11 助けを求める魂
まじめモード突入です
ザマちゃんが頑張ります!
風の神と末っ子は大きな神殿の前にいた。
二つの神殿を繋ぐ大きなアーチ形の屋根が特徴的な一風変わった建物だ。
「神殿のあいだが門になっているんだ。冥界にはここからしか行けないからね。さあ急ごう。」
風の神はそう言って、アーチの下を進む。
奥は空間が歪んでいて先を見ることは出来ない。末っ子は不安そうな顔をして兄にピトッとくっついている。両手で魂を持っているので兄に抱きつけないのだ。
空間の歪みを通り抜けるとそこは冥界。
「おしょらがむらしゃきでしゅ…」
門の近くにはいくつもの建物。なんとなく天界に似た雰囲気を持つが空気が違う。そして何より違うのは空の色、天界の澄み渡る水色の空ではなく薄紫色の空が広がっていた。
「めずらしい客人だな」
どこから現れたのか目の前に男性が立っていた。
黒髪黒眼で黒を基調とした衣装を纏った落ち着きのある風貌。年齢を重ねた男性の色気さえ感じさせる佇まいは一言で表現するならダンディ。天界の神々には居ないタイプだ。
「兄さん久しぶり。実はこの魂がこの子の所までやって来たんだよ」
風の神が事情を説明するなか、末っ子はいきなり現れた男性をビックリお目目で見つめている。
「兄さんはここから殆ど出ないから、ザマちゃんに会ったこと無かったよね。」
「ああ、直接会うのは初めてだな。死魂の神だ。冥界にいることが多いゆえ会うことは少ないであろうがよろしく頼む」
それを聞いて何故かアワアワした後、末っ子もきちんとご挨拶する。とってもお利口さんだ。
「ざまぁのかみでしゅ!このこをとどけにきたでしゅ。」
何が嬉しかったのか照れた顔でいつも以上にニコニコな末っ子を不思議に思いつつも、魂がよく見えるように末っ子ごと兄の前に差し出す。
「ふむ…。動物の魂が5つ合わさっているな。弱い魂がどうやってここから出られたのか不思議だったが、力を合わせたのか。」
納得顔の死魂の神は二人を促して別の場所へと移転した。
「すごいでしゅ…」
移転した先は、空に届くほど大きな大きな木が佇む静寂の場所。木の周辺にはたくさんの魂の光がフワフワと浮かんでいた。そして地面には無数の光る花が咲いている。
「これは世界樹。疲弊した魂はこの場所で大気に満ちたエネルギーを吸収しながら力を取り戻していくのだ」
「久しぶりに来たけど、ここの空気は重いね。ちょっとツライくらいだよ」
「ああ、大きすぎる力とは時に害にもなるものだからな。末っ子には父が守りを施している様だから問題ないであろう」
そんな二人の会話など全く聴こえていない様子の末っ子。大きな目を更に見開き、ポカンと口を開けてその光景を見つめていた。それは星そのものの力を凝縮したような圧倒的な景色だった。
「おやおやこの場に圧倒されているようだな。さて、その手に持つ魂をここに戻してあげようか」
言葉も出ないのか無言でその手に乗った魂を死魂の神に差し出す末っ子。
「おや?この魂が末っ子に伝えたい事があるようだ。…少し待て…よし、これで聞こえるようになったか」
死魂の神が魂を受け取り、何やら力を使うと魂から小さな声が聴こえてきた。
『助けて。助けて…マスターを助けて…』
その声はとても小さくて、神でさえ耳を澄ましてやっと聞こえるような声。しかし、自身の消滅も厭わぬ程の必死さが伝わってくる魂の叫び。
『助けて…優しいマスター…死んじゃう。…助けて』
やがて、力尽きたのか声は聞こえなくなった。
「たましいしゃんないてたでしゅ。ぼくにたしゅけてって…。どーちたらたしゅけられましゅか?」
「これだけじゃ何もわからないね」
「ふむ…」
末っ子の泣きそうな訴えに、困ったようにつぶやく風の神と何か考え込む死魂の神。
「この魂が死ぬ間際、最後に見た光景を観てみよう。何かわかるかも知れない」
そう言って空中に画像を映し出した。
森の中だろうか血まみれの男性と白い狼が何か叫びながらこちらに向かって来る場面が映った。
映像からは声が聞こえないので何を言っているかはわからないが、悲痛な顔で足を引きずりながらも必死に近づいてくる。
おそらく魂の言っていたマスターだろう。年齢は十代後半ほどか。
その後方には大きな黒い熊と3頭の灰色の狼が見える。いずれも事切れているようで、辺り一面が血まみれの凄惨な光景だ。
と、突然にどこかから飛んできた矢が白い狼に突き刺さり狼が倒れた。そこへ、三人の男達がやってきて笑いながら剣を向けて何か喋っている。そして男は倒れている狼に剣を振り上げた。
マスターらしき男性はその剣から庇うように白い狼に覆い被さった。切りつけた男はそれを見ておかしそうに笑いながら何か言っている。
ふと、何かに気付いたのか別の男がこちらを振り返る。そしてこちらに向けて矢を放った…。
映像が途切れる直前に見えたのは愉悦に歪む男の顔だった。
……。
しばらく誰も声を出せなかった。
弓矢に打たれたこの魂の衝撃と無念が自分の身に起きたことのように身体が動かなかった…。
「魔獣と戦って大怪我したところを男達に襲われたのかな。この魂も怪我で動けなかったんだろうね。悔しかったろうね…」
誰に言うでも無くそう呟いた風の神は、ショッキングな映像に泣いているであろう末っ子の顔を見た。
しかし、その瞳に涙はなかった―
そこには怒りに身を震わせる小さな神がいた。
「ばしょわかりましゅか?」
「いやいや、行ってももう間に合わないよ」
「いくでしゅ!」
決意に満ちたその目は何を言っても聞きそうにない。困った風の神は助けを求めるように死魂の神を見ると、顎に手をあてて何か考え込んでいるようだ。
「…間を置かずに彼らが亡くなっていたとしたら、当然魂はここに来る。が、この魂が消滅を覚悟のうえで助けを求めたということは彼らは死んではいないのだろう。風の神よこの小さき神と共に下界へ行ってやれ」
「いそぐでしゅ」
死魂の神の言葉に一瞬虚を突かれたような顔を浮かべたが、末っ子を抱き上げて声をかける。
「場所は魔獣の森だね。行こう」




