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【連載版】ざまぁの神様は可愛い末っ子  作者: 小内 ゆずか
第2章 テイマーさんとワンちゃんを助けるでしゅ
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16 胸騒ぎと大騒ぎ

◇アザレア街の宿屋にて―


時は少し遡る。


冒険者パーティー『蒼穹(そうきゅう)』は森から戻ると直ぐにギルドの調査を開始した。夕食後、各自が得た情報を共有しようと宿屋の一室に集まったが、皆の顔は険しい。


「オレ6人から話しを聞いたけど全員Cランクだって。どうみてもEランク程度の実力しかなさそうなのに変だろ?」


「こっちもだ」


「私の方もよ。ゴロツキみたいなのまで全員よ」


彼らが聞き込みをした冒険者は全員Cランク。

冒険者の多くはDランクで引退する。Cランクからは上位冒険者と呼ばれ、全体の二割程と人数も少なく狭き門となっている。それを考えると、この街のランク割合は明らかに異常だ。


「昇給審査で賄賂でも貰ってるのかな?」


「でも、実力を伴わないランクじゃあ依頼を受けても危険なだけだろ」


「それがさぁ、このギルドの依頼すげぇんだぜ。討伐依頼はぜ〜んぶC!魔物が強くても弱くてもC!寄ってらっしゃい見てらっしゃいCランク依頼の大安売りだー!」


「おいおい、そんなことあるのか⁈」


「さらにっ!!不思議な事に高ランク魔物の討伐依頼は一件もありませ〜ん」


「はぁ〜?ここ魔獣の森の隣だぞ」


その情報に一同空いた口が塞がらない。

異常どころじゃ無い。この街が無事に存続しているのが奇跡だ。


「勘弁してくれよぉ。高ランク魔物は放置か?」


「いや。一人だけBランク冒険者がいるらしいんだ。オレ達が行方を探してたテイマーなんだけど、高ランク魔物の討伐はすべてそいつが請け負ってたみたい」


「でも討伐依頼が出てないんだろう?」


「それがさぁ、全て緊急指名依頼らしいんだ」


「「「はぁ?」」」


「それって街存続の危機とか、相当の緊急時でなければ出されないわよね。この国で最近出たなんて聞いてないわよ」


「ああ。それに危機的状況から街を救う、つまり自分達の為でもあるから依頼料もごく僅かなはずだ。そのBランク冒険者って何か弱みでも握られてたのか?」


「わかんない。ただ誰に聞いても、そいつの事を馬鹿にしていたな」


「まぁテイマーだからな」


「前から思っていたんだけど、なんでテイマーってあんなに街の人から馬鹿にされてるのかしら。凄い能力だと思うんだけど」


「テイマーはスライムを使ったゴミ処理係って認識だからな。皆んな見下してるのさ」


「でも、そいつが一人で高ランク魔物を処理してたからこそ街が無事なんだろ?実際、Aランクの三つ目熊を二頭倒せる程の実力者なわけだし…」


「その件もよく分からないのよね。冒険者達の言っている事もめちゃくちゃだし。熊を倒したのはそのテイマーだとしても、あの3人に大怪我させたのも彼みたいなのよね」


「熊の素材を剥ぎに行った連中はエルフに襲われたとか訳の分からない事を言って逃げ帰って来たし、その件も調べてみないとな」


ひとしきり正体不明なテイマーの話題で脱線したが、このギルドが問題だらけである事は確実なようだと結論付けた。



「まぁ、そいつのことは一先ず置いといて、このギルドのことだな。リーダーこの後どう動く?」


「…明日、ギルドの強制捜索をしようと思う」


メンバーの問いかけにアクシスはきっぱりと答えた。その瞳には焦りに似た何かが見え隠れしている。


「明日っ⁈急過ぎないか?」


「いや、急いだ方がいい。俺の勘みたいなもので申し訳ないんだが、急がないと手遅れになるって頭の中で警鐘が鳴り止まないんだ」


「……わかった。アクシスの勘は特別だからな。実は俺もなんだかソワソワして落ち着かない気分なんだ」


「決まりね、じゃあ急いで準備しましょう」


こうして明日、ギルドへの立ち入り調査が決行される事となった。迫り来る"何か"に間に合うのか…それは神のみぞ知る。




◇「ざまぁの神様」の神殿―


迷い魂を届けに行った末っ子を見送った面々はそのまま神殿に残っていた。


何故かエルフの里にまで行ってしまった末っ子の様子をモニター越しに見守っていたが、天界に戻ったのを確認し、やっとひと息ついてお茶を飲んでいる。


「ふぅぅ、ようやく戻ったようじゃな。こちらに来ないのをみると、フェンリルの住処(すみか)で遊んでおるのか?こんなに心配させて困ったもんじゃ」


「見ているだけでこんなに疲れたのは初めてよ。モニターに向かって叫んだのも初めての経験だわ…」


向こうに聞こえる筈もないのに、モニターに向かって話しかけたり怒ったりと大忙しだった面々。揃ってお疲れ顔だ。


