1 婚約破棄された少女
本編開始です
「ざまぁの神」の神殿は本日も満員御礼。
いつもは、まったりとの末っ子を愛でている神々だが今日は何かが違う。皆いつになく真剣な表情。
(尊敬を勝ち取るのは私)
(役に立ってみせる!)
(俺が1番だ……)
ギラギラした眼で闘志を滾らせている。
だが、そんな空気はお構いなしの末っ子は、トテトテと忙しそうに下界を見るためのモニターの準備をしていた。
そう、今日は記念すべき末っ子の初仕事の日。
末っ子大好きな兄姉神達は初仕事を成功させるべく、手伝いのために集まっていたのだ。
あわよくば尊敬されたい!格好いいと思われたい!そんな下心とともに…。
大勢から敬われるのが当たり前の神達ではあるが、自分の大切なたった一人に特別に思われたい、尊敬されたいと思うのは神も人も同じなのだろう。
「このおねぇしゃんでしゅ。」
やっと繋がった下界を映すモニターを指を差しながら、末っ子が舌っ足らずに言う。
それを聞き、他の神達もワラワラとモニター前に集まる。
そこに映るのは一人の少女。歳は10代半ば位であろうか…何をするでも無く石の床に蹲っている。
「ここは…牢屋かしら」
「あんな粗末な服じゃ寒いだろうね」
「あっ、誰か来たみたい」
鉄格子の外に現れたのは3人の男性。少女より少し年上だろうか。薄暗い牢屋には不釣り合いの華美な服装をしている。
「おい、ソニア!俺様に婚約破棄された惨めな貴様を見に来てやったぞ。ここはお前にピッタリの場所だな。カビ臭くて薄汚い。あははは。」
「…。」
少女はなんの反応も示さない。
そんな事は気にせず、尊大な態度の男は続ける。
「そうそう、罪人としてロードスター侯爵家からも廃籍になったぞ。ハッハハハ、家族にも見捨てられたな。」
3人はニヤニヤした顔で魔封じの手錠をつけられて、冷たい石の床に座る少女を見下ろしている。
「あんな不細工は娘じゃないとか言ってたな」
「当然だ、こんな奴が侯爵令嬢だったことが間違いなんだよ!」
次々に罵声を浴びせる男達。
と、そこへ木のトレーに食事をのせた牢番が現れた。
「これはこれは王太子殿下。お越しになっているとは知らずに失礼いたしました。食事はあとにいたしましょうか?」
「いや、かまわない。その餌を寄こせ。」
びちゃ―
王太子と呼ばれた男は、牢の中の少女の顔にめがけてスープをぶちまけた。
「アハハ、不細工が余計に不細工になったな」
「この女にはお似合いでしょう。顔からスープが飲めるかもしれませんよ」
「そりゃいい。不細工は人じゃないからな、人外の事ができるかもしれない。」
ケタケタと笑う3人。
今度はコップに入った水を頭からかけて大喜び。3人とも整った顔立ちであるにも関わらず、愉悦に歪むその顔は酷く醜悪だ。
「そうだ、パンも人間様用じゃ食べられないだろう。」
そう言って汚い床に落としたパンを踏みつけて、牢の中に蹴り入れる。
「ほら食べろ」
「王太子殿下の命令だぞ早く食え!」
「逆らったら反逆罪だぞ」
やいのやいのと喚き散らすが、少女は微動だにしない。色が抜け落ちたその瞳は何も映していなかった。
しばらく怒鳴り散らしていた3人だったが、無反応な少女に飽きたのか「明日には国外追放だ。特別に魔獣の森で捨ててやるぞ!楽しみにしていろ」と言い残して笑いながら帰って行った。
「ぅうわー、むなくそ」
「あれが王太子?この国は大丈夫なのかい」
「ギルティ…」
モニターを見ていた神達は揃って眉をひそめる。
「彼女の状態はよくないね。」
感情の神が、先程から何の反応も示さない少女の精神状態について説明する。
「無反応には2つの種類があるんだ。ひとつは外部の攻撃から心を守るために心を閉ざしてしまい何の反応もしなくなる状態。ふたつめは、完全に絶望してすべてがどうでもいいと諦めてしまった状態。後者の方がより重度なんだ。なんせ、生きることさえどうでもいいって事だから放っておいたらそのまま死んじゃうからね。彼女は後者だね。」
「ぐすっ…おねえしゃんかわいしょう…」
末っ子の涙決壊。可愛い顔がぐじゅぐじゅだ。
「ああ〜、目を擦ると赤くなってしまいますよ」
しくしくと泣く幼児にオロオロしながらも、お兄ちゃんぶりたい錬金の神が涙を拭いてあげている。
「ザマちゃん泣かないで〜〜」
「大丈夫だ。兄ちゃんが今から王城ぶっ壊してきてやるからな!」
「そうだね。末っ子の仕事を手伝うように父上からも許可が出ているからね。国ごと海の底に沈めるとしよう。」
末っ子の涙を見て、更に怒り心頭の神達が物騒な事を言いはじめる。すぐにでも国を滅ぼしかねない勢いだ!
だが、いつもブレないこの神がここで登場!
