか思い浮かばないらしい。それを繋げて思考とすることが出来ない。


もっとも、普段並べて使うことのないこれらの単語を繋げることが出来ないがゆえのパニックなのか。



理解不能な何かが起きていることは分かっている。しかし、不思議と恐怖はまったく感じない。

なので、恐る恐る目の前の存在に声をかけてみることにした。


「あ、あなたは誰?」


「ぼくはね、『ざまぁのかみ』っていうの。おねぇしゃんはりふじんにひどいことされてるから、ぼくにいのってくれればたすゅけてあげりゅよ。」


目の前の子供は胸を張り…お腹の方が出ているが…自信満々に問いかけに答えてくれた。

だが、その内容にまたもや混乱する。私の事を助けてくれる?―しかも、この子は自分のことを神だと言っている。…到底信じられない。


この国は創造神を中心に多くの神を信仰しているため、貴族の教養としてすべての神について学ぶ。しかし『ざまぁの神』なんて聞いたことがない。


なので当然のこととして言ってしまった。



「『ざまぁの神』なんて聞いたことがないわ」


「でも…ぼくかみしゃまだもん…」


子供は、みるみるうちに大きな瞳に涙をあふれさせながら答える。

泣くのを堪えるためか、かわいらしい口はへの字にぎゅっと結ばれている。



「うっ…」


突然に胸を撃ち抜かれたような衝撃。しかし、不思議と不快感はない。むしろ恍惚とでも呼ぶような…。


ハッとして今の状況を理解する。

これまでに見たこともない程かわいい男の子が自分の言葉のせいで瞳をうるうるさせ泣いているのだ。


なんとかこの子を泣き止ませて笑顔にすることが、私に課せられた使命だわ!


自身が冤罪で牢に入れられていることなどもどうでもいい瑣末なこと。

今やるべきは、最初にみせたあの『尊い』笑顔を取り戻すこと、それに尽きる。


その為にはどう行動するべきか、頭の中でいくつものシュミレーションを展開して最適解を導きだす。

一瞬で思考を巡らせることが出来る自分の頭脳に感謝する。今までの努力も無駄ではなかったのね…。



この子の望んだように祈る…

それが答え、今私がすべきこと。


「私ソニア=ローズスターは、ざまぁの神様を信じ、『ざまぁ』を望みます。」


膝をつき、胸に両手をあてて祈りをささげた。

これは心からの言葉―

私という存在のすべてが、この小さな神様を信じ祈りを捧げたいと望んでいるのが分かる。


あぁ、私はこの一瞬(ひととき)のためにだけに生まれてきたのかも知れない。


私は全身全霊で祈り続けた。

すると、小さな神様はほんのりと光を発しながら、この世の可愛さ全部を集めたような笑顔でニッコリと宣言した。


「しょのいのりをききいれ『ざまぁ』をしっこうしましゅ。」



神が私に応えてくれた。なんて幸せなことだろう…


この時の私は至高の笑顔に魅了されていて、これが国の根幹を揺るがすほどの大騒動の始まりだとは気付いていなかった。


お読みいただきありがとうございます。

次回、いよいよ「ざまぁ」開始です。

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