第三話
数学でメンタルをボコボコにされたことで、ほとんどの生徒に眠気は残っていない。そんな状態で行うのは、球技大会の練習だ。今朝、僕が家へと戻った理由でもある。
男子が行う競技はサッカーとバスケ、女子はバスケとバレーである。ちなみに僕が参加する競技はバスケだ。なぜバスケに参加したのか。それは単純にバスケが屋内で行われるからだ。
邪神なのに太陽光なんか気にするなって?いや、外って暑いじゃん。それに比べて屋内は冷房とかが効いてるから、必然的に屋内を選んじゃうよね。風邪とかは引かないけどさ、別に暑い寒いとかがなくなるわけじゃないんだよね。一応体温調節とかもできるけど、真夏とかに一切汗をかかなかったらおかしいでしょ?
ちなみに言っておくと、バスケ部はバスケに参加できずサッカーに、サッカー部はバスケに…といった感じである程度制限が入っている。その他の部活の運動神経が良い男子は基本的にサッカーのほうに行ってしまった。たぶんサッカーのほうがモテやすいとでも思っているのだろう。
だがしかし僕はこう考えた。バレーもバスケも体育館内で行われるのだから、どちらかというと女子が多く観戦するのはバスケじゃないかな…と。まぁ僕からしたらどっちでもいいのだが。ちなみに勇者くんもバスケのほうに入っているので、無双してくれることだろうと僕は思う。
そんなことを考えながら、僕はシュートの練習をする。スリーポイントラインからシュートを放つが、当然のように入らない…なんてことはなくボールはリングに吸い込まれていった。まぁこれで入らなかったら、ショックで一カ月くらい寝込んでいたと思う。
この身体は僕が創った肉体だ。下界…つまり人間の暮らす世界…で生きる時ように創ったのだが、かなり高性能になってしまったのだ。さすがは僕と褒め称えたいところをなんとか抑えて、この身体が保有する人間離れした性能を封印している。
まぁそれでも高校生にしては破格の身体能力を持っているのだが。そんなわけで僕からしたらスリーポイントシュートはフリースローと大して変わらないのである。しかしそんな僕の事情をクラスメイトたちが知っているわけがなく、おぉーと驚きの声を発して拍手を送ってくる。まぁ悪い気はしないね!!
ある程度の動きの確認を終えて、体育館の端っこに座り込む。そんな僕に近づいてくる人が一人。その生徒はクラスカーストの最上位層にいる男子…裡吹海斗だ。リア充の権化である裡吹が、男子のほとんどが希望したサッカーに参加しなかったの理由…それは彼がサッカー部だからだ。
もし裡吹がサッカーに参加していたとしたら、ほとんどの確率で無双が始まるだろう。そう、勇者くんが現代ファンタジー系統の主人公だとしたら、裡吹くんはラブコメ系統の主人公なのである。
馬鹿みたいなことを考えているが、今の僕の表情はポーカーフェイス。感情を映さない絶対零度の瞳に、微塵もつり上がっていない口角…そんな冷徹の極みみたいな顔をしているはずだ。
僕があなたになんて微塵も興味ありませんと言わんばかりの表情をしていて、裡吹くんは若干怖気づいたように後ずさる。しかしさすがはラブコメ主人公。迷いを振り払うように首をブンブンと振って、決意のこもった瞳でこちらへと再び歩み寄ってきた。
「神崎くんは練習しないのか?」
ラブコメ主人公くんがわざわざ話しかけてきたと思ったら、案外拍子抜けたことを言ってくるね。でも僕は優しいから許してあげよう。そう、僕は優しいからね。大事なことなので2回言わせてもらったよ。まぁとりあえず無視するのもかわいそうだし、返事はしてあげよう。
「うーん、今日はもう練習をする気はないかな。」
だってやる意味がないからね。どこからシュートを打っても入るのに、わざわざ練習する必要ってあるのかな?ないよね。まぁ口に出したらめんどくさいことになるのは間違いないので言葉にはしないが。
「話はそれだけかい?それなら裡吹くんも練習したほうがいいと思うよ。さっきシュートを撃ってたけど、届いてなかったでしょ?」
そう言って、強制的に話を打ち切る。しかしあれだねぇ。裡吹くんって、だいたいのスポーツができると思ってたんだよなぁ。なにしろラブコメ主人公くんだし。だからさっきボールが、リングに届いてなかった時は驚いたよね。
体育館にある大きな時計に目を向けると、授業が終わる時間に迫っていた。やったね。これが終わったら、家に帰れるよ。
そんなことを考えながら、僕は残りの授業時間を過ごしていたのだった。




