プロローグ1〜新たな神の誕生〜
「ざまぁの神様」の誕生のお話しです。
天界に住む神様達のドタバタをお楽しみください。
ここは天界―
神々が住まう聖域である。
色とりどりの花が咲き乱れ、光り輝く美しき場所には神の数と同じだけの神殿がある。
その中心にあるのは天界で最も巨大で荘厳な神殿。ここは全ての神の父である創造神の住まいであり、この星の中心。
普段は静穏なこの神殿だが、今日はいつもと様子が違う。
百を超える神々が祭壇の前に集い騒めいていた。
「随分たくさんの神が集まったな」
「500年振りの神誕生の儀だからな」
「何の神かしら。楽しみ~」
近くにいる神たちと話す者や目を瞑ってじっと待つ者、皆が新しい神の誕生を待ちわびている。
そんな騒めきと期待のなか、創造神が閉じていた瞳を開き厳かに告げる。
「皆、静粛に。
新たなる神の誕生だ。」
創造神が祭壇に両手を掲げると、騒めきが消えて祭壇に視線が集まる。
祭壇上に浮かぶ小さな光。
厳粛な空気の中、その光から金色の霧がもやもやっと溢れて丸い形を作ってゆく。
1メートル程の大きさになると、少しずつ金色の霧が薄れて人影が見えてきた。
神の誕生だ!
「…」
「…」
おや?この星にとっての最大の慶事である神の誕生だというのに何かがおかしい…
集まった神々は目を飛び出るほどに見開いて祭壇上に浮かぶ新しい神を見ている。ポカンと口開けてだらしない顔になっている神までいる。
世にも珍しい神々の驚愕顔。
「ちっちゃくね…」
驚愕による静寂を破り、誰かがつぶやいた。
「ありえない…」
「…どういうこと?」
神々のざわめきは広がる。
そう、ありえないのだ。
神とは生まれた瞬間から神。すなわち外見も中身も完成された存在であるはずだ。
なのに祭壇に浮かぶのは、人間でいえば2~3歳くらいの男の子。ふくふくほっぺにぷにぷにの短い手足。
威厳とは程遠いその外見は、神としての職務をこなせるようには見えない。ましてや人々からの信仰を集められるとは思えない。
そして何より神々を混乱させたのは、この神が司るもの…
神は相手を見れば、何者であるかが分かる。
分かるのだが、この新しい神が司るものが何を示すのか誰も分からない。
「ざまぁって…何?」
「何をする神なの?」
頭をフル回転させるも答えに辿り着けない。
神の常識を突き抜けた存在に、絶賛大混乱中である。
一方、祭壇上では生まれた瞬間から周囲を大混乱に陥れている当時者である小さな神が、長いまつ毛に縁どられた瞳をゆっくりと開いた。
澄んだ湖のような美しい色のくりっくりの瞳でゆっくりと周囲を見渡し、最後に創造神を見つめる。
「…おとうしゃま?」
小首を傾げて問いかけるあどけない美幼児。
ずっきゅーん
一瞬で創造神の心を虜にした……かどうかは不明だが、いつも威厳に満ちている創造神の顔が崩れた。
しかし、そこは全ての神々の父であるから一瞬で口元を引き締めて威厳顔を取り戻す。
もっとも、神の目は誤魔化せなかったようだが…。
「親父がデレた…」
「シっ、見なかったフリしなさい。ああ見えて父の威厳とか気にしてるんだから」
コソコソと囁きあっているが丸聞こえ。
「コホン…あー改めて皆に紹介する。主に人族からの願いにより新たに誕生した『ざまぁの神』だ。理不尽を諭す神と言えば分かりやすいかの」
何事も無かったように新しい神の紹介をする創造神。さすが神の中の神。
「『ざまぁの神』よ、そなたの兄弟神達だ。挨拶しなさい」
「にぃにとねぇね?」
再びコテンと首を傾げて不思議そうな顔で集まった神達を見渡す幼児。
ずっきゅーん♡
創造神に続き、何かに撃ち抜かれた神が続出。
デレデレ顔になった神が約三割に増加した。かなりの命中率だ。
だが、狙撃手は追撃の手を緩めない。
「『ざまぁのかみ』でしゅ。よーしくおねがいしましゅ」
幼児特有舌ったらずの挨拶に、トドメはきらっきらの笑顔でペコリ。
ずっきゅーん♡
ずっきゅーん♡
ずっきゅーん♡
命中率100%達成。全ての神をその可愛さの虜にしたようだ。本当の可愛さとは全てを撃ち抜く凶器なのかもしれない…。
もっとも、この命中率100%には理由がある。
創造神がこの星を創り数万年。天界には幼児どころか子供さえいなかった故に、幼児の笑顔という最終兵器への免疫が皆無だったのだ。
次々に生まれる弟神や妹神も、自分よりも年老いた姿で生まれてきたりするのが当たり前。
今まで経験した事のない可愛さ激盛りの幼児ビームに勝てるはずなど無い。
ビームに当てられた重症者の中には額に手をあてて「尊い…」と呟きながらクラクラになっているちょっと危ないものまでいる…。
そこまでいかないまでも、皆もれなくデレ顔。
儀式の厳粛な空気は吹き飛んでいたが、創造神が威厳ある一声でその場を引き締めた。
「これにて神誕生の儀を終わる。
見てのとおり新たな神は幼い。皆は新たな神の見本となり手助けをするように。」
「「「承知いたしました」」」
こうして神誕生の儀は終了した。
皆そろって神殿の外に出た。
なお、創造神はちゃっかりと『ざまぁの神』を抱っこしており、一部の神からジト目でみられているが素知らぬ顔だ。
「さて、『ざまぁの神』よ、そなたの住まう神殿を用意しよう。場所はどこにしようかのう」
とたんに、シュタッと神々が2柱の周りを取り囲んだ。
「はい、はい。私の神殿の隣がいいと思います!」
「抜け駆けは許しませんわ。わたくしの神殿の近くの方が落ち着けるに決まってますわ。」
「いやいや。男の子の神だから同じ男のオレの隣の方がいいぜ。」
神殿を建てるのは自分の隣が一番だと、次々に神達が参戦し論争が激化していく。神としてあるまじき見苦しさだ。
しばらくそれを眺めていた創造神だが、溜息を付きつつ強権を発動した。
「はぁぁ〜、くだらぬ争いはやめんか!
