第7話「視えない檻」
放課後の校庭。
シンは、人気のない裏門の方へと歩いていく藤村の姿を見つけた。相変わらずの爽やかな笑顔を浮かべていたが、どこか不自然で、演技めいていた。
(……また一人でうろついてる。何なんだ、こいつ)
妙な胸騒ぎがして、シンは藤村のあとをこっそりつけていく。
猫の足音は静かだ。校舎の影から、茂みの中から、じわじわと距離を詰めていく。
藤村は裏手にある古びた倉庫の近くで立ち止まった。誰の目にもつかない、学校でもひときわ人気のない場所だ。
シンが様子を窺っていると、不意に藤村が足を止め、ゆっくりと振り返った。
「……そこにいるんだろ、シン」
――見つかった。
背筋に冷たいものが走る。
「猫のクセに、つけ回すなんてマセたことするね。でも……まあ、そういうとこも面白いよ」
にこりと笑うその顔は、普段の“爽やか男子”そのもの。けれど、笑っているのは口元だけだった。
目の奥はどこまでも冷たく、何も映していない鏡のようだ。
(……なんで俺の名前を……?)
警戒しながら藤村を見つめると、彼はゆっくりとしゃがみ込んだ。
「不思議か? どうして猫になったか、何が起きたのか。知りたいよね?」
(……こいつ、何者だ)
低く唸りそうになる喉を押し殺す。
藤村はそのまま、猫のシンを覗き込んで、ふっと口元だけで笑った。
「そのうち、全部わかるさ。君には“ちゃんと役割”があるんだから」
その言葉には意味があるようで、何の説明もなかった。
ただ、その目の奥に、一瞬だけ――形容しがたい“何か”が潜んでいるような、不穏な空気を感じた。
藤村はくるりと背を向け、校舎の影へと消えていった。
その背中を見送る中で、シンの胸にざらつくような違和感が残った。
(……なんなんだ、あいつは)
校庭を抜ける風が、音もなく冷たく吹き抜けていった。
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