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【連載版】ざまぁの神様は可愛い末っ子  作者: 小内 ゆずか
第2章 テイマーさんとワンちゃんを助けるでしゅ
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18 映えは大事


雄叫びを上げまくってスッキリ顔のドラゴンとフェンリル。落ち着きを取り戻した彼等は車座になって何やら議論をし始めた。


どうやってネロス達を虐げた者達にざまぁするか?


まずアザレア街の門の前に降りて対象者を呼び出そうと決まった。

次に、誰が行くか?全員が参加希望。フェンリルの一部については下界へ行く資格がないので創造神様に特別許可を貰おう。


と、ここまではすんなりと決まったのだが…


「地上に横一列これは譲れないっ!」


「いいや、空からだっ!その方が威厳が感じられる」


「フェンリルが地上、上空からドラゴンにしようぜっ!迫力満点だろ」


…降り立つ時の配置で揉めていた。

どのような配置で降り立てば格好いいか、人間に威厳を感じさせられるかという、どうしようもない事で大論争中である。


はっきり言って、ここにいる誰か一頭でも門の前に現れたら人間にとっては街壊滅の危機。格好良いとか威厳どころの騒ぎじゃないのだが、誰もそんな事は分かっちゃいない。


そんな中、フェンリルのモフモフに寄りかかって大騒ぎをする皆んなを不思議そうに見ていた末っ子がひとこと。


「みんなかっこいーでしゅよ?」


末っ子には、どうしたら格好良く見えるかを議論する意味がわからない。だって、みんなカッコイイんだもの。


ピタッと止まる声。


そして……全員がデレた。

両種族とも表情は分かりずらいが、手で顔を掻いてみたり視線を彷徨わせたりとソワソワしている。巨大な彼等のそんな仕草はなんだか可愛い…。


「そ、そりゃそーだが、カッコいい登場シーンは男のロマンなんだぞ。登場には夢が詰まっているんだっ!」


竜王がザマちゃんに意味の分からない事を力説をしている。登場にムダな力を注いでいる創造神と話が合うかも知れない…。


「そうっス。映えは大事っスよ!」


「ばえ?」


初めて聞く言葉にコテンと首を傾げる末っ子。


「そこの緑のドラゴンっ、よくわかってるじゃあないか!そう、人間とは"映え"を重要視する生き物なのさ。どれ、私が見た目九割の法則を教えてしんぜよう」


いきなり会話に割り込んできたのは、いつのまにか現れた魔女…ではなく治癒の神。


実は姿を消してひっそりと事の成り行きを見守っていたのだが、見た目九割信者の彼女は"映え"の話題ときたら黙っちゃいられないと出てきたのだ。

見た目信者がなぜ魔女コスを選んだのかは誰にも理解できないが…。


「あっ、ばぁばだー」


大喜びで手をフリフリする末っ子に嬉しそうに手を振りかえしてから、集まった者たちを見渡す治癒の神。


「どれ、実践した方が分かりやすかろう。竜王よ協力しとくれ」


「あぁ〜ん?何させるつもりだ?」


不満そうな表情で問いかける竜王を無視して、治癒の神は指示を出す。


「いつものようにそこに寝っ転がって自己紹介しとくれ」


「なんで俺がそんなことしなきゃなんだよ…」


ブツブツと言いながらも言われた通りに寝そべり、やる気のない声で『俺は竜王だ』と自己紹介をした。


「皆んな、今のを覚えておくんだよ。竜王、次は姿勢を正して立っとくれ。ほれ、頭が曲がってるよっ、頭は上から引っ張られるように真っ直ぐだよ!」


姿勢を厳しく直されながらも、従う竜王はいい奴だ。


「よし、次はいつもよりも低い声でこう言っとくれ『我は偉大なる竜王なり』。滑舌良くちょっと偉そうな感じで頼むよ」


「我は偉大なる竜王なり」


竜王が言われた通りにすると、おぉぉ〜っと周囲からどよめきが起こった。


「こ、これが"映え"!!」


「おぉ〜、平伏したくなるな」


「すげー!さっきと全然違うぞ」


その様子を見て治癒の神は実に満足そうにウムウムと頷き、竜王にもとに戻るよう伝えた。


「皆のもの理解したかえ?これが"映え"による差だ!此奴は特に外見と中身に落差があるから分かりやすかろうよ」


皆がウンウンと何度も頷く様子を見て、不貞腐れる竜王。末っ子に「いちゅもかっこいーでちゅよ」と横から慰められている姿が余計に憐れを誘う。


「よいか、見た目が九割とは外見だけの事ではないよ。姿勢、仕草、声のトーンや早さなど視覚聴覚から得られる情報で、相手に与える印象の九割が決まると言う法則さね。では、それを踏まえてより効果的なフォーメーションを考えるよっ」


