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【連載版】ざまぁの神様は可愛い末っ子  作者: 小内 ゆずか
第2章 テイマーさんとワンちゃんを助けるでしゅ
20/22

17 ドラゴンとフェンリルの決起集会


「彼らを幸せにしたいかー」


「「「オオォ~~!!」」」


「ひどいことした人間を懲らしめたいかー」


「「「オオォ~~!!」」」


「フェンリルの絆を見せつけろーー」


「「「ウォォォ~~ン」」」


「がんばるでしゅーー」 


「「「うおぉぉぉぉ~〜~」」」



羅針盤の神の知らせによりドラゴン山脈へ移転した神々が見たものは、まさしく決起集会。

眼下で多数のドラゴンとフェンリルが雄たけびを上げていた。


「な、なによこれ…」


山あいの広場は色とりどりのドラゴンと光輝く銀毛のフェンリルで埋め尽くされている。


埋めつくすといっても数はドラゴンが30頭、フェンリルが100頭といったところだが、みんなとにかくデカイ。


ドラゴンは20~30メートル、それにくらべれば小さいがフェンリルも6~7メートルはある。そんな巨大生物が大興奮で山全体に響き渡るような大声を上げているのだ。まさに脅威。


そんな巨大生物の中、末っ子の姿を探す。

先ほど元気のいい声だけは聞こえてきたが、巨大生物の中にいる僅か90センチのちんまい姿はなかなか見つけられない


いたっ!

集団の前にいる竜王とフェンリルの長の間だ。あまりに小さすぎて、隣にいる巨大生物に踏み潰されないかとハラハラしてしまう。


こちらが見つけると同時にあちらも上空に浮かぶ神達に気が付いたようで、キラッキラの眩しい笑顔でこちらに向かい嬉しそうに両手をぶんぶん降っている。


反射的に笑顔で手を振り返してしまう神々。

そんな状況ではないのだが、あの無邪気な笑顔に勝てるものなど存在しない。その笑顔が引き攣っているとしても…。


「何がおこってるんじゃ…」


「あの青年とフェンリルの幼体に無体を働いたものを懲らしめに行く準備みたいよ」


鍛冶の神のつぶやきのような質問に羅針盤の神が答える。


「あの集団がまとめて下界に降りたらマズイだろ。人間達、泡吹いて倒れるぞ」


「ねぇ、誰か止めにいってよ」


「やだよ。自分で行けよ」


「あんな嬉しそうな笑顔のザマちゃんを止められる者などおりませんわ。もし泣いてしまったりしたら……あぁそんなの耐えられませんわ」


いったいなぜこのような事になっているのか。

時は末っ子が天界に帰ってきた時にさかのぼる。



フェンリルの長と一緒に天界に戻った末っ子は、フェンリルの住処(すみか)に移転した。


『小さき神よ、頼みがあるのだが、先ほどのフェンリルの幼体のことを知りたい。神の持つモニターとやらで過去を見せてはくれんだろうか?』


「おうちきまちゅか?」


『できれば他のフェンリル達と共に観たいのだが小さき神の神殿に入りきるか?』


「いっぱいはむりでしゅ。…あっ、りゅーおーのおじしゃんのとこならおっきいのありましゅ!」


そんな訳で竜王のモニターを借りるためにフェンリル総出でドラゴン山脈にやってきた。


なぜ、竜王だけがモニターを持っているかというと、彼は神と同等の力を持っているから。

竜王は魔物を治める存在として、原初の神のすぐあとに誕生した。ドラゴンの姿ではあるが実態は限りなく神に近い。真っ白な鱗に覆われたその姿はとても神秘的だ。


だが、末っ子にかかればただの近所のおじさん扱い。まぁ実際に中身もオッサンくさい外見詐欺のような存在なのだが。


「りゅーおーのおじしゃーん、もにたーかちてくだしゃいなー」


フェンリルと一緒に山頂付近の広場に降り立ち大きな声で竜王を呼ぶ末っ子。近所の子供が友達の家に遊びに来たような声掛けが実に微笑ましい。


「おー、チビ神かぁ。お供いっぱい連れてどした?」


『竜王殿すまぬが、こちらにある巨大モニターを貸してもらえぬか?』


フェンリルの長は下界で、出自不明の幼体フェンリルを見つけたのでその過去を見たいのだと竜王に説明する。


「そりゃ不思議なこともあるもんだな。オレも他人事じゃなさそうだから一緒に確認させてもらうか」


そんな訳で一緒に見始めた。



幼体フェンリルはごく普通の灰色狼の仔として生まれたが、ほかの兄弟と違い一匹だけ真っ白だった。

最初のうちは分け隔てなく育てられたが兄弟達が成長していくなか、フェンリルだけは小さいまま。弱く小さい生き物は自然の中では淘汰されてしまう。灰色狼の親は成長しない子供を捨てた。


