プロローグ 猫になった日
以前投稿してたのですが、改めて書き直しました!リメイクです。ご興味ありましたら是非よろしくお願い致します!
教室の窓際、午後の光がじんわりとノートを照らしていた。
数学の授業はすでに頭の上を通り過ぎていて、俺はノートの隅に猫の落書きをしていた。
隣の席には咲良が座っていた。
クラスでもよく笑うタイプで、周りと話すことも多いけれど、俺とはまるで接点がなかった。
話したことなんて、一度もない。
ただ、教科書をめくる手元や、窓の外を見る横顔を、時々ぼんやりと眺めていただけ。
特別な感情があったわけじゃない――
……そう思いたかっただけかもしれない。
*
下校途中、コンビニでおにぎりを買って、駅前の信号を渡ろうとしたときだった。
急ブレーキの音。視界が歪む。
世界が、ぐるりと回転したような感覚。アスファルトが目の前に迫り――そこで、何もかもが途切れた。
*
目を覚ますと、視界が妙に低かった。
アスファルトのヒビが、ありえないほど近くに見える。
「……にゃ?」
漏れた声に、自分が最初に驚いた。
思わず顔を見ようとして、目に映ったのは――細くて毛むくじゃらの、縞模様の前足だった。
(……は?)
思考が止まる。体が震える。心臓がどくどくと小さく鳴っている。
夢じゃない。雨の冷たさも、空腹も、耳に響く車の音も、すべてが“現実”だ。
「にゃあ……っ!」
叫びたかった。でも、それは泣き声にしかならなかった。