「「「はいっ!」」」


ピシッと姿勢を正して軍隊のように答えるドラゴンとフェンリル。具体例を見せられたのが功を奏したのかノリノリだ。こうして治癒の神指導のもと、アザレアの街に降り立つ(ムダな)準備は夜を徹して行われたのだった…。


一番不憫なのは竜王。威厳が無くなるから一言も喋るなと厳命された。

勿論、猛抗議をしたが全員一致で却下されたのだ。明日の仕事は姿勢良く先頭に立っているだけ…。


現在、隅に追いやられて背中を丸めていじけている。哀愁漂うその姿は魔物の頂点にはとても見えない。


末っ子はというと、途中までは「ばーえ♪ばーえ♪」とよく分からない自作の歌を歌いながらルンルンと喜んでいたが、それも飽きたのかフェンリルのお腹をベットにして眠ってしまった。

フカフカの毛皮に埋もれた子犬のように、なんとも幸せそうな顔で眠っていたが、パッと現れた創造神がひっそりと神殿へと連れ帰っていった。


上空で成り行きを見守っていた神も末っ子の離脱と共に次々と解散していく。


ところで、アザレア街へ行く準備はフォーメーションに気を取られて何をするのか全く決まっていないのだが……そんな事に気付く者は誰もいない。



竜王は不貞腐れてフォーメーション会議を抜け出して自分の部屋に戻っていた。


竜王の住まいは岩山をくり抜いて造られた神殿だ。その巨体に見合うだけの大きさの神殿は、もしも人間が見たなら自分が小さくなったのかと錯覚しそうな超ド級な建造物。人間では階段を一段登ることも出来ないだろう。


「ちっ、みんなして俺をダメな奴扱いしやがって。俺は竜王なんだぞっ。立ってるだけって酷くねーか?」


寝転がりながら文句を言っていると、部屋の中に誰かが現れた。


「ほっほっほっ、荒れているのう」


「なんだソウちゃんか。なんの用だ?」


「その呼び方はやめい!」


「俺が『創造神様』とか言ったらキメーだろ?呼び捨ては口うるせー神に怒られるしな」


はぁ〜と大きく溜息をつき、パッと自分用の椅子を用意して座る創造神。ここは竜王に合わせたサイズに出来ているので創造神が腰をかけられるような物はないのだ。


「明日の件を止めに来たのか?」


「止めんよ」


「まぁ今さら止めらんねーよな。ソウちゃん達が原因なんだろ?」


「……。」


竜王のズバリの指摘に渋い顔の創造神は何も答えない。


「俺は難しい事はわかんねーが、あのアニメってやつには感動したし、あの青年達が普通じゃねーのも確かだ。チビ神の言う事が真実、俺はそう決めた」


「……そうか」


創造神は微動だにせず小さくつぶやいた。何を考えているのかその閉じた瞳からは伺いしれない。

暫しの沈黙の後、固まった空気を吹き飛ばすように竜王は話題を変えた。


「あっ、そうだ!今集まってる奴等の下界行きの許可くれ」


「いいだろう。但し、下界での活動許可の無い者には制限を設ける。期間は一日以内、場所はアザレアの街周辺のみとする」


「ありがとよ」


「だが、くれぐれもやり過ぎるな!一番心配なのはお主だ!おもしろそう、との理由だけで騒ぎを大きくする愉快犯め。あの勇者の時だって…」


「わかった、わかった。その話しはもう耳タコだよ。それに今回は……喋るなと言われた…」


「ほっほっほ、それは良いのう」


先程の緊迫した空気など無かったかのように大声で笑う創造神。一方、屈辱を思い出して不機嫌になる竜王は創造神に詰め寄る。


「喋ると威厳が無くなるって全員一致で決められたんだぞ。そんな事ないよな?なぁソウちゃんなら俺の隠しきれない偉大さがわかるよなっ?なっ?」



こうしてアザレア街突撃の前夜は更けていくのだった…。


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