第六話
この世界には霊力というエネルギーが存在している。霊力を持つ人間はそれらは各国政府によって秘匿されており、一般人のほとんどは超常の力が存在することを知らないようになっていた。そして一般人ではない霊力の存在を知っている存在は、ほとんどが国家機関や古くから続く名家に所属している。
霊力は霊術と呼ばれる超能力のような力を使うために必要な能力だ。霊術は一般人が扱える力の範疇を大きく飛び越えている。そんな霊術師たちが集まっている理由が分かるだろうか。犯罪を起こさせないため…それもあるだろう。
しかし根本的なものではない。霊術師たちが集まる理由…それは怪魔と呼ばれる存在を倒すためだ。怪魔とは、この世界に存在する人間の敵対生物のようなものだ。怪魔は人を簡単に殺せる力を持っており、そんな怪魔を倒せるのは霊術師の他に存在しない。
そんな怪魔だが、霊術師が単独で倒せるモノや複数人でないと倒せないモノ、国家の総力で挑んで封印がようやくはモノなど強さの振れ幅がとても大きい。それゆえどれだけ強大な怪魔が来たとしても対応できるように、政府は国家機関を作ったのだ。
そして国家機関に所属していない日本の霊術師の大半は、古くから退魔(怪魔を殺すことの名称)を行っている家に仕えている。その中でも最上位に位置する家が御三家と呼ばれる家…一条家、芦屋家、藤原家だ。
この家の当主たちはこの世界の中でも、最強格に位置するほどの実力者だ。それこそ勇者くんや魔王ちゃんとも引けを取らない…いや、一点を見れば勝っているかもしれないほどである。
まぁ説明はこれくらいでいいだろう。さて、そろそろ現実を見たいと思う。僕の目の前では、体長5メートルほどの鬼のような怪魔が四肢を失った状態で倒れ伏していた。しかしさすがは怪魔、それくらいでは生命力が尽きることはない。
そんな苦しみの中で死ぬことができない鬼の怪魔は、出会った当初に見せていた笑みを消し去って、この世に絶望したかのような表情をしていた。先に言っておくと、このような惨いことをしたのは僕じゃない。僕だと思われていたのなら心外だ。邪神だけど、最低限の良心は持ってるからさ。
絶望させる側であるはずの鬼の怪魔をここまで絶望させたのは、鬼の首に向かって刀を振り下ろそうとしている雪である。ヒュン、と路地裏に音が響き渡る。それは雪が刀を振るった音、つまり鬼の首が落とされたのである。
鬼の首がずれ落ちると、地面を朱に染め上げていた血と斬り刻まれた肉体が消失していく。血や肉が消えるのは怪魔が死んだことの証明。つまりこの鬼はようやく死ぬことができたのだ。
カチンと音を立てて、刀を鞘にしまう雪。その身体や服には、あれだけのことをしたのに返り血が一切付着しておらず、雪の技量の高さがより実感できた。だけどさぁ、雪ってこんなに強かったっけ?
なんか僕が見ていない間にめちゃくちゃ成長してるんだけど。三年前はこんなに上手に力を扱えてなかったはずだ。相当な鍛錬を積んだであろうことはよく分かる。
「来栖様、おそらく他に敵はおりません。」
コクリと頷いて、こちらを観察している誰かに視線を向ける。その視線の主の正体に関しては、おそらく国家機関のほうだろう。僕たちの顔とかは判別できていないはずだけど、それでもこの僕の使徒である雪の戦いを観察するのは頂けない。
ただ僕の感情が許さないだけだが、理由としてはそれだけで充分だ。しかし相手の気配が動くことはない。こちらがハッタリを言っている可能性も想定しているからだろう。仕方ない、こちらから動くしかないか。
地面から小石を一つ拾い、デコピンの要領で気配のある位置に向かって放つ。パァンとデコピンでおきるとは思えない音が鳴るが、小石には霊力を付与しているので砕け散ることはない。
僕が放った小石はダイヤモンド並みの硬さを持っており、音速並みの速さで気配のもとへと突っ込んでいった。下手したら死人が出るかもしれないほどの威力だが、国家機関の人間がこの程度では死なない実力の持ち主だと思いたい。
轟音が鳴り響き煙が昇る場所から、黒髪黒目の和風ファンタジーで登場してきそうな美少女が出てくる。その少女は腰に刀を携えており、それは僕が雪に与えた黒刀には及ばないまでも、人間が造ったにしては素晴らしい出来であった。
その美少女は何が起きたのか理解しておらず、困惑した表情で煙から抜け出したようで、煙から抜けた先に僕と雪が待っているとは思っていなかったようである。そのため僕たちの姿が見えた瞬間、驚愕に顔を染めた。
僕は両手を広げ、満面の笑みで彼らを迎え入れた。




