第七話
目の前には、刀を持っている黒髪ロングの正統派美人。しかし霊術という名の超能力を使う普通じゃない人間だ。まぁ普通じゃないって言っちゃえば、そもそも僕っていう存在がおかしいんだけどね。
背後に雪を控えさせ、僕は少女に向けて薄ら笑いを浮かべた。少女は高確率で国家機関に所属している霊術師だ。おそらくこの土地を任されている支部の構成員だろう。身バレを案じるのであれば、この場はさっさと退散したほうが良いだろう。
しかしそれは僕の感情が許さない。普通の人間であれば愚かな選択だが、あいにくと僕は多次元宇宙の中でも最強格に位置する邪神だ。身バレしたのならそのことを喋れなくすれば良いだけの話だし、最悪の場合は抹殺してしまえばいいのだから。
「キミだよね?さっきまで彼女の戦いを覗いていたのは。別に迷惑を被ったってわけじゃないんだけど、いちいち監視されるのはさ……なんというか、鬱陶しいんだよね。」
ほんの少しだけ威圧を放ちつつも、僕は諭すように優しく喋る。威圧の加減をうっかり間違えると、一瞬で廃人になっちゃうからかなり気をつけないといけないんだよね。前に少し威圧を上げただけだと思ったら、一瞬で精神が崩壊したりしたこともあったからさ。事後処理で精神を治すのがめんどくさくてしょうがなかったから、今後はものすごく気をつけようって思ったよ。
黒髪の美少女は一瞬だけビクリと身体を震わせたが、すぐに僕のほうに向き直る。そして2、3度深呼吸を繰り返すと、ゆっくりと口を開いた。
「貴方がたは何者ですか?それだけの力を持っているのなら、国家機関である私たちもその情報を知っているはずです。ですが私は貴方たちのような絶大な力を持つ者がこの街に入ったことを知らなかった。これは貴方たちが退魔師として登録していないことを意味します。お話をお聞きしたいので、支部までついてきてもらうことはできますか?」
できるだけ友好的な態度を取ろうと、にこやかに右手を差し出してくるが、敵対的な意識がまったく隠れていない。僕たちが感じ取れないとでも思ったのかね?まぁどっちでもいっか。どっちにしろついては行かなかったしね。
「残念だけど、それは難しいね。僕たちは訳あって、あまり人に知られてはいけない立場の人間なんだ。だから今日の出来事は忘れて、僕たちを見逃してもらうことはできないかな?」
少女の纏う雰囲気が穏やかなものから、殺気の混じった敵意へと変貌していく。それを感じ取った雪が黒刀の柄へ手を掛けるが、僕はそれを手で制止する。少女は剣を鞘から抜いて、僕にその切っ先を向けた。
「はぁ、仕方ないですね。私も本当はこうしたくなかったんですけど、従ってくれないのなら実力行使をするしかありません。恨むなら、この選択を選んだ過去の自分を恨んでください……はぁ、夕方に会っためっちゃ強い2人は従ってくれたのに。」
僕らに聞こえないようボソリとつぶやいたつもりなのであろうが、しっかりと聞き取れた最後の一言。やっぱり勇者くんたちは遭遇したみたいだね。しかしそんなことをのんきに考えていられる暇はない。
少女の周囲に霊力が集まっていく。霊力はやがてバチバチと音を立てて、まばゆい光を放つ稲妻へと変化していった。瞬間、衝撃波とともに轟音が鳴り響く。
それは雷をまとい僕に対して振り下ろされた少女の刀を、雪が黒刀で防いで発生した音だ。交差される刀の向こう側から、純黒の瞳が僕を射抜く。だがあくまであちらが見えているのは、人型の靄のようなものだ。
少女は力尽くで黒刀ごと押し潰そうとするが、雪の腕は微塵も動かない。僕の横に立っている雪に顔を向けると、鋭い目線を少女に向けていた。うーん、これはかなり怒っているね。
「うっとうしいから、叩き潰してくれるかな?」
「はっ、かしこまりました…主様。」
僕の言葉に即答する雪。次の瞬間、少女が吹き飛ばされた。雪が黒刀を振るったのである。巻き上がる土煙の中へと、躊躇うことなく駆け出していく雪。
これで死んだらどうするのかって?ハハッ、そんな生ぬるい考えを残念ながら僕は所持していないんだ。だってさ、敵対しているヤツの生死なんてどうでも良くないかな?
そんなことより、僕はこっちを対処しないとね。視線を向けるのは、数百メートル以上先にあるビルの屋上。この闇の中だと常人の瞳には姿を捉えることはできないだろうが、僕の視界にはこちらにスナイパーの銃口を向けている少女がいた。
「雪が戦ってる間にちゃちゃっと済ませてしまおうか。自分だけ安全圏から狙撃なんてことは気に食わないし、少し怖い思いをしてもらうとしよう。運が悪ければ死ぬことになるだろうけど。」
霊力を人差し指の先っちょに集約させていく。風が唸りだし、空間が悲鳴をあげるように軋みだす。
「それじゃあ……ドンッ。」
弾丸のように圧縮された霊力を、そんなかけ声とともに放出する。ソレは僕が指差す方向へと飛んでいき……ビルの中央右を穿ち、空へと昇っていった。
崩落するビルとスナイパーの姿が見えなくなったことに満足して、僕は再び雪のほうへと目を戻した。