「次は彼女の罪とやらを見ようか。すべてを確認してからでないと行動に移れないからね。」
怒り狂う神達など見えていないかのように、スタスタと移動してモニターの調整を始める真実の神。抜群の安定感だ。
「はっ…。」
「…そういえば…。」
「そ、そうだな、王太子の言う罪とやらを確認していなかったな。あの言動に腹を立ててしまって忘れていたよ。ハハハ。」
「まぁ十中八九、冤罪だろうけどな。」
冷静さを取り戻した神達。
ひとまず国消滅の危機は免れたようだ。
皆であらためて少女が牢獄に入れられることとなった理由を確認するために再びモニター前に集まった。
だが、この時誰もが見落としていた。
普段であれば、末っ子が泣いたりしたら誰よりも大騒ぎをするであろう神が一言も言葉を発していないという異常事態を。
モニターには、先程の暗い牢屋の映像から一転して華やかなパーティー会場が映し出されていた。
会場の中央には、隣に美しい令嬢を侍らせて、後ろに貴族令息の2人を従えた王太子エリック=サンフラワーが確認できる。今まさに婚約破棄をいい渡す場面のようだ。
「ソニア=ローズスターとの婚約を破棄する。貴様のような醜い女は王太子妃にふさわしくない!」
王太子の前にいるのは、牢屋にいた少女ソニア。突然の婚約破棄宣言であろうに、取り乱す様子は見られない。その瞳にあるのは諦めか―
「貴様は、ここにいるユーミアを始めとする美しい令嬢達に酷い嫌がらせをしていたようだな。自分の醜さからの嫉妬心だろうが、多くの被害者からの証言も得ている!その被害すべてをここで明かしてやろう!」
王太子の後ろに控えていた男が前に出て用意してあった紙を意気揚々と読み上げる。
被害の内容は、美しい令嬢のアクセサリーを盗んで捨てたから始まり、ドレスを引き裂いた、階段から突き落としたと段々とエスカレートしていき、最終的には暗殺者を使って殺人をくわだてたというもの。
そして、二枚目の紙に移る。
こちらは、王宮の侍女や自宅の使用人のうち美しい者に日常的に暴力を振るっていたという内容だ。
さらに、ダメ押しのように王太子が言う。
「あの女の被害をいちばんに受けていたのはこのユーミアだ。誰よりも美しいが故に何度も殺されそうになったという。」
「はい。毎日とても怖くて…。」
先程から王太子に腕を絡めていたピンクブロンドの髪を持つ美しい令嬢が、ここぞとばかりに胸を押しあてて王太子に縋り付き、涙を浮かべて訴えた。
身体を密着させるユーミアにニヤける王太子…。
ハッと我に返り目の前のソニアに視線戻すと、彼女を指差し声高らかに宣言する。
「この女の罪は明らかだ。姿だけでなく心まで醜いとは最低な人間だな。お前を国外追放処分とする。こいつを牢に連れて行け!貴族牢ではなく一般牢だ。醜いお前には薄汚い牢屋がお似合いだ。」
ソニアは一言の弁明も許されず、兵士に乱暴に連れられていった。
(不様だな)
(これからはあの陰気な顔を見なくて済むわね)
(ブスのくせに身分が高いってだけで王太子の婚約者だったんだもの。神の罰がくだったのよ。)
周囲の者は連行されるソニアを見て楽しそうにクスクスと笑っている。
ソニアがいなくなった後の会場は、楽しい余興が終わったあとのように騒めいていた。誰もソニアの心配などしていない…まるでこうなる事か当然だとでもいうように。
そんな中、王太子がユーミアの腰を引き寄せて芝居掛かった仕草で声をあげた。
「彼女は下劣な仕打ちにも負けず強い心で私にソニアの犯罪を告発してくれた勇気ある女性だ!
そして、心の美しさだけでなく、美の女神の祝福を受けた外見の美しさまで備えている。彼女こそ未来のこの国の王妃に相応しい!
私、王太子エリック=サンフラワーは、この美しきユーミア=クローバー男爵令嬢を新たな婚約者とすることを宣言する。」
会場に大きな拍手が巻き起こる。
ユーミアは、それが当然であるかのごとく王太子の隣で美しい笑みを浮かべていた。
一連の出来事を見終わった神達は一様に眉をひそめていた。
「やはり冤罪だったな」
「どっちが主犯?」
「真実の神の"眼"にはどう見えたんだ?」
神は嘘を見抜くことができるゆえに王太子の言う罪が存在しないことを既に知っている。
しかし、真実の神はさらに特別な"眼"を持っており、人間の視点とは違う神の次元から事象を視ることができるのだ。
実は、一般的にいう真実とはひとつではない。ある者には真でも他の者からみたら嘘かもしれない。そんな矛盾のあるあやふやなものなのだ。だが、真実の神の真実はひとつ―
なぜなら、世界の理を視る"眼"を持つ神だから。
単純な嘘や真とは違う超越した次元から世界を見ることができる神、それが真実の神である。
ただの真面目なお兄ちゃんではない!すごい神様なのだ!
「いずれ国を荷うべき王太子が、ここまで真実を歪めるとは…許せませんねぇ…」
真実の神の"眼"には何がみえたのか、苛立たしげにつぶやいた。
いつも穏和で神の良心とも言われる彼がピリピリしている。
そんな不穏な空気を吹き飛ばすために、ひとりの神が何気なく言った。
その一言が爆弾のスイッチであるとも知らずに…。
「そ、そう言えば、新しい婚約者って美の神が祝福を与えていた子だったようだね」
皆がふと美の神に視線を向けた。
「ひぃ」
「うわ…こわっ」
そちらを見た末っ子も、近くにいた神の背中にササッと隠れてしまった。
そこには怒れる神がいた―
この後、この星でもかつてない前代未聞の騒動が巻き起こることをまだ誰も知らない。
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