「そもそも風の神兄さんが付いていながらザマちゃんをあんな目に合わせたのが悪いんです。帰って来たら文句言ってやりますからねっ!」


「そうね!私達がこんなに疲れてるのは全部風の神のせいだわ」


激甘クッキーをボリボリと食べながら、風の神が悪い、自分達が疲れてるのは全部風の神のせいだと盛り上がっていく。


そんな中、渦中の神が姿を現した。登場のベストタイミングを逃さない事に燃えている創造神のような完璧なタイミングだ。


「ただいまー。ザマちゃんったら僕達のこと忘れてって……ど、どうしたんだい?そんな怖い顔して…」


一斉に神達からギロリと睨みつけられた。

その後は当然のことながら袋叩き…もとい、大人のお話し合いの時間。

なんの嫌がらせなのか風の神自慢のサラサラヘアがアフロになってるっ!誰の仕業だ?本人にも気付かれずしれっと行われたそれはまさに神技!!


皆の猛攻撃にたじろぎながらも、風の神にだって言い分がある。かなり逃げ腰なのがちょっと情けないが頑張って言い返す。


「行ったのが僕じゃなければ、あんなに早く彼等を見つけ出せなかっただろ。あの広い森だよ、そんなこと出来る神は数柱だけ…僕、頑張ったと思わないかい?」


「まぁそうなんだけど…」


攻撃が少しトーンダウンしてきたぞ。

それを見逃さずさっさと話題を変えようとするアフロの神。これ以上責められたら堪らない。


「そ、それよりも、彼等のステータスを見たかい?」


……


……


「言うなーーっ!!」


「見なかった振りしてたのにーーっ!」


「いやぁぁぁぁ〜」


「ワシは知らん。知らんったら知らん!」


一瞬の静寂のあとの絶叫!

暗黙の了解で誰も口にしなかったのに…風の神が空気を読まずぶち込んできた。


モニター越しに彼等のステータスを見た神達は、あまりの衝撃に現実逃避していたのだ。


それまで心に溜めていたのが爆発したのか、皆が堰を切ったように一斉に喋り始めた。ストレスを感じたり不安な時ほどお喋りが止まらなくなるのは人も神も同じ。


「お、同じ名前だったのよぉぉ!あのアニメとっ!」


「あいつのステータスも異常すぎっ!所有スキル7個だとぉ?あんな人間がいるのをなんで神が把握してないんだっ!」


「なぜ下界にフェンリルの幼体がいるんじゃ?」


「何が起きてるんですかね…。ぼ、僕ちょっと怖いです」


「真実の神を呼ぼう!彼ならきっと全てが分かるはずだ」


「ダメよっ!私たちが嘘をついた事もバレるもの。そしたらあの極寒の微笑みで心が折れるまで説教されるのよ。そんなのいやぁ〜〜」


「うふふ、神の理解を超える神。やっぱりザマちゃんは凄いのですわ。そんなところも尊い…」


誰かに聞かせたいのでは無い。各自好き勝手に話し続ける様子はまさにカオス。まぁ、ひとり狂信者が混じっているがいつもの事なのでスルーする。


……


ザワザワと好き勝手に話していた神達だが、突然、計ったかのように会話が途切れた。誰かが合図した訳でもないのに何故か一瞬の静寂が生まれるあの現象。


地球では「天使が通った」と言われる現象なのだが、そんなこと知ってか知らずか風の神の声が静寂を破る。


「そうそう、助けに駆けつけた時なんだけど、狼を抱えて倒れている青年の上に浮かぶザマちゃんの姿がね…あのアニメのラストシーンにそっくりだったよ。ザマちゃんに羽が生えていたら完璧だったんだけどねぇ。ははは」


「「「……!!!」」」


皆、息をする事さえ忘れたかのように凍りついた。


(やはり…)

一同の胸に浮かぶのは同じ言葉。


背中がぞわぞわする。神として生きてきた長い時間で経験したことの無い感覚。その居心地の悪さに長い沈黙が続いたが、それは意外な所から破られることになる。


血相を変えた羅針盤の神が移転してきたのだ。


彼女は下界から姿を消した末っ子がなかなか帰って来ないからと迎えに行ったはずだが、何があったのか走った訳でもないのに大きく息を乱している。


「みんなっ、たいへんよー!ザマちゃんがっ大変なのっ!」


「ザマちゃんに何かあったんですのっ⁈」


ザマちゃんの身に何か起きたのかと、詰め寄る美の神を押し退けて彼女はさらに叫んだ。


「ザマちゃんがっ…ドラゴンとフェンリルと一緒に決起集会を開いてるのっ!」


「「「「「はぁ〜?」」」」」


決起集会???


本当に何がどうなってる⁈

ポカーンと口を開ける者、頭を抱え天を仰ぐ者、白目を剥いたちょっと怖い者までいるが、この怒涛の展開についていける者は誰もいなかった。


予想の斜めうえを突き進むザマちゃんは、皆にゆっくり考える時間さえ与えずに爆走する…


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