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第2話 「プライドとパンの耳」

猫になって三日目――

俺は、確信していた。


(このままじゃ、死ぬ)


本能だけじゃ、猫は生きていけない。

都市生活を生き抜くには、戦略が必要だ。頭脳プレイだ。そう、猫も地頭が命。


そして俺は、気づいたのだ。


「かわいいは、武器になる」



最初に試したのは、パン屋の裏口だった。

毎朝、決まった時間に小太りの店員が出てくる。

手にはパンの袋。タイミングを見て、しっぽをピンと立てて駆け寄る。


「にゃあ!」


ちょっと高めのトーンで鳴くのがコツだ。

しっぽを脚に巻きつけると、これが案外ウケる。


「おや、また来たの?今日はチーズパンの耳だよ」


――勝利。


袋の中身は、商品にならなかったパンの端っこ。

焼きたての香り。ほんのりバター。

俺は、プライドをそっと口に押し込んで、むしゃむしゃと食らいついた。



次に目をつけたのは、通学路。

制服姿の女子高生たちは、猫に甘い。とくに、ミニスカと白ソックスのコンボには期待が持てる。


「にゃ~ん……」


ゴロッと道端に転がって腹を見せる。

人間の頃なら絶対にやらなかったが、今の俺には選択肢がない。


「きゃー!見てこの子、おなか見せてる~!」

「え、なにこの媚び方、やば~!」


――褒められてんのか、ディスられてんのか、わからん。


でも、彼女たちはコンビニの袋からちぎったパンの耳や、食べかけのサンドイッチをくれた。

味?うまいに決まってるだろ。

もはや「いただきます」じゃなくて「ありがてぇ……」である。



日が暮れるころ、公園のすみっこで丸くなる。

今日もどうにか、飢えはしのいだ。


猫の本能より先に、知恵と図太さが俺を動かしている。

いや、人間だったときにはなかった強かさかもしれない。


(……俺、だいぶ猫っぽくなってきてない?)


そう思った瞬間、近くの野良猫にシャーッと威嚇された。

こっちは今、自己肯定感上げてんだから邪魔すんなよ。


でも、その猫が食べ物のある場所をチラッと見てから去っていったことを、俺は見逃さなかった。


(……はは、ツンデレかよ)


明日もまた、生き延びよう。

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