『ざまぁの神』の神殿は我の神殿の隣とする。反論は許さぬ!」
「えっ!」
「マジ?」
一同、反論では無く驚愕した。
創造神の神殿とはこの星の中心、いわば核となる特別な場所。
その創造神の神殿を取り囲むように、最初に生まれた原初の8柱の神の神殿あり、原則として生まれた順に中心から遠ざかって建てられていく作りになっている。
もっとも、隣とは言っても神基準。お隣さんの神殿同士が見えない距離であったりするのだが…。
いずれにしても、原初の神々と同位置に神殿を造るなんてあり得ない。神にも序列はあるのだから。
(新しい神には何か秘密あるのか?)
(可愛いから近くにいて欲しいだけじゃない?)
(いやいや。原初の神と同列はあり得ないでしょう)
神々はお互いを見ながら目線だけで会話をしていた。
そんな者達をまるっと無視して『ざまぁの神』を抱っこした創造神は話しを進めていく。
「よし。この辺りに建てるかの。どんな神殿がいいか希望はあるか?」
「んーっとぉ……かわいいおいろでぇ、しゅべりだいもほしいでしゅ!」
示されたのは創造神の神殿の真横。その距離は500m程しか離れていない。原初の神の神殿でさえ5kmは離れているのに…。
「なっ…。」
「…。」
神々は目を見開き、再びフリーズした。
一方、創造神も『ざまぁの神』の無理難題にフリーズ中。神殿と可愛いは通常は同列に並ぶ事のない言葉だ。しかも滑り台付きときた…
創造神にとってさえ、かつてない程の最高難易度の注文だった。
皆がフリーズする中、平常運転なのは自分のお家が出来るのをワクワクしながら待っている『ざまぁの神』だけ。
超大型新神は最強なのである。
その後フリーズ解除された神々が案を出し合って『ざまぁの神』の神殿がなんとか完成した。
完成まで3日。
一瞬で建物を建てられる神なのに…お題は難しかった…。
巨大で荘厳な創造神の隣にあるのは、それをミニマムにしたそっくりな形の神殿。本来ならサイズ感はともかく荘厳なはずだがまったく違う建物に見える。
一言でいい表すなら『ラブリー♡』だろうか…。
ちなみに最後のリーは上がってるやつだ。
パルテノンな柱はそれぞれ色が違う。しかし、同一色調のパステルカラーなので統一感ある仕上がりとなっている。
これだけでも相当に試行錯誤したであろう神々の苦心が窺われる。
次に建物をいろどる緻密な彫刻。
本家の神殿は複雑に絡み合う蔦やドラゴンやグリフォンやユニコーンなどが、ため息が溢れるような美しさで彫られている。
一方、ラブリー神殿には可愛いお花や可愛いウサギさんや可愛いリスさん達が彫られている。気づいただろうか、すべて形容詞は『可愛い』だ!
そして最大の見どころは、柱を縫うようにくねくねしている滑り台。もちろんパステル色で可愛い動物さん彫刻付き。
普通の人間が見たらその荘厳さと美しさに感動して涙が止まらなくなる程の建築物であるはずの創造神の神殿。
だが、その神殿よりも目を引いてしまう罪深い隣のラブリー神殿……。
「…これは、ありなのか?」
「神の威厳が…」
神々は微妙な心持ちでラブリー神殿を見つめていた…。
それでも最後には、神殿の主が「すごいでしゅー」と大喜びで滑り台で遊んでいるのを見て、まぁいいかと自分を納得させたのだった。
本日は23時にもう1話投稿予定です。