フェンリルの寿命は長い。そのため下界の狼とは成長速度が違い、生まれてから1年程は生まれた時と殆ど変わらない大きさだ。


時間の流れが違う事など知らない親狼を責めることは出来ないが、捨てられたフェンリルには過酷な仕打ちだ。何とか生きようと藻搔くが幼すぎる故に限界が来る。

そんな時、当時8歳だったネロスに出会いパトと名付けられて生活を共にするようになったらしい。


『灰色狼の子供だと?どういうことだ?』


首をひねるフェンリル達と違い竜王だけは理由に思い至ったらしい。

声を潜めてフェンリルの長に話しかける。


「隔世遺伝だ。だいぶ昔のことになるが特殊な生い立ちのフェンリルが下界で人間と共に暮らしていたことがある。その時、下界の雌狼と番になって子をもうけた。オレも何世代かはフェンリルが生まれないか気にしていたが、随分と時間がたってからフェンリルの血が出たもんだな」


『そんな話し聞いたことがないが』


「かなり昔のことだし、ちょっと訳アリだったんだ。オレもこれ以上は話してやれねーな」


疑問はつきないが竜王がこれ以上話せないというからには聞くべきではない。フェンリルの長は引き下がった。


そのあと、ネロスとの暮らし振りなども見た。

ネロスとパトは貧しい家で暮らしていて周囲の人達からも理不尽に扱われていた。

唯一の保護者であった祖父もネロスが11歳の時に亡くなって天涯孤独となる。普通の子供であれば到底生き残れない環境だったが、そんなものに負けないほどに彼等は強かった。


「この人間も変だぞ?神の加護持ちでも無いのになんでこんなに強い?」


「とくべちゅなたまちいなんでちゅ!」


胸を張って答える末っ子。

腰に手を当てて、胸というかポッコリとしたお腹を突き出して得意げな表情で竜王に"あの魂"のことを説明する。そして、これから幸せにするんだと瞳を輝かせ身振り手振りを交えて力説する姿はやる気に満ちている。


だが、地球で悲しい思いをした魂がこの星で輪廻を繰り返しているのだと聞かされた竜王はかなり不審げな表情で末っ子をチラリと見る。


「そんなことあるかぁ?」


「ほんとでしゅ!いまみせまちゅ」


ちょっと懐疑的な竜王にプンプン怒ってからモニターに近づき何かを準備し始めた末っ子。


そして…見せてはいけないものを見せてしまった。


竜王とフェンリル一族、そしてなぜが周囲に集まってきていたドラゴン達は観てしまった。

アレを―


「うおぉぉぉぉ・・・こ、こんな悲しい最期があるのかっ」


「うえぇ〜ん…ぱとらっちゅーーー」


「ウォォォ〜ン」


アニメを見終わりドラゴンもフェンリルも揃って大号泣。ついでに、ザマちゃんも二度目の大号泣。今日は周りに顔を拭いてくれる人がいないので涙と鼻水で顔がグシュグシュだ。


割と情に脆い竜王などは、恥ずかしげもなくその大きな瞳からダバダバと大量の涙を流して、おいおいと大声で泣いてる。

フェンリル達もウォーンウォーンと遠吠えの様な独特の泣き声をあげ続ける。


収拾のつかない事態に陥っていたが、竜王が涙を拭いもせずに何かを決意した目で立ち上がった。


「間違いない"あの魂"だ!オレにはわかるっ!あれ程特殊な存在であることも納得した」


『ああ、間違いないな。特殊な魂だからこそフェンリルの血が強く反応したと考えれば合点がいく。しかもあれ程の絆…何度生まれ変わっても魂が惹かれ合うのだろうな』


仲間意識の特に強い種族であるフェンリルの長も潤んだ目で"あの魂"に間違いないと断定した。


「よし、なんとしても彼らを幸せにするぞ。さっきの過去映像でも随分と周りの者達から虐げられていたな。今回の件だってチビ神が助けなきゃあ命を失っていたところだ。あの者達を許す訳にはいかねーな」


『竜王殿。天界の生まれでなくともフェンリルはみな家族。我々も手伝うぞ』


「ヒック…わるいひとたちにめーってしましゅ」


「俺たちもやるぜ!なぁ皆んな」


「「「おぉー!もちろんだ」」」


「「「ウォーーン」」」



その後、彼等は盛り上がりに盛り上がって冒頭の状態となったのである。


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