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革命の悪役令嬢クリスティーヌ  作者: 涼紀水無月
もういっちょ編
36/40

この国は、どうしてできたのでしょうね

「クリスティーヌ様、前のループでは記憶回復液を二回飲んでるんですよね」

「そうだな。二度目はまるで効力がなく、全く無駄であったが」

「もう、いい加減慣れたらどうですか?」

「慣れるか! バカ者! いや全く、吐き出さなかったあの時のオレに喝采を送りたいくらいだ。よく耐えたな、オレ。さすがである」

「自分で自分のこと、さすが、って言う人、初めて見ました」

「仕方ない。流れる石と書いてさすがなのだから」

「まぁ、いいですけど」

「なんだよ。棘があるなぁ」


 オレがそう言うと、トニーは笑った。ただ、割とどうでもいいことなのだが、さっきからのトニーの笑顔、何か気になる。笑っているのに笑っていないというか……。まぁ、気にするほどのことでもないのだが。


「ところで、これからどうするんですか?」


 トニーは椅子(オレの所有物である)に座り、勝手にポットから紅茶を入れて休憩しやがった。


「おま、何勝手に飲んでんだよ。一言ぐらい言えよ」

「あ、頂いてます」

「事後報告じゃねーか」

「そんなことより、これからですよ、これから。どうするんです? 王子のこと」

「そんなことって……。まぁ、よい。それはだなぁ……」


 オレは起き上がり、そのままベッドの端に腰かけた。


「ま、考えてあるよ。おいおい話す」


 オレは一つ、ビスケットをつまんで口に放り込み、バキバキと音を立てて喰った。




「どうだい? お気に召したかい?」


 お忍びの王子は、試着室に向かってそう声をかけた。返事の代わりに、試着室のドアが開いた。


「はい……。でも、自分には勿体なく、畏れ多いのですが……」


 瑠璃であった。


 赤いイブニングドレスが良く似合っていた。あぁ、本当に綺麗だな……。もちろん前回のループの記憶はある。でも、何度見ても新鮮に、そう思ってしまう。あの時も思った、朝霧に濡れた赤い薔薇を見る思いだった。


「いやいや、とても似合ってるじゃあないか。むしろ、そのドレスの方があなたに着られることによって控えめに見えるくらいさ。うん。サイズもぴったりだね」

「そ、そんな……」


 瑠璃はそれ以上、言葉が出てこない。南十字が瑠璃へと近づく。手から、足から、光の粒子を撒き散らして。そして瑠璃の手を取った。ごく自然な動きで、背中へ手が添えられる。


 それに呼応してオレの体も動いた。瑠璃と王子の間に割って入る。やや瑠璃を突き飛ばし気味に、王子の手を強引に掴んだ。


「あ、あの……! 私……、私、佐反家の令嬢でありまする、クリスティーヌと申します。わ、私の侍女に、ド、ドレスをいただけるのなら、そのご主人様である、こ、この私にも、その……、ドレスを、選んでいただけると、その……、嬉しいナー、なんて、思っちゃったり……」


 ちょっと強引だったか? ちょっと焦りすぎたか? いかんせん、色々と心の動揺が交錯しすぎてしまった。すると、王子は「フッ」と笑った。その笑いは呆れたような、それでいてどこか満足そうな、そんな笑顔だった。


「わかりました。貴女(あなた)のドレス、僕が選ばせていただきます」

「あ……ありがとうございます! 身に余る光栄に何と申し上げてよろしいか……。そうだ! この私、クリスティーヌは名門佐反家の令嬢。お礼をさせていただきとう存じます。先日、海辺の町に別荘を購入致しまして、今度、そこに旅行に参りますの」


 ここで、とっておきの餌を撒く。


「もちろん……、家の者、()()()()()()()を連れて」

「一人残らず……」


 王子がチラッと瑠璃を見た。


「いかがでございますか? もし宜しければ、ドレスのお礼に貴方様をご招待致したいのですけれども……」

「そうですか……。それでは、せっかくのお誘い、お言葉に甘えさせていただきます」


 どうやらオレの獲物は、餌に食らいついたようだ。




 夕方、海風に吹かれたいと思い、バルコニーに出た。するとそこには先客がいた。南十字である。


 バルコニーに両手を置き、水平線に沈みつつある夕日を眺めている。


「蘭太郎さん、」


 ちなみに王子様は今、偽名を使っておられる。そりゃそうだ。南十字蘭丸と名乗ったら、自分が王子であることが一発でバレてしまう。なんせ彼はお忍びなのだ。城の舞踏会で実は王子でした、というストーリーだから仕方がない。


 というわけで、今の彼の名は「南方寺(なんほうじ)蘭太郎(らんたろう)」である。色々とスレスレである。


「あぁ、君か」


 声をかけるまで気づかなかったようだ。純粋に驚いた反応をした。この王子がこういう、人並みな挙動をするのを見るのは、これが初めてだった。


 オレは蘭太郎の隣に並んだ。


「風が出てきましたね」

「うん。すごく気持ちいいね」


 王子は橙色に染まった海を見た。


「海は、初めてですか?」

「うん」

「今までは来られなかったのですか?」

「その発想がそもそもなかった。もっと早くに来れば良かったなぁ。いや、いいもんだね」

「明日、沖に出てみませんこと?」

「沖に?」

「ええ。海に出ると、ここからの眺めとはまた違った景色が見れますわ。私の船で、海に出てみませんこと?」

「それは楽しそうだ。是非、行きたいな」


 オレは盛大な愛想笑いを一発かましてやった。すると、王子自身が風になってしまったのかと思うほどの爽やかな笑顔が返ってきた。


 それからまた二人、しばらく海を眺めた。お互い、明日への思いを巡らしているのだろう。ただ、その思いは別なはずだし、別でなければならない。


「ところで……、この国は、どうしてできたのでしょうね」


 ふとそんなことが、オレの口をついて出た。


「え……?」

「この国の成り立ちです。どんな国にも建国神話がおありでしょう? ですから、この国にもきっとそういった、始まりの物語があるはず。恥ずかしながら私は不勉強なもので、存じあげないのですけれど。蘭太郎様は、ご存知でらっしゃいますか?」


 見ると、王子はオレを見下ろしたまま固まっていた。その表情が、予想以上に辛そうに見えた。慌ててオレは言葉を継いだ。


「あ、あぁ……、ええと……、歴史などと、いつまでも過ぎたことをグダグダ言ってもしょうがありませんですわよね。……失礼。そろそろ肌寒くなってきたので、お(いとま)致します」

「あぁ……、そう……。僕は、もうしばらくここにいるよ」

「そうですか。では……」


 オレはそのまま振り向かず、バルコニーを後にした。


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