表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/111

第7話「視えない檻」

放課後の校庭。

シンは、人気のない裏門の方へと歩いていく藤村の姿を見つけた。相変わらずの爽やかな笑顔を浮かべていたが、どこか不自然で、演技めいていた。


(……また一人でうろついてる。何なんだ、こいつ)


妙な胸騒ぎがして、シンは藤村のあとをこっそりつけていく。

猫の足音は静かだ。校舎の影から、茂みの中から、じわじわと距離を詰めていく。


藤村は裏手にある古びた倉庫の近くで立ち止まった。誰の目にもつかない、学校でもひときわ人気のない場所だ。


シンが様子を窺っていると、不意に藤村が足を止め、ゆっくりと振り返った。


「……そこにいるんだろ、シン」


――見つかった。

背筋に冷たいものが走る。


「猫のクセに、つけ回すなんてマセたことするね。でも……まあ、そういうとこも面白いよ」


にこりと笑うその顔は、普段の“爽やか男子”そのもの。けれど、笑っているのは口元だけだった。

目の奥はどこまでも冷たく、何も映していない鏡のようだ。


(……なんで俺の名前を……?)


警戒しながら藤村を見つめると、彼はゆっくりとしゃがみ込んだ。


「不思議か? どうして猫になったか、何が起きたのか。知りたいよね?」


(……こいつ、何者だ)


低く唸りそうになる喉を押し殺す。

藤村はそのまま、猫のシンを覗き込んで、ふっと口元だけで笑った。


「そのうち、全部わかるさ。君には“ちゃんと役割”があるんだから」


その言葉には意味があるようで、何の説明もなかった。

ただ、その目の奥に、一瞬だけ――形容しがたい“何か”が潜んでいるような、不穏な空気を感じた。


藤村はくるりと背を向け、校舎の影へと消えていった。


その背中を見送る中で、シンの胸にざらつくような違和感が残った。


(……なんなんだ、あいつは)


校庭を抜ける風が、音もなく冷たく吹き抜けていった。

読んでいただきありがとうございます。

感想やご指摘などありましたらお気軽に頂けますと幸いです。

今後ともよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